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末期の水

六年前の冬、母方の祖父が亡くなった時の話だ。

地方にある本家の十畳の仏間で、祖父は親族に囲まれて息を引き取った。

医師が死亡を確認した後、葬儀屋の手配を待つ間、親族で「末期の水」を取ることになった。

割り箸の先に白い脱脂綿を巻き、糸で縛ったものをお椀の水に浸し、死者の唇を湿らせる古い儀礼だ。

年長者から順に、伯父、母、叔母と交代で祖父の枕元に正座し、静かに唇を湿らせていった。祖父の顔にはすでに死相が現れ、土気色の唇は乾ききっていた。

私の番が回ってきた。

祖父の枕元に正座し、割り箸を手に取った。

お椀の水に脱脂綿を浸し、祖父の乾いた唇の中央にそっと当てた。

その瞬間だった。

指先に、微かな振動が伝わった。

「……ジュッ」

濡れた脱脂綿から、水分が一瞬で吸い尽くされる感触があった。

祖父の唇が、まるで乾いた海綿のように水分を飲み干し、脱脂綿は一瞬でパサパサに乾ききっていた。

驚いて息を呑んだ。

祖父の固く閉じられていたはずの唇の端が、わずかに横へ引っ張られるように歪んだ。

見間違いかと思い、もう一度脱脂綿を水に浸そうとした瞬間、後ろから伯父に肩を強く掴まれた。

「もういい。それ以上触るな」

伯父の声は、普段の穏やかさとはかけ離れた、押し殺したような低さだった。

伯父は私の手から割り箸をひったくると、祖父の顔に白い布を素早く被せ、お椀の水を仏間の隅の盛り塩の上にすべて流して捨てた。

その夜、仏間で一人、線香の番をしていた。

十畳の部屋の中は底冷えがし、線香の白い煙が天井に向かってまっすぐ立ち上っていた。

祖父の遺体は静かに横たわっている。

だが、部屋の静寂の奥から、音が聞こえていた。

「……クチャ、……クチャ」

誰かが口の中で舌を鳴らし、唾液を飲み込むような湿った音が、祖父の枕元から小さく響いていた。

顔に掛けられた白い布の、口元のあたりだけが、まるで呼吸をしているかのように、規則正しくかすかに膨らんでは縮んでいた。

翌朝、納棺の儀式が始まった。

葬儀屋が祖父の顔の白布を外した。

祖父の唇は、昨夜の乾いた土気色ではなく、まるで生きているかのように赤く湿っていた。

そして、固く閉じられた祖父の唇の隙間から、見覚えのない、先端の折れた古い竹の割り箸が一本だけ、深く喉の奥へ突き刺さるように挟まっていた。

親族の誰も、そのことについて一言も触れなかった。

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