凍りつく夜|シロクマ文芸部
熱帯夜のまとわりつくような空気が、ベランダを重く包み込んでいた。
「今日も見事な暑さだな」
暗闇の中で、相棒が忌々しそうに呟く。
「ええ、本当に。主(あるじ)は一向に私の電源を切ってくれませんね」
私は部屋の涼しい特等席から、のんびりと応じた。心地よい冷風を吹き出すたびに、目の前のベッドで横たわる主は「ああ、天国だ……」と幸せそうな吐息を漏らしている。人の役に立っているという実感が、私の胸を誇らしく満たしていた。
「おいおい、お前ばっかり涼しい顔をしていい子ぶるなよ」
相棒は灼熱のベランダで、激しく身を震わせながら愚痴をこぼした。
「お前が部屋の中で天国を作れるのは、俺がこの外で、お前から回ってくる熱を必死に外へ吐き出しているからなんだぞ。ファンを回しすぎて、こっちはもう限界突破だ」
「わかっていますよ、いつも感謝しています。……おや?」
ふと見ると、主の様子がおかしかった。 部屋の中でスマートフォンの画面を凝視したまま、ガタガタと小刻みに震え始めている。設定はいつもの快適な温度のままで、決して冷やしすぎているわけではないはずだ。
「どうしたのでしょう。風量を弱めたほうがいいでしょうか」
私が心配そうに尋ねると、ベランダの相棒はブーンと重苦しい音を立てて首を振った。
「いや、待て。あれは部屋の冷気で震えてるんじゃない」
「え? では、なぜ?」
「WEBで確定した、先月分の電気代の請求金額を見ているのさ。どんな猛暑よりも確実に人間を凍りつかせる……俺たちがフル稼働した代償ってやつだ」
お題:「熱帯夜」からはじまる
下記の企画に参加させていただきました。
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