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「旅がうまくいかない人、うまくいく人」― 空港職員が見た「旅行の明暗を分ける5つの違い」

空港で働いていると、本当にさまざまな旅行者を見ます。
楽しそうに出発していく人。
家族や友人と笑いながら、ゆっくりと搭乗口へ向かう人。
その一方で、出発前から疲れ切った顔をしている人もいます。
時計を何度も見ながら走っている人。
「まだ間に合いますか?」と慌てて聞いてくる人。
チェックインカウンターの列が長いことに腹を立てる人。
少し予定が狂っただけで、何をすればいいのか分からなくなってしまう人。

空港では、毎日さまざまな出来事が起こります。
飛行機が遅れることもあります。
電車が遅れることもあります。
チェックインや保安検査場が予想以上に混雑することもあります。
搭乗口が変更になることもあります。
旅行では、自分の思い通りにならないことが必ず起こります。

しかし、長く空港で働いていて感じたことがあります。
それは、同じようなトラブルに遭遇しても、慌てる人と慌てない人がいるということです。

たとえば、飛行機の出発が遅れたとします。
「せっかくの旅行なのに最悪だ」と、ずっと不機嫌になってしまう人がいます。
一方で、「では、その間に何をしようか」と、すぐに気持ちを切り替える人もいます。
同じ飛行機。
同じ空港。
同じ遅れ。
それなのに、その後の旅行の楽しさまで大きく違ってしまうことがあります。

では、この違いはどこから生まれるのでしょうか。
旅行経験の多さでしょうか。
海外へ何度も行ったことがあるからでしょうか。
もちろん、経験があることは役に立ちます。
しかし、必ずしも旅行回数が多い人ほど、旅がうまいとは限りません。
何度も海外旅行をしていても、いつも時間に追われている人もいます。
逆に、初めての海外旅行でも、驚くほど落ち着いて行動する人もいます。

私が空港で多くの旅行者を見てきて感じたのは、両者の違いは単なる知識や経験ではないということです。
そこには、もっと根本的な違いがあります。

それは、旅行が予定通りに進まなかったとき、どう考え、どう行動するか。という違いです。

旅がうまくいかない人は、最初に立てた予定が崩れると、そこで頭が真っ白になってしまいます。
「こんなはずではなかった」
「予定が全部狂ってしまった」
「どうしてこんなことになるんだ」と、起きてしまったことに気持ちを奪われます。
一方、旅がうまくいく人は少し違います。
もちろん、トラブルを喜んでいるわけではありません。
困ることは困ります。
予定が変われば残念にも思います。
それでも、いつまでもそこで立ち止まりません。
「では、次に何をすればいいだろう」と考えます。

この違いは、とても小さなことのように見えます。
しかし、旅行ではこの小さな違いが、最後には大きな差になります。
旅行の途中では、予想もしなかったことが起こります。
飛行機の遅れ。
交通機関のトラブル。
道に迷うこと。
予約の行き違い。
急な天候の変化。
体調が思ったように整わないこともあります。
すべてを事前に防ぐことはできません。
どれほど完璧に計画を立てても、旅行には自分ではコントロールできないことがあります。
だからこそ、旅行の上手な人は「何も起こらない旅行」を目指しているのではないのだと思います。

何かが起きても、旅を立て直せるようにしている。

これが、旅がうまくいく人の大きな特徴です。
これまでの記事では、飛行機が遅れる理由や、搭乗に間に合わない人の共通点、海外旅行初心者がやりがちな失敗、空港で起こりやすいトラブルについて紹介してきました。
そこでは、旅行中に何が起こるのか、そしてなぜ失敗が起こるのかを中心に見てきました。

しかし今回は、少し視点を変えてみたいと思います。
同じ空港に来て、同じような条件で旅行をしていても、なぜ、ある人は最後まで慌て続け、ある人は落ち着いて旅を楽しめるのでしょうか。
なぜ、トラブルが一つ起きただけで「最悪の旅行」になってしまう人がいる一方で、いくつか予定が狂っても、「それも旅行だったな」と思って帰っていく人がいるのでしょうか。
その違いは、特別な才能ではありません。
高価な旅行用品を持っていることでもありません。
語学力だけでもありません。

空港職員として多くの旅行者を見てきた中で感じたのは、旅の明暗を分けるのは、予定通りに進むかどうかではなく、予定通りに進まなかったときの考え方と行動だということです。

今回の記事では、そんな「旅がうまくいかない人」と「旅がうまくいく人」の違いを、5つの視点から考えていきます。
予定が変わったとき、どうするのか。
トラブルが起きたとき、何を考えるのか。
分からないことがあったとき、いつ誰に聞くのか。
目の前のことに夢中になりすぎて、本来の目的を忘れていないか。
そして、自分に合わない無理な旅行をしていないか。

旅行の成功とは、何もかもが予定通りに進むことではないのかもしれません。
少し予定が変わっても。
多少困ったことが起きても。
最後に、「楽しい旅行だった。また行きたい」と思って帰ってこられる。
私は、それが本当に旅がうまくいったということではないかと思っています。

第1章 「予定通りに進む人」と「予定が変わることを前提にする人」

旅行に出かける前、多くの人は予定を立てます。
何時に家を出るのか。
何時の電車に乗るのか。
何時ごろ空港に着くのか。
チェックインを済ませて、保安検査場を通り、時間があれば食事や買い物をする。
そして、搭乗時刻までに搭乗口へ行く。
旅行の計画を立てることは、とても大切です。
むしろ、何も考えずに出発するより、ある程度予定を決めておいたほうが安心です。

