夢の国(7月27日)

明日はまずまず、普通に戻りつつある。

昼頃、渋い声の、耳の聞こえない方が同室になる。

そういえばこの部屋は、
プツプツと何やら話す独り言と、
イテテテッと言う声しか聞こえない。

午前中、プツプツお話ししている方が、
「リハビリに行くよ」
と療法士さんがいらした時、

「誰も俺どごさ来にゃ」
「誰にもあでにされでなや」
「おごられだ」

と。

コロナの真っ只中。
お見舞い禁止の中だもの。
悲しいことをおっしゃる。

療法士さんが、
「今コロナだからね、家族も来たくても来れないのやす」
「俺があでにしてるから、リハビリに行こう」

と言うも、何やら抵抗している様子。

結局その日は、リハビリは休みとしたようだ。

さて、昼ごろに入室の耳の聞こえない方。

色が白く、上品な方は、
ガラガラと大きな声。

少し眠ろうにも、無駄な抵抗だ。

仕方ない。
それとなく、一人の会話を聞くことに。

どうやら学校の先生だったらしい。
お歳は95歳だと。

その人生がすべて分かる一人ごと。
部屋中に響く。

最初は、看護師さんとの会話のズレがおかしくて、
ついクスッと笑う。

「心電図とるから、そのまま寝てて」
と看護師さん。

心電図が「死んでる」に聞こえたらしい。

「このまま死ぬのが。まだやるごどある」

「違う、シンデンズ!」

「マダシナニャ!(まだ死なない)」

看護師さんが何度言うも、
本人は死ぬことになると思っているらしい。

お世話になった方にお礼の話をして、
あそこに三十万、あそこになんぼ、あの人にこれ、と
遺産分けをしている。

そのうち、話の中に
お姉さんとお母さんらしき人が出てきて、
どうやらお姉さんは93歳、
お母さんは99歳で亡くなったらしい。

「生徒がいっぱいいた」

「先生死んだのがって、言ってる」

「大林寺にも語らねばならない」

どうやら我が家と同じ寺の檀家さんらしい。

「静かに死ぬのだ」
と言ったと思ったら、
先生が来た途端
「死んだのだ」
と、あちらの国から話しかけているつもりらしい。

さらに、自分は死んでいるのだが、
薬の飲み方はきっちり記憶している。

ピンク色のは何時に飲む、
白いのは一日に何回、と、
七種ほどの薬の飲み方を
看護師さんに指導?している。

この調子で昼からずっと。
夜も、途中途中目が覚めると
大きな声で独り言。

どうやら夢の国の住人と、
一つ処に居住したらしい。

最初はニヤッと笑えた夢の国の会話に、
とうとう一睡もできず、
入り口の電気がまたまぶしくて、
朝四時ごろ消していただき、
やっと二時間ほど眠る。

看護師さんに、
「今の水沢病院は夢の国の住人が多いのか」
と聞いたところ、

「そうです。先生もずいぶん辞められました」

と。

数日後の胆江新聞で、
水沢病院の今後の方針が記事に載り、
ナルホド、と思う。

緊急や重篤患者は受け入れない。
病床は140床に減らし、
別の場所に新しく病院を建てるらしい。

まごころ病院や前沢、衣川病院も縮小。

市の病院経営は、どこへ行くのか。

さまよう夢の国の人と同じように、
病院経営も、さまよい続けるのか。

必要なことかもしれないが、
点点点……にクエスチョンマーク?は、
後期高齢者の正直な気持ちである。


いいなと思ったら応援しよう!