ショートショート「また今度」
季節が移ろいゆくたびに、庭に来訪者が現れる。
春は両耳の尖ったいかにもな奴がやってきた。夏はアメーバ。秋は銀メッキの宇宙服を着たなにかがやってきた。冬は来なかった。毎度毎度、庭の草が巨大なロケットに潰される。
大体三、四人が連れ立ってやってくる。ロケットから出て初めに見る地球人は私のようで、毎回熱烈に挨拶をされる。
ハグを求めてきたり、矢継ぎ早に感激の言葉を連ねてみたり、母星の説明をされたりもする。アメーバがハグを求めてきた時は、丁重にお断りした。
今年の春は足が五本ある一ツ目が来た。夏は三メートルほどの背丈がある巨人がやってきた。宇宙服のヘルメットを外すと、目玉が五つほどついていた。
五ツ目が興奮気味に挨拶を終えると、座椅子に座った。私は客人に茶を出した。スーパーで買った五十個入りのお茶パックをそこそこの湯のみに注ぐ。
ちなみに、客によってお茶は賛否両論である。今回は当たりだった。
三メートルの異星人が、三人でちゃぶ台を囲んで座っている。
私は彼らの向かいに座った。
何を言い出すのかと待ったが、先程の興奮が冷めてしまったのか、なかなか言葉を発さなかった。
しばらくして、中央の五ツ目がやっと話し出した。
「先程も言いましたが、私たちはファー星からやってきた親善使節なのです。ぜひ、この星と親善関係を結びたく……」
「それは結構なことで、でも私、この星のトップでもなんでもないんですよ。ですから、そういうことは別の人間に仰ってください」
五ツ目は全ての目をぱちくりとさせた。
「まぁ、私はお茶を出すくらいしかできないんで、首相公邸とかに向かわれたらいいんじゃないですか」
「そこにこの星の偉い方が居るんですか?」
「星というか、国といいますか」
「国とは? 勉強不足でして」
「ええと、この星のトップは存在しないんですよ、いくつかの国に分かれてましてね、ええとだから……」
私が言い淀んでいる間も、五ツ目は真剣な顔をしていた。
「とにかく、相当な機関に訴えれば星中に伝わるでしょうから、まずは首相公邸に向かわれるのが最適だと思いますよ」
五ツ目は頷き、突然立ち上がった。傍に寄ってきて、私の手を力強く握る。その巨体に違わず、手首まで包むほどの大きな手をしていた。
「ありがとうございます。この星のヒトは優しいのですね。私たちはそのシュショウコウテイに向かいたいと思います」
「は、はあ、そうですか」
私は五ツ目の圧に少々押された。
そうしているうちに、五ツ目は颯爽とロケットに乗り込んだ。去り際に「また今度」と威勢よく発し、ロケットはそのまま空へ飛び立った。
背の高い草は焼け、庭はすっかり見通しが良くなった。
私は再びちゃぶ台の前に座り、残ったお茶を啜った。
「また今度」
来訪者は帰り際、そう言って去っていく。今度が来たことはない。きっと今回もそうだろう。
もう一口お茶を啜った。
私も昔、旅行に行った先で「また今度」と言って去ったことがある。もちろん、今度は来なかった。
しばらくしたら、宇宙人の親善使節でニュースは埋まることだろう。
そうしたら、次の来訪者が訪れるかもしれない。
その頃には、庭の草が伸びきっていることだろう。
