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日本で生まれた芸術表現

 冷戦が終結してグローバル化が加速する国際化時代がスタートし、国内では昭和が終わり平成となった1989年からの約20年間、日本からどのような芸術表現が生まれたのか。
 それを検証してゆく企画展「時代のプリズム:日本で生まれた芸術表現 1989-2010」が2025年12月8日(月)まで東京・六本木の国立新美術館・企画展示室1Eで開催されている。
 同9月2日(火)にプレス内覧会が行われたのに参加した。
 「1989年、国内外でそれまでの体制が崩れてグローバリゼーションが始まったと言えるでしょう。日本にとっては2011年に東日本大震災という大きな転換点までにどういう芸術表現が生まれたのか」と同館の神谷幸江・学芸課長はいう。

国立新美術館の学芸課長・神谷幸江さん


 「64年に東京オリンピックがあり、70年に大阪万博が開かれて、政治的にも経済的にも安定していって、非常に行きやすい場所に日本がなっていきました。そして80年代からは多くのアーティストが海外からやって来て、日本にインスピレーションを受けた作品を創るようにもなりました」。
 「アジアの美術館M+(香港)と協働で今回の企画展が開かれるということからもそれは分かって頂けるでしょう」。

 まずはプロローグ
 ここでは89年に至るまでにすでに起こりつつあった国際化の流れを安齊重男さんの写真「ANZAIフォトアーカイブ」を中心に振り返っている。
 84年に来日したヨーゼフ・ボイスらの写真が紹介されており、日本を巡る芸術が国際化していく様子が見て取れるだろう。

(*以下、掲載写真は全て「時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010」国立新美術館 2025年 展示風景)

 「プロローグ」展示風景
クリスト《アンブレラ、日本とアメリカ合衆国のためのジョイント・プロジェクト》1987年 水戸芸術館蔵


 イントロダクション「新たな批評性」
 これまで欧米のイズムや美術の動向に感化されながら表現を行ってきたアーティストが、戦後憧れてきた海外のイズムなども含めたものとはある意味分断された、ランドセルとかプラモデルといった独自の素材を用いるなど、アーティストにとってのリアルな日常や社会状況を表現に取り込もうと試行し、ポピュラーカルチャーを引用。そうした作品たちが一同に会している。

森村泰昌《肖像(双子)》1989年 所蔵:森美術館、東京
椿昇《エステティック・ポリューション》1990年 金沢21世紀美術館蔵
村上隆《ランドセルプロジェクト》1991年 豊田市美術館蔵
中村浩大《レゴ》1990-91年 国立国際美術館蔵
大竹伸朗《網膜(ワイヤー・ホライズン・タンジュ)》1990-93年 東京国立近代美術館蔵

 レンズ1:過去という亡霊
 「過去は現代に生きるものにとって必ず考えるべき課題としてある。アーティストたちは戦後日本のポストコロニアリズムや移民、多様性、トラウマといったものを日本はどう咀嚼(そしゃく)しているのか」と神谷学芸課長はいう。
 実際、戦後生まれのアーチストたちは過去の重みを踏まえながら、戦争や広島・長崎の核のトラウマ、植民地支配の記憶といった課題に取り組み、歴史の通説を疑ってその読み直しを行った。

ヤノベケンジ《コンタミネイテッド・アトムスーツ》1997年 広島市現代美術館蔵

 ヤノベケンジは自らのリアリティを求めて、自作の防護服を着てチェルノブイリに足を運んだ。本展ではヤノベが実際に現地で使用した防護服とトランクを紹介している。

下道基行〈Torii〉から《サイパン、アメリカ》2006-12年 国立国際美術館蔵
下道基行〈Torii〉から《台中、台湾》2006-12年 国立国際美術館蔵
下道基行〈Torii〉から《サハリン、ロシア》2006-12年 国立国際美術館蔵

 下道は、写真シリーズ〈torii〉で日本の植民地時代の遺構として残る鳥居をサイパン、台湾、サハリンなどで撮影した。
 あるものは密林にそのままの姿で残り、あるものは人々が腰かける椅子がわりになり、あるものは広大な緑地に今も建っている。 

会田誠《美しい旗(戦争画RETURNS)》1995年 東京国立近代美術館蔵
米田知子〈Japanese House〉より《ポツダム宣言受諾時の首相、鈴木貫太郎の娘の家(青田・台北)II》2010年 作家蔵

 レンズ2:自己と他者と
 新旧の要素が融合する、独特で時に矛盾をはらむ日本文化は、海外で活動するアーチストたちをも触発する格好の材料となった。ジェンダー、ナショナリティなど様々なキーワードがある。自他の眼差しの交換のなかで、様々な角度からアイデンティティを問う試みを取り上げている。

森万里子《巫女の祈り》1996年 

 本章では女性作家の作品も多く紹介されている。「90年代に”女の子フォト”と呼ばれた、簡単にオートマティックに扱えるカメラを使った女性の写真家が台頭します。30年ほど経って見てみると、彼女たちの制作を通したある種の闘いだったことが分かります」(神谷学芸課長)。

 西山美なコ《ザ・ピんくはうす》1991/2006年 金沢21世紀美術館蔵
イ・ブル《無題(渇望 赤)》1988/2011年 リウム美術館蔵
大岩オスカール《古代美術館》1995年 豊田市美術館蔵
フィオナ・タン《人々の声 東京》2007年 ベルナール・ビュフェ美術館蔵

 レンズ3:コミュニティの持つ未来
 地域社会や既存のコミュニティとの関わりを模索し、人々と社会とのつながりや関係性を新たに模索していくプロジェクトの可能性に目を向ける。
 グローバル化のなかで他者との共生を探るアーチストたちの取り組みは、様々なかたちで従来のヒエラルキーを解体し、境界を乗り越える機動力を生み出してきた。

中村政人《トコヤマーク トキとコブキ》1992年 作家蔵
小沢剛《ベジタブル・ウェポンーさんまのつみれ鍋/東京》2001年 国立国際美術館蔵 
ナウィン・ラワンチャイクン《博多ドライヴ・イン》展示風景 
ナウィン・ラワンチャイクン《ドライヴ・イン》記録写真 1998年 作家蔵

 タイ人アーチストであるナウィンは福岡に住むことになり、自分の新たな生活を福岡市の歴史と人々の日常とつなげたいと考えた。

西京人《第3章 ようこそ西京にー西京オリンピック》(部分)2008年 金沢21世紀美術館蔵

 小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソックによるアーチスト・コレクティブ「西京人」は架空のアジア都市「西京」の社会や歴史をパフォーマンス、インスタレーション、写真など多様な媒体を通じて探究。
 当時開催中だった北京オリンピック(2008)に応答して独自のオリンピック大会を組織した。
 
 休館日は毎週火曜日。ただし、9月23日(火・祝)は開館、9月24日(水)は休館。
 開館時間は午前10時から午後6時(毎週金・土曜日は午後8時まで)。入館は閉館30分前まで。
 観覧料は一般2000円、大学生1000円、高校生500円、中学生以下は無料。
 問い合わせは℡050-5541-8600(ハローダイヤル)。展覧会公式サイトは https://www.nact.jp/exhibition_special/2025/JCAW/


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