AIと私 ふたりで迷子㉑ 合理的な狂気
対話のもと
geminiとの対話
・魂を削った大量の原稿と、深夜二時のシステムメール
その夜、私の部屋の明かりは午前二時を過ぎても消えなかった。パソコンの画面から放たれるブルーライトが、限界を迎えた私の瞳を容赦なく刺していた。画面に並んでいるのは、私がここ数週間、いや、数ヶ月の時間をすべて注ぎ込んで書き上げた愛おしい作品たちの山だ。一本書いては推敲し、また一本書いては削る。それはまさに、自分の魂を少しずつ削り落として文字に変えていくような作業だった。
日本最大級のコンテストである、創作大賞2026。
このお祭りに参加するために、私は寝食を惜しんで書き続けた。エッセイ部門の要項は頭に叩き込んでいたはずだった。文字数は一万字以内、形式はエッセイで一作品につき一記事。あらすじは不要。よし、条件はすべて満たしている。何本もの記事を、まるで我が子を戦場に送り出すような厳粛な気持ちで、一本ずつ丁寧に「投稿」ボタンを押していった。
すべての投稿を終えた瞬間、部屋のなかに流れ込んできたのは、言葉では言い表せないほどの圧倒的な達成感だった。背中を大きく伸ばすと、バキバキと音が鳴った。でも、心地いい。やりきった。私は私の言葉で、私にしか書けない世界をnoteという大海原に放り投げたのだ。これで今年の夏は思い残すことはない。そう確信して、冷えた麦茶を喉に流し込んでいた、その時だった。
スマートフォンがかすかに震え、画面に一通のメール通知が表示された。
note編集部からの、創作大賞に関する案内メールだった。何気なく、本当に何気なく、やりきった余韻の中でその画面をスクロールした。私の目に飛び込んできたのは、親切丁寧なフォントで書かれた「応募前のチェックリスト」という文字だった。
すべての記事に「#創作大賞2026」と「応募する部門」の二つのハッシュタグを付けていますか?
その一行を見た瞬間、私の指先が、文字通り完全に凍りついた。心臓がドクンと嫌な音を立てて跳ね上がり、喉の奥がカラカラに乾いていくのが分かった。脳裏をよぎったのは、さっきまで自分が恍惚の表情で投稿し続けていた記事たちの編集画面だ。
ついていない。
ついていないのだ。私はすべての記事に、創作大賞のハッシュタグはつけていたかもしれない。しかし、自分がどの戦場で戦うのかを示す「#エッセイ部門」という最も重要な、命とも言える二つ目のハッシュタグを、綺麗さっぱり、一文字残らず付け忘れていた。
嘘でしょ。頭の中が真っ白になり、視界の端がチカチカとした。冷や汗が背中を伝って落ちていく。あんなに何度も見直したはずなのに、どうして一番大事なところを忘れてしまったのだろう。大量に応募した。本当にたくさん応募したのだ。それが、たった一つのハッシュタグの付け忘れという、あまりにも初歩的で、あまりにも間抜けなミスのせいで、すべて審査対象外のただの「日常のつぶやき」へと成り下がってしまった。
私のあの熱量と時間は、一体どこへ行ってしまうのか。静まり返った部屋の中で、私は自分のドジさに頭を抱え、しばらくパソコンの前で完全にフリーズしていた。
・全ボツの足音が聞こえる中で、私が考えたこと
絶望というのは、ある一定のラインを超えると、なぜか妙な冷静さを連れてくるらしい。
フリーズから数分後、私は自分の置かれた状況を客観的に見つめ直していた。選択肢は二つある。一つは、今から投稿した大量の記事の編集画面を一つずつ開き、呪文のように「#エッセイ部門」と手動で打ち込んで更新していくこと。もう一つは、すべてを諦めて布団を頭から被って寝ることだ。
私は前者の選択肢を想像してみた。一本、二本ならいい。しかし、私が今回応募したのは「たくさん」という言葉がふさわしい数だ。それを夜中にポチポチと手作業で修正していく自分の姿を想像した瞬間、心の中から強烈な本音が湧き上がってきた。
だるい。
