【映画】人情紙風船(神保町シアター・2026/06/26)
戦地で病を得、28歳で亡くなった山中貞雄監督。
もし無事に帰り、監督を続けていたら映画史に残るような名作を連発していたに違いないと言われておりますが、監督作の中で今でも我々が観ることができる(フィルムが完全に近い状態で保管されている)のは、たった3本だけ。
中でも遺作となった作品が「人情紙風船」です。
事前にTwitterのフォロワーさんから「ダメージが大きい作品」的な話をお聞きしたので、すごい泣いてしまうような作品なのだろうか?と厚めのタオルハンカチを膝に用意して鑑賞しました。
前進座俳優総登場が売りだったようです。キャスト表示が早すぎて付いていけず。もともと、この時代の俳優さんには疎いので読めたとて、なところもあるのですけれど……。
美術監修が岩田専太郎。絵が好きで名前を覚えていました。美術監修の仕事もされてたんですね。
そういえば今回は4Kリマスター版の上映なので、白黒とはいえ映像が鮮明で音声も非常にクリアです。昔の映画は初心者だなあという方や、以前見たら何を言っているのかよくわからなかった方、積極的に4Kリマスター上映を狙ってください!旧版見たことある方も、きっと見え方が作品への理解が変わると思います。私は聞き取りが得意ではないので、できる事なら字幕表示もしてほしいくらいです。時代劇は特殊な言い回しの台詞も多いですし……
本編。
貧乏そうな長屋の一角。どうやら浪人が首を括って死んだという。
侍なのに切腹じゃなくて首括りなんて……と噂する長屋の奥さん方。
お金がなくて刀はとうに竹光になっていたからだ、云々。
世知辛い時代です。
前半は長屋に暮らす人たちの悲喜こもごも。楽しい。
貧乏そうな家の中や生活道具のディティールがリアル。
人死になんて縁起が悪いとさっさと通夜葬儀を済ませようとする(でも、通夜葬儀を出してあげるんだなとも思った)大家さんにうまいこと言って酒をふるまわせ、どんちゃん騒ぎを楽しむ長屋の皆さん。それにしても「めくら」を連発しすぎ。途中から数えたりもしたけど10回くらい言ってたぞ。半分くらいは「めくらのくせに」って言うし。「くせに」て。
ま、今とは諸々基準が違う時代です。「くせに」とは言いながら、けっこう仲良くやっています。
大家に酒をふるまうよう、うまく持って行ったのは髪結いの新三。
ギャンブル狂いでお金にはだらしないようですが、どうやら知恵は回るようです。
そして隣に住む貧しい浪人又十郎とその妻。又十郎は新三とは対照的に馬鹿がつくくらい正直侍で、妻はただただ黙って内職仕事に精を出している。
無口な妻。ちょっと陰気に見える妻。
この、新三と又十郎がメインキャラクターの立場となります。
又十郎は亡き父の親友(今は藩の重役)に士官を願い出るが、相手は面倒がっているし、世話をするつもりなどさらさらない。
それにも気づかず必死の又十郎が切ない。店先から追い出されながらまだ信じている、犬のように純粋な姿。雨に打たれながら待つ姿。本当に純粋、正直な侍なのだ。
この物語世界、不景気な世の中では損をするタイプ。
いよいよはっきりと裏切られたことを分からせられた後、又十郎が雨に打たれ続ける俯瞰ショット、長くて印象に残る。
やはり、ずっと無言なのが、雨みたいにこちらの心にも刺さる。
やることなすことうまくいかない、でも妻にはそれを言い出せない又十郎と違い、新三はヤクザに目をつけられているが、うまい事立ち回っている。
このヤクザの手先、すごい加東大介に似ているけれどキャストクレジットに加東大介はいない。それにしても似すぎじゃない?
と思いましたら別名義でクレジットされているご本人だそうです(Wikipedia情報)。学び。
新三はヤクザの鼻を明かしてやりたくて、外出中だった貸金業宅のお嬢さんを自宅に連れ込んでしまう。(それ以上の悪いことは一切していない)
そこから始まるあれやこれや。主犯の新三も大したことはしておらず、又三郎は特に悪い事はしていない。
でも、回り回って周囲には誤解を呼ぶ行動に映ってしまった。
ところでこのお嬢さん役の霧立のぼるさんがお人形さんみたいにカワイイ!と思ったら元宝塚!当時から元宝塚ってとんでもなくかわいらしい人たちが所属していたんだな!
正直もう少しのバランスで時代劇にはそぐわなくなるくらい日本人離れしたメイクやまつげなんだけど、カワイイ!に収まっている。
ちょっぴりわがままなキャラクターにピッタリだと思いました。
うまく解決、なぜか大家さんが顔を突っ込んでお金もせしめた。
新三は協力してくれた又十郎にも分け前を渡す。
当然断るが、すべては断り切れず……酒を勧められ、身体に障るので断るが、元々酒は嫌いではないので、やっぱり断り切れず……
ちょっとだらしないけれど、待っているのはハッピーエンドに見えていた。
しかし事情を知らない長屋の女房達は口さがない噂を流す。
実家から戻ってきた妻がその噂話を耳にするーーーーー
ラスト、ショック。 手斧で胸をグサッと衝かれたような衝撃。
泣くのではなくて、しんどかった。映像では見せず、台詞で想像させてスパッと終わるのが重く心にのしかかる。
多分妻は実家で家族に色々言われたんだろうなと想像する。そして、ストレスを溜めて溜めて、無口で発散できない性格だと思う。さらには、又十郎がもう少しでいいから、口下手ではなく、妻に常々もう少し事情を説明できていたら展開は違っただろうに。あと、お酒は絶対飲んじゃだめだわ。
そこだけは庇えない。にしても、にしてもあんな結末……ううう。
と、又十郎たちに気を取られてしまったけど、新三だってあのシーンの後……。
少し、座席から立ち上がるのに時間がかかりました。
こんな、巧みな映画を20代で監督されたのか……。山中貞雄の才能、凄すぎます。
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