しかし、ここで一つ大きな違いがあります。
旅がうまくいかない人は、「予定通りに進むこと」を前提に予定を立てます。
一方で、旅がうまくいく人は、「予定は変わるものだ」と考えています。

この違いは、旅行が順調なときにはほとんど見えません。
しかし、一度予定が狂い始めると、その差は一気に大きくなります。
 
例えば、こんな旅行を考えてみましょう。
午前10時の飛行機に乗るため、8時30分に空港へ着く予定だったとします。
電車も時間通り。
空港に到着したら、すぐにチェックイン。
その後、保安検査場を通り、少し免税店を見る。
そして搭乗口へ行く。
頭の中では、すべてがきれいにつながっています。
しかし、旅行では予定通りにいかないことがあります。
自宅を出る直前に忘れ物に気づく。
駅へ向かう途中で道路が混んでいる。
電車が遅れる。
空港に着いたら、チェックインカウンターが混雑している。
保安検査場にも長い列ができている。
一つひとつは、それほど大きな問題ではないかもしれません。
しかし、「すべてが予定通りに進む」という前提で計画を立てていると、最初の一つが狂っただけで、その後の予定まで次々と崩れていきます。
そして気がつけば、「こんなはずではなかった」
「まだ間に合うかな」
「どうしよう」と、空港に着いた時点ですでに焦ってしまうのです。

空港で見ていると、慌てている人の多くは、必ずしも出発時刻ギリギリに空港へ来た人ばかりではありません。
一見すると、時間に余裕を持って来ているように見える人でも、その余裕の使い方が一つの予定にぴったり組み込まれていることがあります。
予定より少し遅れたら、もう余裕がなくなる。
少し列が長かっただけで、その後の計画が崩れる。
つまり、余裕があるように見えて、実は余裕がないのです。
 
旅がうまくいく人は、必ずしも細かく予定を立てているわけではありません。
むしろ、予定が狂ったときのことまで考えています。

例えば、「この電車に乗れなかったら、次の電車でも間に合う」
「空港で時間がなければ、買い物は帰りにしよう」
「混んでいたら、食事は機内か到着後でもいい」
「予定より時間がかかったら、まず搭乗口へ向かおう」というように、最初の計画がうまくいかなかったときの次の選択肢を持っています。
これを、私は「第二の予定」と考えています。

最初からすべてを細かく決めておく必要はありません。
大切なのは、一つの予定が崩れたら、次にどうするかを考えておくこと。

旅行では、予定変更そのものを避けることはできません。
しかし、予定変更によって慌てることは減らせます。
「この電車に乗らなければ終わり」
「この時間までにチェックインできなければ大変」
「この店に行かなければ損をする」
このように、一つの選択肢しか持っていないと、その選択肢がなくなった瞬間に人は焦ります。
反対に、「だめなら次がある」と思えるだけで、気持ちには大きな余裕が生まれます。
 
予定表を埋めることと、計画を立てることは違う
旅行の計画を立てるとき、予定をたくさん詰め込むほど「しっかり計画している」と思ってしまうことがあります。
朝から観光地を回り、昼食を取り、次の場所へ移動し、買い物をして、夕方には別の場所へ。
海外旅行なら、「せっかく来たのだから」という気持ちもあるでしょう。
限られた時間を無駄にしたくない。
できるだけ多くの場所を見たい。
予約したものをすべて楽しみたい。
その気持ちはよく分かります。

しかし、予定を詰め込むことと、良い旅行計画を立てることは同じではありません。

予定を詰め込めば詰め込むほど、一つの遅れが次の遅れを生みます。
電車が10分遅れた。
予定していた店に入るまで30分待った。
観光地が思ったより広く、移動に時間がかかった。
それだけで、その後の予定がすべて押してしまうことがあります。
そして、本来なら楽しいはずの旅行が、「早く行かなければ」
「次の予定がある」
「もう時間がない」という焦りの連続になってしまいます。

旅行は、予定をすべて消化するための競技ではありません。
予定を一つでも多く達成することが、必ずしも良い旅行になるわけではないのです。
 
空港でも旅先でも、予定を変えることが苦手な人がいます。
「せっかく予定していたから」
「予約したから」
「ここまで来たのだから」
そう考えて、無理に最初の予定を守ろうとします。
しかし、ときには予定を変えることが最も良い選択になることがあります。
空港で買い物をする予定だったけれど、思ったより時間がない。
そんなときは、買い物をあきらめて搭乗口へ向かえばいいのです。
予定していたレストランが混んでいる。
それなら、別の店を探してもいい。
観光地に着いたけれど、想像以上に疲れている。
それなら、次の予定を取りやめてホテルで休んでもいいのです。

ところが、旅がうまくいかない人ほど、「最初に決めた予定を変えること=失敗」と考えてしまいます。

しかし、本当にそうでしょうか。
予定を変更したことで、飛行機に余裕を持って乗れた。
別の店に入ったら、思いがけずおいしい食事ができた。
無理をせず休んだことで、翌日を元気に楽しめた。
これも、立派な旅行の成功です。
旅行上手な人は、予定を大切にしながらも、予定に縛られません。
予定は旅を楽しむための道具であって、旅そのものではない。
この考え方ができると、旅行はずっと楽になります。
 
必要なのは、「予定通りに進める計画」ではなく、「予定が変わっても楽しめる計画」です。
予定が一つ変わった。
では、何をあきらめるのか。
何を優先するのか。
次に何をするのか。
こうしたことを考えられる人は、予定変更が起きても旅全体を失敗にしません。
反対に、最初の計画だけにこだわる人は、小さな変更でも「旅行が台無しになった」と感じてしまいます。
 
