ナイーブ長女はクレーンゲームで何も取れない
ナイーブ長女シリーズ第3弾
我が家のナイーブ長女は思春期症候群(甘えて不機嫌になる)をパパの前だけで発症します。
そんなナイーブ長女の観測記録。
第1弾
「クレーンゲームに行きたい!」
「おぅ……わかった……行こうな!」
ある日の金曜日。
ナイーブ長女が私にだけ、そう言ってきた。
きっと、クレーンゲームに対して守銭奴と化す妻には言いづらいのだろう。
そんな時は、私が少しドキドキしながら妻に伝える。
「長女がクレーンゲームしたいって言ってるけど……」
なんとも一家の大黒柱とは思えない言い方である。
そんな私の気持ちを妻は知ってか知らずか、
この日は奇跡的にOKが出た。
「よかった……」
ホッとひと息をつく。
というのも、もしNGだった場合、長女に説明するのは私だからだ。
「やっぱり行けなかった……」
なんて言ったら、ナイーブ長女がどんな反応をするか。
①「うぇ~ん!!」と、めっちゃ泣く
②「なんで?だめなの?」と質問攻め
③「じゃあ何するの?」と代替案を求める
④「じゃあ〇〇に行きたい!」と隠し球を出してくる
どのパターンでも大変に違いない。
しかし、タダでは引き下がらないのが我が家の妻。
前夜から徹底リサーチを重ね、「よく取れる」と噂のゲームセンターをピックアップしていた。
ただし、そこは普段より数倍遠く、車で40分ほどかかる場所。
せっかく調べてもらった場所だ。
意気揚々と向かう。
車内のテンションは最高潮。
「キャッキャウフフしながら楽しむぞ!」
そう意気込んでいた私だったが――
20分ほど走った頃には、長女も次女も夢の中。
到着した頃は、お昼前で眠く、お腹も空いていた長女。
超・不機嫌モードで店内へ足を踏み入れることになった。
妻は長女の財布に1,000円を忍ばせ、
「これまでしたら帰るからね」
と釘を刺す。
きっと私に向けた牽制だ。
そして守銭奴と化した妻は、次女を引き連れて
「10円キャッチャーコーナー」へ消えていった。
残された私と超・不機嫌モードなナイーブ長女。
念願のクレーンゲームにも関わらず、微動だにしない。
私はこの現象を知っていた。
ナイーブ長女は初めての場所だと、
借りてきたネコの様に動かなくなるのだ。
これを新たな思春期症候群に認定しよう。
そんな長女をなんとか盛り上げようと、私は自分のお金を使い、大げさなリアクションでクレーンゲームをしてみせる。
しかし、長女はスルー。
ようやく長女が財布を開いたのは、大好きなYouTuber「しなこちゃん」のマスコットだった。
100円を入れて、アームを動かす。
しかし――
スルッ。
景品はアームからすり抜けた。
「他のも見てみようか~」
察した私は、そっと長女を誘導する。
そして気づいた。
この店の正体は――
「お菓子に強い店」だった。
周りを見ても、景品を取っている人のほとんどが、大きなお菓子を抱えている。
「ほら、これなら取れそうじゃない?」
お菓子コーナーへ誘導する私。
しかし、長女が欲しいのはマスコットやぬいぐるみ。
お菓子には、まったく興味を示さない。
それでも私の言葉を信じて、100円を投入する長女。
1回やっては財布の中を見る。
そして、少し寂しそうな顔をする。
「違うのする……」
そう言って、フラフラと歩き出す。
それを繰り返しているうちに、長女の財布の中身も少なくなっていった。
でも、私も長女も景品を1つも持っていない。
このまま手ぶらで帰るわけにはいかない。
父親の威厳をかけて、私は橋渡しされた「ガブリチュウ」に100円を投入した。
1回。
2回。ゲット!
これは取れやすいぞ…なら!
3回。
そして4回目――
見事、2箱ゲット!
「すごいだろ~!」
自慢げに長女へ見せる。
すると、
「2箱もいらないんじゃない?」
冷ややかな正論が返ってきた。
……正論が痛い。
残るは長女の200円。
「これなら取れそうじゃない?」
そう言いながら、取れそうなお菓子を勧める私。
すると長女が一言。
「お菓子はいらない。小さくてカワイイのがいい」
そう言って、まっすぐ向かったのは――
最初の「しなこちゃん」だった。
もはやナイーブ長女は、クレーンゲームがしたいわけではない。
ただ、あの景品が欲しいだけになっていた。
あのタイプは一定の上限値に達しないと取れないタイプだと感じていた。
だから、ここで私が代わっても取れない。
せめて「自分で挑戦した」という事実を残してあげたい。
「自分でやってごらん」
そう背中を押した。
100円。
……取れない。
最後の100円。
……やっぱり取れない。
空っぽの財布を見つめるナイーブ長女。
ぐずることを覚悟して、
「残念だったね。帰ろうか」
そう声をかける。
すると、
「……うん」
長女は静かに出口へ向かった。
取れないこと。
そして、もう終わりだということ。
ちゃんと理解して納得していた…してくれていた。
少し前だったら、取れるまで帰らなかった。
そんなナイーブ長女が、泣くこともなく出口へ向かっている。
たったそれだけのことなのに――
少しだけ、成長したように見えた。
頑張った長女の手には、さっき取った
ガブリチュウ2箱を握らせる。
我が家の戦果。
投資、3,500円。
得たもの――
ガブリチュウ2箱。
そして妻が10円コーナーで取った、謎のシーサーのマスコット2つ。
昔、らき☆すた と言うアニメで、
「クレーンゲームは貯金箱」
という名言があった。
まさに、その通りだった。
でも――
欲しい景品は取れなかったけれど、
今日という時間が長女の「思い出の貯金箱」に、チャリンと貯まってくれたのなら。
それでいいのかもしれない。
そんなことを思いながら店を出る。
「お腹すいた。焼きそば食べたい」
ガブリチュウをくわえながら、長女と次女が楽しそうに歩いている。
……あれ?
念願のクレーンゲームをしている時より、
ガブリチュウをくわえている時のほうが楽しそうじゃないか。
ナイーブ長女はクレーンゲームより
ガブリチュウを楽しむ女であった。
