生温い水
三年前の夏、築二十五年になるアパートの二階に住んでいた頃の話だ。
その月の水道代の請求が普段より千円ほど高かったことが、頭の片隅に引っかかっていた。
その日の深夜二時過ぎ、寝苦しさで目を覚ました。
喉がからからに渇いていたため、キッチンへ行き、蛇口をひねってコップに水道水を注いだ。一気に飲み干したとき、わずかに生温く、舌の奥に古い鉄錆のような、重たいぬめりを感じた。
暑さで配管の水が温まっているのだろうと思い、そのままベッドへ戻ろうとしたが、ふと水道代のことを思い出した。
サンダルを突っかけて共用廊下に出て、玄関ドアのすぐ横にある鉄扉――パイプスペースを開けてみた。
スマートフォンのライトで照らし、水道メーターの青いフタを開ける。
水が流れている時だけ回転する、小さな銀色のコマを見た。
回っていた。
蛇口は確実に閉めてある。トイレの水も流していない。
それなのに、銀色のコマは、まるで誰かがどこかで水を使い続けているかのように、一定の速度で滑らかに回転していた。
部屋に戻り、キッチンの蛇口のレバーをもう一度手で押し下げ、浴室のシャワーも固く閉まっているのを確認した。
もう一度廊下に出てメーターを見たが、コマは止まらない。
水漏れで階下に迷惑がかかっては困ると思い、メーターの手前にある真鍮の元栓ハンドルを握り、時計回りにきつく締め切った。これで部屋への水は完全に遮断されたはずだった。
だが、銀色のコマは、依然として止まらなかった。
元栓を閉めたにもかかわらず、何かに引っ張られるように、ゆっくりと回り続けていた。
不気味になり、その夜はそれ以上確認するのをやめ、元栓を閉めたまま眠った。
翌朝、顔を洗うために元栓を開け、洗面台の蛇口をひねった。
「ゴボッ……」と配管が激しく空気を噛む音がして、最初は赤黒く濁った水が勢いよく吐き出された。
すぐに水は透明に戻ったが、蛇口の先端から出る水が不自然に四方へ飛び散り、水の出が極端に悪くなった。先端に何かが詰まっているようだった。
蛇口の先端の金具を指で回し、網のパーツを取り外した。
金具の裏側に、黒いヘドロのようなぬめりとともに、細かくちぎれた濡れた人毛の束が、びっしりと網目を塞ぐように詰まっていた。
鼻を突くような、古い脂と生ゴミが腐りかけたようなすえた悪臭が立ち上った。
指先についたそのぬめりをティッシュで拭き取った瞬間、
昨夜の深夜二時過ぎ、暗闇の中でコップに注ぎ、自分が喉を鳴らして飲み干した、あの生温い水の味が、口の奥に生々しく蘇った。
