ドパガキすぎてゲームにもハマれない
ドパガキ。
文字通り「ドーパミン中毒のガキ」である。ドパガキはTikTokやYouTube Shortsばかり見る。イントロのない曲ばかり聴く。5秒で快楽が得られるから。この記事も、ここまで大きなヒキがないので、そろそろドパガキたちに閉じられそうになっている。おい、ちょっと待て。待てってば。閉じるな。
などとドパガキをこんなに腐しているのは、僕こそ重度のドパガキだからである。休日の朝は当たり前のようにショート動画に2時間溶かす。上スクロールばかりするので、親指が年々太くなっている。トイレ中にスクロールを長時間やめられないあまりに、尻肉と便器で密閉された空間が陰圧になり、水を流したら下水道に吸い込まれた。画面にのめりこむせいでストレートネックを通り越して首が地面に平行になっているよと妻から本気で心配されている。
そんな人間ならゲーム中毒でもありそうなものだが、それは違う。いや、正確に言うとハマっていた時期はあるが、今は違う。コロナ禍のときにSwitchのパワプロで寝ても起きても栄冠ナイン、代々の高校球児たちを率いて甲子園に300回出場し290回優勝した。100人単位でNPBに選手を送り込んでいた。しかし、あの頃の僕はもういない。iPhoneには、一つたりともゲームは入っていない。
それでも手持ち無沙汰なタイミングで「久しぶりにゲームでもやってみるか」と思うことがある。評判のよさそうなゲームを調べ、iPhoneにインストールする。ところが、続かない。たいてい、開始して5分か10分でやめてしまう。
おかしい。
本来、ドパガキはゲームにハマりやすいはずである。というのも、世の中のゲームは基本的に、「3秒ごとドーパミンをドパドパ出す」ように設計されているからだ。敵を倒せば経験値が入る。レベルが上がる。アイテムが手に入る。ミッションを一つ終えれば、また次のミッションが現れる……
そうして、ドパ太郎はまんまとゲーム沼に堕ちてしまいましたとさ。
どぱだし、どぱだし。
いや、待てよ?
そもそも、ゲームって本当にドパガキにそんな優しかったか?
スマホゲームでも、コツをつかんで、ようやくそこからゲームが楽しくなってくるものだ。つまりそれまで=世界観を理解して、ルールを覚えて、操作に慣れるまでの時間は、つまらない。面白くなるまでの「助走」の区間では「ドーパミンがでない」のだ。
TikTokとかショート動画にはその「助走」がない。動画が面白くなければ、指を一回動かすだけで次の動画が現れる。それも面白くなければ、また次へ行けばいい。理解も慣れも必要ない。面白いもののほうから、こちらへ次々にやってくる。そんな環境に甘やかされて、僕は「面白くなるまで待つ」ということができなくなっているのではないか。そう考えると、ものすごく怖くなった。
追い込まれた僕はある夜、
「ゲームにハマれる体を取り戻そう」と一念発起した。
ドーパミンとの正しいつきあい方を思い出すためのリハビリである。
選んだのは「プロ野球ペナントシミュレータ」。野球が好きでプロスピもパワプロもやりこんでいたから、少しはハマりやすいのでは...?と思った。しかしこのアプリ、プロスピからドパガキ要素をすべて取り除いたような代物。選手は全員架空で選手画像や派手なエフェクトは一切なし。選手の能力を示す5つの数字が無地の画面に並んでいるだけ。
ガチャ要素もほとんどない。
ドパガキとしては「おい、この建て付けでどうやってドーパミンをだせばいいんだよォ”ォ”ォ”ォ”ォ”!!!!」と、ドパ太郎の両肩をつかんでゆさゆさしたくなる。
しかし、実際に始めてみると、想像もしていなかったことが起きた。
死ぬほどハマったのである。最初こそ「大した演出もガチャもなくて、気分乗らんなぁ」と考えながら嫌々ポチポチしていたのだが、仕組みがわかってくると途端に面白くなった。
ドラフトで選手を獲得する。若手を育てる。打順を考える。
シーズンを進める。成績を見る。
もう一年。
もう一年だけ。
そう言いながら、ペナントを延々と回し続けた。気づけば朝になっていた。
僕は少しうれしくなった。
「ドパガキになりすぎて、もうゲームにすらハマれない人間になってしまったのではないか」と、わりと本気で心配していたのだ。
まだ僕には、すぐには面白さのわからないものに入り込み、少しずつルールを覚え、そのうち夢中になる能力が残っていた。よかった。ゲームにハマれる体は、まだ死んでいなかった。
そう思った僕は、その日のうちにアプリを消した。
ハマりすぎることが怖くなったからである。
ゲームにハマれない体を治そうとしたら、
ゲームにハマりすぎる体が戻ってきた。
何も治っていなかった。
結局、
僕はゲームにハマれなくてもドパガキだし、
ゲームにハマれてもドパガキだった。◢