もちろん、旅行中に予定が狂えば誰でも困ります。
私も旅行をするとき、予定通りに進まなければ残念に思います。
しかし、そこで大切なのは、いつまでも「予定が狂った」という事実だけを見続けないことです。

予定が変わったなら、「では、どうしようか」と次を考える。
それだけで、旅行の見え方は変わります。

旅行では、ときどき「予定外」の出来事が、あとになって一番印象に残ることもあります。
もちろん、何でも前向きに考えればいいという話ではありません。
困ることは困ります。
避けられるトラブルなら、できるだけ避けたほうがいいでしょう。
しかし、避けられない予定変更まで「失敗」と考えてしまう必要はありません。
 
旅がうまくいく人と、うまくいかない人。
その違いの一つは、予定を立てる力より、予定を変える力にある。
私はそう感じています。
少しくらい予定が変わっても大丈夫だと思える計画。
それこそが、旅を最後まで楽しむための計画なのだと思います。

第2章 「トラブルを失敗と考える人」と「旅行の一部として考える人」

旅行にトラブルはつきものです。
もちろん、誰もトラブルを起こしたくて旅行に出かけるわけではありません。
飛行機は予定通りに飛んでほしい。
電車も時間通りに来てほしい。
ホテルの予約も問題なく確認できてほしい。
荷物も無事に届いてほしい。
できることなら、出発から帰宅まで、すべてが計画通りに進んでほしいと思うでしょう。
私もそうです。

しかし、空港で長く働いていると、旅行ではどうしても自分では防ぎきれない出来事が起こることを何度も見てきました。
天候による遅延。
航空機の到着遅れ。
空港の混雑。
交通機関のトラブル。
搭乗口の変更。
そして旅先では、道に迷うこともあります。
予定していた店が休みになっていることもあります。
予約したはずの内容と違うこともあるかもしれません。

こうしたことが起きたとき、人によって反応が大きく違います。
ある人は、その瞬間から旅行全体を「失敗」と考えてしまいます。
一方で、別の人は困りながらも、次にできることを考えます。
この違いが、その後の旅行を大きく変えていきます。
 
例えば、飛行機の出発が遅れたとします。
楽しみにしていた旅行です。
目的地での予定もあります。
到着後にレストランを予約しているかもしれません。
誰かと待ち合わせをしているかもしれません。
遅れれば困るのは当然です。
しかし、そのときに、「最悪だ」
「せっかく楽しみにしていたのに」
「もう今日の予定は全部だめだ」と考え始めると、実際にはまだ旅行が始まったばかりなのに、気持ちの中ではすでに旅行が終わってしまいます。
飛行機が遅れたことは事実です。
しかし、その遅れによって、旅行のすべてが失敗になるとは限りません。
目的地にはまだ行けるかもしれません。
予定を少し変更すれば、楽しめることはたくさん残っているかもしれません。
ところが、人は一つの予定が崩れると、その後に起こるかもしれない悪いことまで想像してしまうことがあります。
「レストランに間に合わないかもしれない」
「ホテルのチェックインが遅くなる」
「明日の予定まで狂うかもしれない」
そして、まだ起きていないことまで心配し始めます。
気がつけば、目の前のトラブルよりも、自分自身の不安によって旅行が苦しくなっていることがあります。

空港で見ていても、トラブルそのものより、その後の気持ちの持ち方によって、本人の疲れ方がまったく違うことを感じます。
 
空港では、ときどき強い口調で職員に怒っている人を見かけます。
「どうして飛ばないんですか」
「何とかしてください」
「予定が全部狂ってしまった」
もちろん、困っている気持ちはよく分かります。
楽しみにしていた旅行です。
大切な予定がある場合もあります。
突然の遅れに納得できないこともあるでしょう。
しかし、その場にいる職員に怒り続けても、天候が変わるわけではありません。
航空機が突然早く到着するわけでもありません。
すでに起きてしまったことを元に戻すことはできないのです。
ここで大切なのは、「変えられること」と「変えられないこと」を分けて考えることです。
飛行機が遅れたという事実は、すぐには変えられないかもしれません。
しかし、その後の予定を変更することはできるかもしれません。
待ち合わせの相手に連絡することはできます。
予約している店に電話をすることもできます。
ホテルに到着時間が遅くなることを伝えることもできます。
つまり、トラブルそのものは変えられなくても、その後の行動は変えられるのです。

旅がうまくいく人は、この切り替えが早いように感じます。
「なぜこんなことになったのか」と考え続けるより、「では、今の自分にできることは何か」に意識を向けます。
この考え方だけで、同じトラブルでも、その後の結果が変わることがあります。
 
旅行上手な人は、トラブルを気にしない人ではありません。
ここは大切なところです。
困ったことが起きれば、当然困ります。
残念なことがあれば、残念に思います。
飛行機が遅れれば、予定が狂います。
楽しみにしていたことをあきらめなければならない場合もあります。
それでも、いつまでも「困った」という場所に立ち止まりません。
トラブルが起きたとき、それを次の行動を考える合図にしています。

旅行を終えたあと、「今回は何のトラブルもなく、完璧だった」という旅行もあるでしょう。
それは素晴らしいことです。
しかし、旅行の成功を「何も問題が起きなかったこと」だけで判断すると、少しのトラブルでも失敗したように感じてしまいます。

