私が頼んだ中華には人柱が必要だったのかもしれない
Uberがうちの街でも使えるようになった。
せっかくなので、普段なかなか行けない少し遠めの中華料理店を頼んでみることにした。
到着予定時刻は約1時間半。
急いでいるわけでもない。
私は興味本位で配達状況を眺めていた。
こういうサービスは面白い。
どんな人が運んでくれるのか見えるからだ。
一人目はブラジル人だった。
お目当ての店に向かっている。
「へぇ、こうやって運ばれるのか」
感心しながら見ていた。
しかし。
なぜか曲がり角で消えた。
しばらくすると二人目が現れた。
名前から察するに、この人もブラジル人だ。
自己紹介にはこう書いてある。
I LOVE PIZZA
ピザ好きなんだね。
今回頼んだのは中華だけど。
そんなことを思いながら見守っていた。
そして。
なぜかこの人も曲がり角で消えた。
もしかしたら異世界にでも繋がっているのだろうか。
この時点で到着予定時刻はとっくに過ぎていた。
冷静に考えれば取りに行った方が早い。
だが私はUberを頼んでしまった。
引くに引けない。
私はただUberを試したかっただけなのだ。
それなのにその後もなぜか一瞬名前が出た人が一瞬で消えた。
もしかしたら私が頼んだ中華は人柱を必要としているのかもしれない。
私は気付けば、先ほど登録したばかりのUber Oneの無料体験を解約していた。
そんな時だった。
新たな配達員が現れた。
今度は日本人の漢字の名前だ。
この人をTさんとする。
好きな食べ物は書いていない。
だが私はTさんを応援した。
Tさんは魔の曲がり角を通過した。
消えない!!
私は感動した。
そしてついに。
料理がピックアップされた。
初めて動いた。
ここまで長かった。
実に長かった。
しかしここで安心してはいけない。
帰るまでが遠足。
到着するまでがUberである。
Tさんの車はどんどん我が家へ近づいてきた。
気分としては24時間テレビである。
脳内ではサライが流れていた。
あと数キロ。
あと数百メートル。
あと数十メートル。
頑張れTさん。
もう少しだTさん。
その時だった。
Tさんの動きが止まった。
どうしたTさん!
なぜ止まったTさん!!
私は画面を見ながらハッとした。
うちは初見だと少し分かりづらい。
おそらく途中のクランクで「これ以上進んでいいのか」と悩んでいるのだろう。
私は意を決してソファーから立ち上がった。
Tさんを迎えに行くために。
愛用のつっかけサンダルを履いて外へ出る。
案の定、クランクのところで立ち往生している車が見えた。
やっぱりか。
私は外階段を降りた。
中華のために。
そしてTさんのために。
「すみません、私Uberを頼んだねこのてです」
Tさんは少し気弱そうな人だった。
私の顔を見ると、少し安心したようだった。
「ここで受け取りますよ」
そう言った私に対して、Tさんは首を振った。
「いいえ!お家まで運びますね」
その声には静かな決意があった。
そうか。
彼もまた戦っていたのだ。
中華を届けるという使命のために。
彼もまた仲間だった。
玄関先で私は改めて中華を受け取った。
ありがとう、Tさん。
そして道半ばで挫折したブラジル人達よ。
ピザ好きよ。
君たちのことは忘れない。
たぶん今後3年はネタとして擦ろうと思う。
時間は2時間半近く経っていた。
届いた中華は、思いの外暖かかった。
ただし今度は現地まで行こうと思う。
