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ひとりのススメ | とうちゃん、ギリ助かる

休日の朝、布団の中で今日は蕎麦屋のカツ煮で呑むか、焼肉屋で呑むかを悩んでいたら、姉から着信があった。
メールではなく直電なんてよっぽどの事だろうと電話に出ると、「父(88)が急に倒れてER(緊急外来)に運ばれた」、と。

遂にその時が来たか、思えば悪くない人生であったろう、ポックリ逝くとは実に父らしい、とタクシーに乗って病院に駆け付けると、ERの待合室に母と姉が。

「なにがあったの?」
「お父さんが、また急に苦しみだして『死にそうだ、今度こそ死ぬかもしれん』って騒いで脂汗ダラダラ流しているから救急車を呼んだのよ」
と、父の苦しむ口調を臨場感たっぷりにマネしながら、「人騒がせな人ねぇ」という様子で母がちょっと面白い感じで現場を再現する。
取り乱してるかと思いきや、「しょうがないわねぇ」といった空気感で一気に脱力。

「いつものことなのよ」「大袈裟なんだから」と母。
「いや、でも分かんないよ、もしかしたらもしかするかもよ」
「でもさぁ、私がもっと歳取って同じようなことが起きたら誰がこういうことしてくれるのかなぁ」と独り身の姉。
「ボクじゃない?イヤだけど」
「私、たぶん長生きするから、あんた、先に死んでるよ」
「、、、施設に入っておいたら?」
「そうだけど、入る前に起きたらどうするよ?」
「早めに入っておいた方がいいね」
「、、、ところで、お父さん、大丈夫かな」
とか話してたら、病院の人が呼びに来た。

面会できるというので緊急治療室に行くと、とうちゃんが、いろんな管に繋がれて呼吸器を付けて、苦しそうに身を捩りながら寝ていた。

可哀想。

先生が言うに、「アナフィラキシーショック(強度のアレルギー反応)」だと。
おやじ、いったい何を食ったんだ。
「キウイじゃない?」「ヨーグルトかも」「あ、ハチミツをパンに塗ってたわ」「それか!」「でも、毎朝食べてるのよ?」と、先生も巻き込んでひとしきり盛り上がる。
病院搬入時点で血圧が測定不能なほど低下し、心臓が停止寸前だったが、今は持ち直して安定しているとのこと。
マジで死にかけてんじゃん。

緊急治療室から緊急入院病棟に移動するというので、しばらく待って、再度、面会。
意識がやや戻っており、自分を見ると「お前も来たんか」という感じに少し驚いて、めっちゃ小さい声で「死ぬかと思った」「迷惑かけたねぇ」、、、だって。
無事でよかったねぇ。

おそらく数日で退院できるだろうとのことで、どうやら事なきを得たらしい。
面会を終えて姉が、「可哀想だったね。でも、もしこういうことでポックリ逝ったとしても、それはそれでいいと思うんだよね」と真面目な顔をして言う。
「そうだね」。

そう遠くないであろうその日に備えて、こうやって心の準備をしているような気がする。
帰りに蕎麦屋に寄って、カツ煮で呑んだ。

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