ここまで読むと、「何が起きても前向きに考えましょう」と言っているように聞こえるかもしれません。
しかし、そういうことではありません。
本当に困るトラブルもあります。
大きな予定変更が必要になることもあります。
楽しみにしていたことをあきらめなければならないこともあります。
そんなときまで、「これも旅行だから楽しもう」と無理に考える必要はありません。
残念なときは、残念でいいのです。
腹が立つことがあれば、腹が立つこともあります。

大切なのは、その気持ちを持つことではなく、その気持ちに旅行の残り時間まで支配されないことだと思います。

「残念だった」
でも、次はどうするのか。
「困った」
では、誰に相談すればいいのか。
「予定が狂った」
では、何を変更すればいいのか。

気持ちを切り替えるというのは、無理に笑顔になることではありません。
起きてしまったことを受け止めたうえで、次に進むこと。
それが、本当の意味での切り替えなのだと思います。

第3章 「全部自分で抱え込む人」と「早めに人に聞く人」

旅行中、分からないことや困ったことが起きるのは珍しいことではありません。

空港が広すぎて、搭乗口がどこにあるのか分からない。
チェックインの方法が分からない。
乗り継ぎ時間が短くて、このままで間に合うのか不安になる。
荷物について確認したいことがある。
急な変更があり、次に何をすればいいのか分からない。
特に、慣れない空港や初めて訪れる国では、分からないことが次々に出てきます。

そんなとき、旅がうまくいかない人には一つの共通した行動があります。
それは、困っているのに、なかなか人に聞かないことです。

「自分で何とかしなければ」
「こんなことを聞いたら恥ずかしい」
「もう少し調べれば分かるかもしれない」
そう考えて、一人で何とかしようとします。
もちろん、自分で調べることは悪いことではありません。
最近はスマートフォンがあります。
地図も見られます。
航空会社の情報も確認できます。
翻訳アプリもあります。
昔に比べれば、旅行中に自分で調べられることは格段に増えました。
しかし、それでも分からないことはあります。

そして、旅行には一つだけ、取り戻せないものがあります。
時間です。
分からないことを一人で考えている間にも、飛行機の搭乗時間は近づいてきます。
次の電車は出発します。
予約の時間も過ぎていきます。
旅行では、ときに「自分で解決すること」よりも、「早く正しい人に聞くこと」のほうが大切なのです。
 
空港で働いていると、「もっと早く相談してくれれば、何とかできたかもしれない」と思うことがありました。

例えば、搭乗口が分からない人がいたとします。
空港は、初めて来る人にとっては想像以上に広いものです。
案内表示を見ても、慣れていなければ自分がどちらへ行けばいいのか分からないことがあります。
それでも、「たぶん、こちらだろう」と考えて歩き続けます。
途中で違うことに気づき、また戻る。
さらに別の方向へ進む。
そうしているうちに、時間がなくなってしまいます。
そして最後になって、「搭乗口はどこですか」と職員に聞く。
もちろん、その時点でもできる限り案内します。
しかし、時間に余裕があればできたことでも、ギリギリになると選択肢が少なくなります。
もう少し早く聞いていれば、落ち着いて説明できた。
近道を案内できた。
必要な手続きを確認できたかもしれない。
けれども、時間がなくなれば、「とにかく急いでください」としか言えなくなることもあります。

これは搭乗口だけではありません。
チェックイン。
乗り継ぎ。
荷物。
搭乗時間。
免税店での買い物。
旅行中の多くの問題は、困った時点ですぐ相談すれば、小さな問題で済んだかもしれないのです。
 
ここで誤解してほしくないのは、自分で調べることが悪いというわけではありません。
旅行前に必要な情報を調べる。
空港までの行き方を確認する。
必要な書類を準備する。
航空会社の案内を読む。
これはとても大切なことです。

しかし、「少し調べても分からない」
「案内を見ても判断できない」
「時間が迫っている」という状況になっても、一人で考え続けるのは別の話です。
自分で調べることと、一人で抱え込むことは違います。
自分で調べる人は、必要な情報を探します。
しかし、本当に分からなければ次の方法を考えます。
一方、一人で抱え込む人は、「どうしよう」と考えながら、その場で時間だけを使ってしまいます。

旅行で大切なのは、すべてを自分一人で解決することではありません。
問題を早く解決することです。
そのために職員へ聞く。
案内所へ行く。
航空会社の係員に相談する。
ホテルへ連絡する。
場合によっては、同行者と相談する。
これらもすべて、旅行をうまく進めるための大切な行動です。
 
空港で働いていたとき、ときどき遠慮している旅行者を見かけました。
何か聞きたそうにこちらを見ている。
でも、なかなか声をかけてこない。
こちらから、「何かお困りですか」と聞くと、
「実は……」と、困っていることを話し始める。
話を聞いてみると、もっと早く聞けばすぐに解決できたことだった、ということもあります。

もちろん、すべての問題をその場で解決できるわけではありません。
職員によって担当も違います。
航空券のことは航空会社。
荷物のことは航空会社や担当部署。
空港内の施設については案内所。
入国や税関などについては、それぞれの担当があります。
しかし、自分が困っている内容を伝えれば、「それなら、こちらへ聞いてください」「この窓口へ行ってください」と、次に相談すべき場所を案内してもらえることがあります。

つまり、最初から正しい答えを知っている必要はないのです。
大切なのは、困ったときに、誰かに相談する最初の一歩を早く踏み出すこと。
これだけで状況が動き始めます。
 
旅行中の問題には、早ければ早いほど対応しやすいものがあります。

例えば、「乗り継ぎ時間が短いかもしれない」と思った時点で相談する。
「ホテルへの到着が遅くなりそうだ」と分かった時点で連絡する。
「搭乗時間に間に合うか不安だ」と思った時点で確認する。
これだけで、その後の対応が変わることがあります。

