おっぱい|短編小説
※本作には、乳房に関する直接的な表現、性的な会話、介護現場での入浴介助描写が含まれます。
俺は、おっぱいが好きだ。
乳房、と呼ぶほど俺は上品じゃない。
胸、と呼ぶには、色気が曖昧すぎる。
おっぱい。
頭の悪そうな響きまで含めて、俺は好きだ。
駅前のマックで、トレーにポテトだけ乗せたヒデが隣に座った。
話すことは、いつもしょうもない。
「で、結局さ。巨乳と貧乳なら?」
「巨乳」
即答した。
「俺は生意気なおっぱいがいいな。乳首がつんと上向いてて。サイズは控えめ」
ポテトをつまみながら、ヒデが言う。
「俺は断然Fカップだな。重力に負けて窮屈そうなところもいい。乳輪が下品でも、むしろ神話」
「ほんとお前、ブレないよなあ」
「お前ほどじゃねえよ。貧乳派」
「は? 俺は貧乳が好きなんじゃなくて、控えめなのが好きなの」
「はいはい」
笑いながら時計を見る。
十二時半。
「あ、やべ。俺そろそろ行くわ」
「もうそんな時間か。今日は?」
「たぶん風呂。人足りないって」
「体壊すなよ」
「ありがとな」
ヒデと別れて、駅へ向かった。
「おはようございまーす」
出勤十分前。昼食どきだからか、事務所には誰もいない。
タイムカードを切って、更衣室で制服に着替える。
廊下に出ると、昼飯と消毒液の匂いが混ざっていた。
壁に貼られた今日の行動表を確認する。
俺の名前の横には、太いマーカーで、
『入浴』
やっぱり風呂だった。
「あ、おはよう。テツ君」
食後の薬を抱えて、美沙さんが事務所に入ってきた。
目元に疲れが滲んでいる。
「あ、美沙さん、お疲れーす」
「ごめん、テツ君。今日、人足りなくて……。無理しない範囲で。自立してる人だけでいいから」
俺たちケアスタッフからすれば上司にあたるケアマネなのに、美沙さんはいつも困った顔で手を合わせる。
そのたび、推定Cカップの人妻パイまで、申し訳なさそうに小さく揺れた。
「やりますか」
気合いを入れるように、血圧計のカゴを手に取る。
まずはバイタル。
そのあと脱衣、洗身、着衣。
午後だけで何人回せるか。
おっぱいを眺めている暇なんて、多分ない。
「小池さん、お風呂の時間なんですけどー……」
フロアの窓辺で外を見ているおばあちゃんの、車椅子の横にしゃがむ。
「今日、人がいなくって……。申し訳ないけど、俺とお風呂でいいですか?」
小池さんはゆっくり俺を見ると、
「ふふっ。若い子から誘われちゃったわねぇ」
と笑った。
前は風呂の一言でえらい剣幕だったから、内心ほっとする。
「血圧、測ってもいいですか?」
そう言って、血圧計を腕に巻く。
「あら、あなた……忠さん?」
「またまた。忠さんは旦那さんでしょう? 俺は近藤です」
名札をつまんで見せる。
「ふふ……あなた、いい男ねぇ」
小池さんは名札を手に取り、まじまじと眺めた。
「痒いところないですか?」
小池さんの背中を丁寧にタオルで洗い、バスチェアに座る小池さんに手渡す。
「後ろ終わりました。前、ご自身でお願いします」
「……洗ってくれないの?」
「小池さん、まだ自分でできるから」
笑顔で伝える。
「それもそうね。待っててくれる?」
「ゆっくりで大丈夫ですよ」
足元が冷えないように、シャワーをかける。
「ねぇ、見て?」
小池さんが言った。
「どうしました?」
小池さんは、自分の胸を両手で持ち上げていた。
「私のおっぱい、沢庵ねぇ」
「……は?」
思わずシャワーを止める。
「そうよぉ。ほら、こんなに長くなっちゃって」
楽しそうに笑いながら、ぶらん、と揺らしてみせる。
なんて答えるべきか。
……正解が、見つからない。
「でもね」
小池さんは急に得意げな顔をした。
「ここは綺麗なのよ。さくらんぼちゃん」
自分の乳首を指さして、きゃっきゃと笑う。
耐えられなかった。
「っはは。自分で言います? それ」
「だって、可愛いでしょう? 私の可愛いさくらんぼちゃん」
「沢庵なのに?」
「沢庵にも、さくらんぼくらいついてるわよ」
「ついてないですよ」
二人で笑った。
風呂場に、小池さんの笑い声が響いた。
「私ね。モテモテなのよ」
「若い頃?」
「ずっとよ。だってこんなに可愛いもの」
「ずっと?」
「そうよ」
小池さんは自分の胸を両手で持ち上げて、もう一度笑った。
「今だって、干からびてて可愛いでしょう?」
「……さくらんぼが?」
「全部よ」
そう言って、何事もなかったみたいにタオルを泡立て始めた。
可愛いか。
そうかもしれない。
俺の好きな、重力に負けて窮屈そうなFカップとは似ても似つかない。
でも、小池さんの沢庵みたいなおっぱいも、何ひとつ負けていなかった。
「小池さん」
「なーに?」
「長生きしてくださいね」
小池さんはニヤリと笑って、それから胸を持ち上げた。
「……まだまだ、さくらんぼちゃんも現役よ」
「お前、またポテトだけかよ」
トレーにポテトだけ乗せたヒデが隣に座る。
「なんかあの音聞くと、これ買っちゃうんだよな」
「洗脳じゃん」
「あ、あのおばちゃん、おっぱいでかい」
「えっ、どこ」
「……お前、でかけりゃいいのかよ」
「いや? でも少し垂れてるのもいいかなって」
「ほんっとブレねえな」
「ただ、あれは足りない。Fカップは神話だから」
「はいはい」
ヒデが笑って、ポテトを口に放り込む。
俺も笑った。
ただ、あれ以来。
垂れたおっぱいを見ると、少しだけ、負けた気がする。
「やっぱ、おっぱいってすげぇよ」
「お前、相変わらずバカだよな」
ヒデが、そう言って笑ってた。
皆様、ここまでお読みいただきありがとうございます。
こちらは、しとくんからバトンをいただいた、おっぱいリレーの二作目となります。
記念すべき一作目はこちら。
ご興味のある方、ぜひタグに「おっぱいリレー」とタグをつけてご参加いただけたらと思います。
そして、リレーということで。
バトンを、宵月 ユウ様に渡します。素晴らしいおっぱい……。
お願いします!
