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優しい虫男【怪奇小説】

※本作は虫の嫌悪感をもたらす表現を含みます。苦手な方はご注意ください。

自然を売りにした高級住宅街があった。森に囲まれていたが、管理会社が入っていて、道も家の周りも常に綺麗に保たれていた。木々は計画的に伐採され、管理人が毎日どこかで草刈りをしていた。

機能性の高いモダンなデザインの家が立ち並び、レンガの広場や木漏れ日の落ちるウォーキングロードがあった。朝、犬の散歩をするご婦人方が優雅に挨拶を交わしていた。

定期的な駆除のおかげで、ほとんど虫に煩わされることもなかった。

あらゆる不快さは排除され、居住者は自然の心地よさだけを享受できた。

一人の大男が、奇妙な口の形をした透明なナイロン袋を手に、住宅街に足を踏み入れた。

男は虫の駆除のため、管理会社に雇われていた。

腕は丸太のように太く、血管が浮き出ていた。瓜のような形の頭をしていて、脂っぽい髪が鳥の巣のように絡み、生え際が後退していた。

男は身体に似合わず臆病だった。いつもしどろもどろで、物事を理解するのに時間がかかった。

しかし虫には詳しかった。

小さい頃から虫が好きで、いじめっ子にからかわれると体育館の裏に行って、いつまでも虫を眺めていた。石の下にいるダンゴムシや壁の隅を這うムカデが、数少ない遊び相手だった。

虫の好む場所はよく分かっていたし、虫を捕獲するのは容易なことだった。そこを管理会社に買われた。

やっとありついた働き口だった。その上、住民からたっぷり管理費用を取っているので、金払いもよかった。

男が手にしている袋の口には返しがついていて、一度入った虫が出れないようになっていた。

大概の虫は専用の網で捕まえるのが手っ取り早かった。網を一振りすると、大きなバッタが網の中で跳ねた。狭いところにいる昆虫には粘着性のスティックを用いた。

カマキリやカナブン、テントウムシと、次々に捕まえては袋の中に入れていった。

収集の様子を見た住人たちは、男のことを陰で虫男と呼び、気味悪がっていた。男が住人に挨拶をしても、住民は軽く会釈を返すか、聞こえなかったかのようにそっぽを向くだけだった。

ナイロン袋は次第に膨れ上がった。

袋の中では蛾が内側に張り付き、コオロギが鳴き、カマドウマが跳ね、芋虫やワラジムシが底を這いまわっていた。

無数の虫がぎっしり詰め込まれて黒々と膨らんだ袋は、邪悪な軟体生物のように見えた。顔を寄せると、その生物は皮膚を蠢かせるのだった。

収集を終えると、男は管理棟にあるゴミ処理設備に向かった。壁にある投入口を開けると、奥で金属のローラーが低く唸り始めた。男はそのローラーの動きをしばらくぼーっと眺めていた。

それから袋を投げ込んだ。黒く蠢く軟体生物は一瞬だけ口元に留まる抵抗を見せたが、ゆっくりと奥へと飲み込まれいった。ごうんごうんという音が響いていた。

投入口を閉める。何事もなかったかのように静まり返る。男はその投入口をずっと眺めていた。

男の目元から涙がこぼれ落ちた。



続編はこちら。

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