しかし、「まだ大丈夫だろう」
「もう少し様子を見よう」
「何とかなるかもしれない」と考え続けていると、時間だけが過ぎていきます。
そして、本当に困った状態になってから相談することになります。

旅行では、時間がなくなるほど選択肢が減ります。
早めに相談すれば、「こちらの方法があります」
「この手続きができます」
「別の選択肢もあります」と案内できることでも、時間が迫ってしまえば、できることが限られてしまいます。

つまり、聞くのが遅いということは、自分で自分の選択肢を減らしてしまうことでもあるのです。
 
初めての空港や海外旅行では、「こんなことを聞いていいのだろうか」と思うことがあるかもしれません。
「英語がうまく話せない」
「旅行慣れしていないと思われたくない」
「こんな簡単なことを聞くのは恥ずかしい」
そう感じる人もいるでしょう。
しかし、旅行では分からないことを聞かずに時間を失うほうが、ずっと大きな問題になることがあります。

空港は毎日、多くの人が利用します。
初めて飛行機に乗る人もいます。
久しぶりに海外へ行く人もいます。
乗り継ぎに慣れていない人もいます。
職員からすれば、分からないことを聞かれるのは珍しいことではありません。

「こんなことを聞いていいのかな」と思ったときほど、一度聞いてみる。
もし相手が担当ではなければ、次に聞くべき場所を教えてもらえばいいのです。
旅行で大切なのは、無事に、そして落ち着いて目的地へたどり着くことです。
 
旅行中、誰かに聞こうとしても、「どう説明すればいいのだろう」と迷うことがあります。
しかし、完璧に説明する必要はありません。

例えば、「搭乗口が分かりません」
「この飛行機に間に合うか心配です」
「乗り継ぎはどうすればいいですか」
「荷物について確認したいです」
これだけでも十分です。

自分が何に困っているのかを伝えれば、相手も次に必要なことを聞いてくれます。
旅行中は、何でも一人で説明し、すべて自分で判断しなければならないわけではありません。
分からないから聞く。
困ったから相談する。
それでいいのです。
むしろ、早めに聞くことで、余計な不安や焦りを減らすことができます。
 
旅がうまくいく人は、問題を起こさない人ではありません。
問題が小さいうちに動く人です。
「困った」と感じたら、それを放置しない。
「もう少し様子を見よう」と先送りにしない。
必要なら人に聞く。
この小さな行動が、旅行全体を守ることがあります。

第4章 「損をしたくない人」と「旅の目的を忘れない人」

旅行をするとき、誰でも思うことがあります。
せっかく旅行に来たのだから、できるだけ多くのことを楽しみたい。
せっかく海外まで来たのだから、有名な観光地を見ておきたい。
せっかく予約したのだから、その店で食事をしたい。
せっかく空港に来たのだから、免税店で買い物をしたい。
せっかくなら、お得なものを買いたい。

限られた旅行時間ですから、「損をしたくない」と思うのは当然のことです。
私自身も、旅行をすると、「せっかくここまで来たのだから」と思うことがあります。
しかし、空港で多くの旅行者を見ていると、この「せっかく」という気持ちが、ときには旅の明暗を分けることがあると感じました。
なぜなら、「せっかく」を大切にしすぎると、本当に大切なものを失ってしまうことがあるからです。
 
空港の免税店で働いていたとき、こんな場面を何度も見ました。
お客様の搭乗時間が近づいています。
それでも、「もう少しだけ見たい」
「これも見てからにする」
「せっかく来たのだから」と、買い物を続けようとします。
もちろん、免税店で買い物を楽しむこと自体は悪いことではありません。
旅行の楽しみの一つでもあります。
しかし、飛行機に乗ることより買い物を優先してしまえば、本末転倒です。
特に危険なのは、「まだ少し時間がある」と思っているときです。
人は「あと10分」「あと5分」と考えます。
しかし、実際にはそこから会計の時間がかかります。
レジが混んでいるかもしれません。
商品を探す時間も必要です。
搭乗口まで歩く時間もあります。
空港によっては、搭乗口まで予想以上に時間がかかることもあります。
そして、時間がなくなってから急に慌てます。
「早くしてください」
「飛行機に乗り遅れます」
そう言われても、すべての手続きを一瞬で終わらせることはできません。
私は免税店で働いていたとき、搭乗時間が迫っているお客様がいれば、できるだけ早く対応するようスタッフに指示していました。
会計を急ぎ、必要であればほかのスタッフも協力し、できるだけ早くお客様を搭乗口へ向かわせる。
なぜなら、目の前で買い物をしていたお客様が飛行機に乗り遅れてしまえば、買い物どころではなくなるからです。
しかし、本当に大切なのは、そこまで慌てる状況になる前に、「何を優先すべきか」を自分で判断することなのです。
  
旅行中に判断を誤る原因の一つが、「ここまで来たのだから、あきらめたくない」という気持ちです。

例えば、空港で買い物をしているとします。
搭乗時間が近づいています。
本当なら、もう搭乗口へ向かったほうがいい。
自分でも、何となく分かっています。
それでも、「せっかくここまで来たのだから」
「あと少しで買い物が終わる」
「これを買わないと損だ」と思ってしまう。
すると、出発する判断が遅れます。

これは空港だけの話ではありません。
長い時間並んだから、もう少し待とう。
高いお金を払ったから、無理をしてでも行こう。
予約したから、体調が悪くても行かなければ。
旅行では、こうした場面がたくさんあります。

