四階の踊り場
四年前の秋、都内の築三十年になる六階建ての賃貸マンションに住んでいた頃の話だ。
そのマンションはエレベーターが基幹点検で深夜に止まることが多く、五階の角部屋に住んでいた私は、コンビニへ行く際によく外階段を使っていた。
建物の外側に張り付くように設置されたコンクリート打ちっぱなしの非常階段で、吹き抜けになった中央を覗くと、一階のエントランスまで見下ろせる構造になっていた。
その日の深夜一時半過ぎ、煙草を買いに行こうと部屋を出た。
エレベーターホールの横にある重い鉄扉を開け、非常階段に出た。
秋の冷たい夜風が吹き抜け、青いペンキの剥げかけた鉄の手すりには夜露がうっすらと付着していた。
一段ずつ階段を降りていく。
踊り場を回り込み、一フロア分降りたところで、壁に貼られた丸いプラスチックの階数表示板に目をやった。
白地に黒い文字で「4」と書かれていた。
五階から一つ降りたのだから、当然四階だ。
そのまま足を止めずに、次の階段を十六段降りた。
踊り場で折り返し、壁の表示板を見た。
「4」と書かれていた。
歩きながら数え間違えたのだろうと思った。あるいは、四階の踊り場で考え事をしていて、同じ階を一周してしまっただけかもしれないと考えた。
階段の踊り場など、どこも同じ構造だ。深夜の眠気で頭がぼんやりしているのだろうと自分に言い聞かせた。
今度は意識して、靴底でコンクリートを踏みしめながら、一段ずつ降りた。
右手を鉄の手すりに滑らせた。
手すりの金属は異様なほど冷たく、手のひらに湿った赤錆のすえた匂いがべっとりとこびりついた。
確実に十六段を降りきり、次の踊り場に立った。
壁の表示板を見た。
「4」だった。
ペンキの剥げた跡も、角の欠け具合も、先ほど見たものと寸分違わず同じ「4」だった。
背筋に冷たいものが走った。
手すりから身を乗り出し、中央の吹き抜けから下を覗き込んだ。
一階の駐車場の明かりは見えなかった。
暗闇の底に向かって、全く同じ四角い踊り場と青い手すりが、どこまでも深く、底知れず連なっていた。
