肉|短編小説
「ピピッ」
無機質な電子音が部屋に響く。
デジタル画面の数字はBF30%、MQ97。
「やった…」
目指した数値になった。
あぁ、やっと…
彼に、食べてもらえる。
永遠の愛を誓う時、男性は女性の肉を食べて自分の血肉にして一緒に生きていく。
だから彼に私を食べてもらうために
美味しくなるように、野菜と穀物を中心に食べ続けて、臭みをなくし
体脂肪率を上げて脂乗りを良くし、筋質を上げて食感をよくしたのだ。
ずっと、彼は、私を食べたがらなかった。
そんなことは残酷で、愛してる人を食べるなんて考えられないと泣きながら言ってたけれど、
それは昔のSF映画の話だ。
泣く彼がよくわからなかった。
「あなたの血肉になって、同化して、あなたと共に生きる。
この前の結身式の友美だって、幸せそうだったわ。
あんなこんがり綺麗に焼けて。
私だって…夢なのよ…」
そう泣いて懇願した。
「あなたと結ばれたいの…式を挙げて。みんなに見てもらいたい…」
そう縋ると、彼は更に泣いて私を抱きしめた。
心にじんわりと不信感が広がる。
喉元まで、出かけた言葉を急いで飲み込む。
彼の背中に手を回して
「お願い…なるべく、あなたが食べやすいように頑張るから」
彼は観念したように私の肩に顔を埋めて小さく頷いた。
彼の身体は震えていた。
彼と、約束していた目標を達成してからは、式までの時間は早かった。
最期の日に着る、白くて美しいレースのドレスを選んで前撮りをした。
彼は沈んだ顔で同行した。
彼の蝶ネクタイが曲がっていて直したら彼の目からは涙が溢れた。
だから写真の彼は泣いていて。それがすごく嫌だった。
最期の日、教会で愛を誓う。
そして私には安楽死が待っている。
彼が神父の前の誓いの言葉の時に
また泣いて、崩れ落ちた。
もう、我慢の限界だった。
「一体、何が不満なのよ!!
幸せになろうって言ったじゃない!!
どうしてそんな…」
そこまで言って言葉が出てこなかった。
集まる視線が惨めにさせた。
ハッとして彼は顔を上げた。
「そんなつもりじゃ…ごめん…」
項垂れる。いつも通りだ。
戸惑ったように神父がこちらを見てくる。
「続けましょう」
私は誰に言うわけでもなく無機質にそう告げた。その響いた凜とした音は嫌いじゃなかった。
式は進行していく。
控室に行き、私は特注した棺に寝そべる。
蓋が閉まると甘い香りが広がった。
微睡む意識の中、いつかの泣いて震えてた彼を思い出す。
最後まで理解できなくて、嫌なところも多いけど、それでも彼が愛おしかった。
あぁどうか、美味しく食べてくれますように…
そして2人、一緒に生きてくの。
それが最期だった。
「なぁ聞いたか?あいつの結身式。
新婦の希望で、ローズマリーを添えたソテーにしたらしいんだけど
あいつ結局食べなかったって」
「えぇ…随分、美味そうな子だったのに」
「味は美味かったらしいぞ?参列者で食ったらしいからな。結局あいつはその後一口も食わなかったらしいぞ」
「それじゃ、彼女も浮かばれないよな」
勿体無いよなぁ。
声と共に足音が遠ざかっていった。