しかし、そこで大切なのは、すでに使った時間やお金ではなく、これからどうすれば旅全体がよくなるかを考えることです。

すでに30分並んだからといって、さらに30分待つことが必ずしも正解とは限りません。
予約したからといって、無理をして体調を崩す必要もありません。
買い物を途中でやめたからといって、旅行そのものが失敗になるわけでもありません。
旅行上手な人は、「ここまでやったのだから」ではなく、
「ここからどうするのが一番いいか」を考えます。
この違いが、旅の満足度を大きく変えます。
 
買い物をすることが目的になってしまう。
食事をすることが目的になってしまう。
ラウンジでゆっくりすることが目的になってしまう。
その結果、一番大切な飛行機に乗ることが危うくなる。
これは極端な話に聞こえるかもしれません。
しかし、実際に空港で働いていると、「なぜ、もう少し早く搭乗口へ行かなかったのだろう」と思う場面があります。
本人も、最初から飛行機に乗り遅れようと思っていたわけではありません。
「まだ大丈夫」と思っていた。
そして、「あと少しだけ」を繰り返しているうちに、時間がなくなってしまったのです。

旅行では、何が一番大切なのかを、何度も確認することが必要です。
空港なら、まず飛行機に乗ること。
旅先なら、旅行そのものを楽しむこと。
この大きな目的を忘れなければ、小さな予定に振り回されにくくなります。
 
私たちは、「あきらめる」という言葉を聞くと、どこか負けたような気持ちになることがあります。
せっかく予定したのに。
せっかく来たのに。
せっかくお金を払ったのに。
しかし、旅行では「あきらめる」ことが、旅を守ることにつながる場合があります。
時間がないから、買い物をあきらめる。
疲れたから、予定を一つあきらめる。
混んでいるから、別の店にする。
天気が悪いから、予定を変更する。
これは失敗ではありません。
その時点の状況を見て、何を残し、何を手放すかを決めているのです。
すべてを手に入れようとすると、かえって大切なものを失うことがあります。
買い物にこだわりすぎて、飛行機に乗り遅れる。
予定を詰め込みすぎて、旅行中ずっと疲れている。
無理をして体調を崩し、その後の予定まで楽しめなくなる。
それなら、一つをあきらめて、残りを楽しんだほうが、結果的にはずっと良い旅行になるはずです。
旅行上手な人は、すべてを手に入れようとはしません。
自分にとって本当に大切なものを選びます。
 
旅行の途中で何かをあきらめるとき、「損をした」と思う前に、
「この判断は、自分の旅の目的に合っているだろうか」と考えてみる。
すると、手放すべきものが見えてくることがあります。
 
旅行上手な人は、すべてを完璧にこなす人ではありません。
状況が変わったとき、「今、本当に大切なことは何か」を考えられる人です。

第5章 「旅行を特別な一日にする人」と「いつもの自分を連れていく人」

旅行の日は、いつもと違います。
楽しみにしていた場所へ行く。
普段は見られない景色を見る。
おいしいものを食べる。
家族や友人と特別な時間を過ごす。

だからこそ、多くの人が、「せっかくの旅行だから、普段はできないことをしよう」と考えます。
それは旅行の楽しみの一つでもあります。
普段は行かない場所へ行く。
普段は食べないものを食べる。
普段とは違う時間を過ごす。
もちろん、それは素晴らしいことです。

しかし、空港で多くの旅行者を見てきて感じたことがあります。
旅行だからといって、普段の自分を忘れてしまうと、旅は思った以上に苦しくなることがあるのです。
 
例えば、普段は朝が苦手な人がいます。
仕事の日でも、早起きは大変です。
朝はなかなか頭が働かない。
準備にも時間がかかる。
それなのに旅行の日になると、「早朝便のほうが一日を長く使える」と考えて、朝一番の飛行機を予約します。

もちろん、早朝便が悪いわけではありません。
早く目的地に着けるという大きなメリットがあります。
しかし、問題は、自分にとって本当に無理のない選択なのかを考えずに決めてしまうことです。

早朝に起きなければならない。
空港までの移動時間も考えなければならない。
忘れ物がないか確認する。
時間に遅れないように準備する。
旅行前日は、楽しみでなかなか眠れないこともあります。
その結果、旅行が始まる前から疲れてしまう。
飛行機に乗った頃には、すでにぐったりしている。
目的地に着いても、思ったように楽しめない。
「せっかく旅行に来たのに、もう疲れた」
そんな状態になってしまうことがあります。
旅行だからといって、急に朝に強い人間になるわけではありません。
普段の自分は、旅行の日にもついてきます。
 
旅行の予定を見ると、ときどき驚くほど予定が詰め込まれていることがあります。
朝から観光地へ行く。
昼には別の場所へ移動する。
午後は買い物。
夕方には有名なレストラン。
夜には夜景を見に行く。
一日で何カ所も回る計画です。

旅行前には、「せっかく行くのだから、全部見たい」と思うでしょう。
しかし、その予定を見ながら、「普段の自分なら、一日にこれだけ動くだろうか」と考えてみる必要があります。

普段なら一時間歩いただけで疲れる人が、旅行の日だけ何時間も歩く。
普段なら途中で休憩する人が、予定があるからと休まず歩き続ける。
普段なら夕方には疲れているのに、「せっかく来たのだから」と夜まで予定を入れる。

旅行中は気分が高まっています。
最初のうちは、「まだ大丈夫」と思えるかもしれません。
しかし、疲れは少しずつたまっていきます。
そして、ある時点で急に動けなくなることがあります。
足が痛くなる。
食欲がなくなる。
気分が悪くなる。
ホテルに戻ったら、翌日のために何もできないほど疲れてしまう。

