次女を牛若丸に変える長女
毎週土曜日の午前中、我が家には食材の買い出しに行くルーティンがある。
「買い物に行こうか〜」
テレビを見ている姉妹に声をかけると、
長女はすぐに動き出した。
「買い物=お菓子が買ってもらえる」と、
ちゃんと分かっているのだ。
一方、次女は微動だにしない。
「次女ちゃん、買い物行くよ? トイレ行こうか?」
……視線はテレビのまま。
「今日のお昼は何がいいかな? 次女ちゃんが好きなものでもいいよ?」
「……」
「よ〜し、じゃあ買い物にレッツゴー!」
「……」
私の繰り出す「言葉の矢」がどれだけ刺さっても、やっぱり微動だにしない。
その佇まい、まさに弁慶。
夢中になりすぎて、周りの音が完全にシャットアウトされているようだ。
そこへ、トイレから戻ってきた長女が助け舟を出した。
私と次女のやりとりを見かねたようだ。
「次女ちゃん、買い物だよ!お菓子がもらえるよ!」
……もらえないからね?
ちゃんとお金を出して買ってるよ?
心の中でツッコミを入れつつ見守っていると
さっきまでの弁慶がムクッと立ち上がり、
軽快なステップでトイレへ向かい、
靴を履き始めた。
あっという間に牛若丸への鮮やかな転身である。
私はひとりっ子で育ったので、姉妹の距離感というものがよく分からない。
最近、長女の次女に対する当たりが少し強くなってきた気がして、密かに心配していた。
でも、大丈夫なのかもしれない。
長女はちゃんと、妹の興味や関心を分かっている。
私の見えていないところで、ちゃんと妹のことを見てくれているのだ。
親の私よりも妹の扱いがずっと上手な長女の姿に、ハッとさせられた。
お菓子がもらえると分かってはしゃぐ、牛若丸な次女の姿を見ながら、
胸の奥が少しだけ軽くなった。