旅行は、普段以上に体力を使います。
慣れない場所を歩く。
荷物を持って移動する。
道を調べる。
時間を確認する。
言葉の違う場所なら、それだけでも気を使います。
だからこそ、「旅行だから頑張れる」ではなく、「旅行だからこそ無理をしない」という考え方が大切なのです。
 
旅がうまくいく人は、意外なほど自分のことをよく知っています。
自分は朝が苦手なのか。
長時間歩いても大丈夫なのか。
お腹が空くと機嫌が悪くなるのか。
慣れない場所では疲れやすいのか。
予定が詰まっているほうが楽しいのか。
それとも、時間に余裕があるほうが安心できるのか。

こうしたことを知っています。
だから、旅行計画も自分に合わせて作ります。
朝が苦手なら、無理に早朝便を選ばない。
歩くのが苦手なら、一日に回る場所を減らす。
疲れやすいなら、途中で休む時間を入れる。
食事を楽しみたいなら、観光地を減らしても食事の時間を確保する。
予定が多いと疲れるなら、あえて「何もしない時間」を作る。

これは、旅行に消極的なのではありません。
自分が本当に楽しめる旅行を作っているのです。

旅行の計画を見ると、つい、「もっと効率よく回れないだろうか」と考えてしまいます。
しかし、効率よく回ることと、楽しく旅行することは同じではありません。
人によって、楽しい旅行は違います。
朝から晩まで動き回るのが好きな人もいます。
一つの場所でゆっくり過ごすのが好きな人もいます。
有名な観光地をたくさん巡りたい人もいます。
ホテルでゆっくり過ごすことが一番の楽しみという人もいます。

大切なのは、「旅行の正解」に自分を合わせるのではなく、自分に旅行を合わせることです。
 
旅行を計画するとき、インターネットやガイドブックを見ると、
「ここは絶対に行くべき」
「この店は外せない」
「一日でこれだけ回れる」といった情報がたくさん出てきます。
それを見ると、「せっかくなら、自分も行かなければ」と思うことがあります。

しかし、その場所が本当に自分にとって楽しいとは限りません。
人気の観光地でも、人混みが苦手な人には疲れる場所かもしれません。
有名なレストランでも、長時間並ぶことが苦痛な人もいます。
「絶対に行くべき」と紹介されている場所でも、自分にはそれほど興味がないこともあります。

旅行がうまくいかない人は、「みんなが行く場所」を基準に旅行を作ってしまうことがあります。
一方で、旅がうまくいく人は、「自分が何をしたいか」を基準に旅行を作ります。

有名だから行く。
人気だから並ぶ。
みんなが買っているから買う。
もちろん、それも一つの楽しみ方です。
しかし、そのために疲れ切ってしまうなら、一度考えてみてもいいでしょう。
「自分は本当にこれをしたいのだろうか」
「それとも、行かなければ損だと思っているだけだろうか」

旅行の目的は、人と同じ思い出を作ることではありません。
自分にとって良い思い出を作ることです。
 
旅行の計画を立てるとき、「一日にどれだけ回れるか」を考える人は多いと思います。
しかし、もう一つ考えてほしいことがあります。
それは、「その行動を何日間続けられるか」ということです。

初日だけなら、朝早く起きて、たくさん歩いて、夜遅くまで遊べるかもしれません。
しかし、それを三日間、四日間続けたらどうでしょうか。
最初は楽しくても、次第に疲れがたまります。
そして、旅行の後半になると、「もうどこにも行きたくない」となってしまうことがあります。

旅行は短距離走ではありません。
特に数日間の旅行では、最後まで楽しめるペースを考えることが大切です。

初日に全部頑張って、二日目から疲れてしまうよりも、
毎日少し余裕を残して終えるほうが、結果的には多くのことを楽しめます。
「今日はまだ元気だから、もう一カ所行こう」という余裕があるくらいが、ちょうどいいこともあります。

旅行では、「今日、どこまでできるか」だけではなく、
「明日も楽しめるか」を考えることが大切なのです。
 
旅行の予定表を見ると、「何もしない時間」は無駄に見えるかもしれません。
しかし、私はむしろ、何もしない時間こそ、旅行を楽しむために必要な時間だと思います。
予定と予定の間に、少し余裕を作る。
カフェでゆっくりする。
ホテルで一度休む。
景色を眺めながら、何も考えない。
予定より早くホテルへ戻る。

こうした時間があると、心にも体にも余裕が生まれます。
そして、その余裕があるからこそ、予定外の出来事にも対応できます。
たまたま気になる店を見つけた。
思いがけずきれいな景色に出会った。
地元の人に教えてもらった場所へ行ってみた。
予定表がぎっしり詰まっていると、こうした偶然を楽しむ余裕がありません。
旅行の思い出は、必ずしも予定していたものだけで作られるわけではありません。
むしろ、予定していなかった時間に、一番印象に残る出来事が起こることもあります。
だから、「何もしない時間」は無駄ではありません。
旅行を楽しむための余白なのです。
 
新しいことをするために、普段の自分を完全に忘れる必要はありません。
朝が苦手な自分。
疲れやすい自分。
人混みが苦手な自分。
ゆっくり過ごすのが好きな自分。
こうした自分を知ったうえで、新しいことに挑戦する。
そのほうが、旅行を最後まで楽しめます。

旅行を楽しむために、旅行中の自分を無理に変える必要はありません。
いつもの自分を大切にしながら、いつもとは違う場所へ行く。
それが、長く旅を楽しむための一つの方法なのだと思います。

だから、自分を置き去りにした旅行計画は、どこかで苦しくなります。
旅がうまくいく人は、自分に甘い人ではありません。
自分の限界を知り、自分が楽しめる方法を知っています。

第6章 5つの違いに共通していた「たった一つの考え方」

ここまで、旅がうまくいかない人と、うまくいく人の違いを、5つの視点から見てきました。

「予定通りに進む人」と「予定が変わることを前提にする人」
「トラブルを失敗と考える人」と「旅行の一部として考える人」
「全部自分で抱え込む人」と「早めに人に聞く人」
「損をしたくない人」と「旅の目的を忘れない人」
「旅行を特別な一日にする人」と「いつもの自分を連れていく人」

一つひとつを見ると、それぞれ別の話に見えるかもしれません。
予定の話。
トラブルの話。
人に相談する話。
優先順位の話。
そして、自分に合った旅行をするという話。
しかし、空港で多くの旅行者を見てきた中で感じるのは、これらにはすべて共通している考え方があるということです。

それは、旅がうまくいく人は、「完璧な旅行」を目指していない。ということです。
これが、5つの違いの根底にある、たった一つの大きな違いなのだと思います。
  
旅行について詳しい人はたくさんいます。
海外旅行の経験が豊富な人。
何度も飛行機に乗っている人。
空港の仕組みに詳しい人。
現地の言葉を話せる人。
もちろん、知識や経験があれば役に立つ場面は多くあります。
しかし、知識が多ければ、必ず旅行がうまくいくとは限りません。

空港で働いていると、旅行に慣れているように見える人でも、予定が狂った途端に慌てることがあります。
反対に、初めての海外旅行でも、落ち着いて行動する人もいます。
この違いは、知識の量だけでは説明できません。

旅がうまくいく人は、「分からないことがあっても大丈夫」と思っています。
なぜなら、分からなければ調べればいい。
それでも分からなければ聞けばいい。
予定が変われば、別の方法を考えればいい。
すべてを最初から知っている必要はないと分かっているからです。

旅行は試験ではありません。
すべての問題を一人で解かなければならないわけでもありません。
必要なときに調べる。
必要なときに聞く。
必要なら予定を変える。
この柔軟さが、知識以上に旅を助けてくれることがあります。
 
これまでの5つの違いを振り返ると、そこにはもう一つ共通する言葉があります。
それは、余白です。

予定に余白がある。
時間に余白がある。
気持ちに余白がある。
体力にも余白がある。
すべてを予定で埋め尽くさない。
時間をぎりぎりまで使い切らない。
一つの予定が変わっても、すぐに「失敗だ」と思わない。
疲れたら休める。
困ったら人に聞ける。

この余白がある人ほど、旅行中に起きる変化に対応できます。
反対に、予定も時間も体力も、すべて限界まで使い切る計画を立ててしまうと、一つの小さな変化にも対応できなくなります。

電車が10分遅れただけで困る。
レストランに20分並んだだけで、その後が全部狂う。
少し道に迷っただけで焦る。
疲れていても、予定があるから休めない。
これでは、旅行中ずっと何かに追われることになります。

余白は、何もしない無駄な時間ではありません。
予定外のことが起きたときに、自分を助けてくれる時間です。
そして、旅行の途中で思いがけない楽しみを見つけるための時間でもあります。
 
トラブルが起きたとき、人はまず原因を考えます。
「どうして電車が遅れたんだろう」
「なぜこんなに混んでいるんだろう」
「どうして予定通りに進まないんだろう」
原因を知ることが必要な場合もあります。

しかし、旅行中には、原因を考えてもすぐに解決できないことがあります。
飛行機が遅れている。
天候が悪い。
交通機関が止まっている。
お店が休みだった。
その事実を変えることはできません。

そんなときに、「どうしてこうなったのか」だけを考え続けても、次の行動は決まりません。

旅がうまくいく人は、ある程度状況を確認したら、「では、これからどうするか」へ考えを移します。
予定を変更する。
誰かに連絡する。
別の方法を探す。
職員に相談する。
少し休む。
今できることを一つずつ始める。

これは、旅行だけに必要な考え方ではありません。
しかし、慣れない場所へ行き、限られた時間の中で行動する旅行では、この考え方が特に大きな力になります。
  
ここまで見てきた5つの違いを、もう一度振り返ってみましょう。

1.予定が変わることを前提にする
予定が崩れても、次の方法を考えられる。

2.トラブルを旅行全体の失敗にしない
困ったことが起きても、その後の行動へ気持ちを切り替えられる。

3.一人で抱え込まない
分からないことがあれば、必要な人に早めに相談できる。

4.本来の目的を忘れない
すべてを手に入れようとせず、本当に大切なものを選べる。

5.自分に合った旅行をする
無理をせず、自分が最後まで楽しめるペースを考えられる。

これらに共通しているのは、状況に合わせて、自分の行動を変えられること、つまり、柔軟さです。

旅がうまくいくかどうかは、完璧な計画を立てられるかどうかだけでは決まりません。
むしろ、旅行中に起きる予定外の出来事に、どう向き合うか。
その違いのほうが、最後の満足度を大きく左右しているように思います。
 
旅行に、誰かと同じ正解はありません。
自分が最後に「楽しかった」と思えること。
 
最後まで、「自分の旅だった」と思えること。

そして、旅が終わったときに、「また旅に出たい」と思えたなら。
多少の失敗があったとしても、その旅行はきっと成功だったのだと思います。

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