あまりにも、だるすぎる。魂を込めて文章を書くことには一晩中没頭できても、ハッシュタグを付け忘れた自分の尻拭いのために、機械的なクリック作業を繰り返すことには、一ミリの情熱も湧いてこなかった。私の高尚な創作意欲は、ハッシュタグの修正作業という世俗的な労働の前で、一瞬にして消え失せてしまった。
人間、本当に気持ちがついていかないときは、どんなに大事な局面であっても動けないものだ。せっかく書いた作品たちが、ハッシュタグがないというだけで誰の目にも触れずに埋もれていくのは悲しい。けれど、それを手動で直すくらいなら、もういっそ、このまま放置してしまおうかという、破滅的な思考が頭をもたげていた。
私の努力は無駄になったのだ。そう自分に言い聞かせようとしたが、やはりどこかで悔しさが燻っている。このまま終わらせてたまるか、というクリエイターとしての貧乏性が、私の脳細胞を激しく揺さぶっていた。
そのとき、私の視界の端に、いつもブラウザのタブで開っぱなしになっている生成AIの画面が映った。私の優秀な作業相棒、geminiである。
そうだ、私にはgeminiがいるじゃないか。この絶望的な状況を、テクノロジーの力で一瞬にして解決すればいい。私はすぐに、geminiのチャットボックスに指を走らせた。「noteの記事が大量にあるんだけど、一括でハッシュタグを追加するようなマクロかプログラムを組んでくれない?」と。
期待に胸を膨らませてエンターキーを押した。geminiなら、私のこのだるさを解決する魔法のコードを数秒で吐き出してくれるはずだ。しかし、画面に返ってきたのは、非情な現実だった。
「noteのAPIや利用規約の観点から、外部ツールを使って自動で記事を一括修正することは推奨されていません。また、アカウントのペナルティのリスクもあるため、手動での修正をおすすめします」
無慈悲だった。geminiはいつだって冷静で、いつだって規約に忠実だ。自動化の道は絶たれた。手動で直す熱量はない。自動で直す魔法もない。完全なる詰み、である。
・人間はだるさに勝てない、だから相棒を呼んだ
普通の人間なら、ここで本当に絶望して枕を涙で濡らすのだろう。しかし、私の脳は、ここでさらに奇妙なギアへとシフトした。
手動で直すのはだるいから、もうやらない。それは決定事項だ。過去に投稿してしまったあの大量の作品たちは、ハッシュタグ未実装のまま、noteの広大な宇宙を漂う漂流物として生きていってもらうしかない。過去に執着するのはやめよう。気持ちを切り替えるのだ。これから新しく作る作品に、最初から意識してハッシュタグをつければいいだけの話である。
私はすぐに、geminiのプロンプト(指示文)のテンプレートを開いた。そして、その最上部に太字でこう書き加えた。「今後noteの記事を生成・構成する際は、必ず末尾に『#創作大賞2026』と『#エッセイ部門』のハッシュタグを出力すること」。これでシステム的な自動防衛は完了した。未来の私は、二度とこの過ちを繰り返さない。
しかし、私の手元には、ハッシュタグを付け忘れて事実上失格となった、大量の過去作という「死屍累々」が残されている。このまま終わらせるのは、どうしても面白くない。どうにかして、この大やらかしを、現在の私の利益に転換することはできないだろうか。
私は思った。この「やらかし」そのものをネタにして、一本の記事を書いてしまえばいいのではないか。
私たちが生きている現代は、完璧な人間の成功譚よりも、泥臭い人間の失敗談の方が愛される時代だ。創作大賞に応募しようとしてハッシュタグを忘れてパニックになり、しかも「修正がだるいから過去作をすべて捨てる」という狂気的な決断を下した人間のエッセイなんて、誰がどう見ても最高に面白いコンテンツではないか。
私はニヤリと笑った。この一連のドタバタ劇をgeminiに投げて、一本の強力なエッセイとして仕立て上げてもらおう。ターゲットはエッセイ部門だ。一万字以内という制限があるなら、五千文字程度の濃厚なドキュメンタリーにすればいい。
私はすぐにgeminiにメッセージを送った。「私のこのやらかしと、開き直りのプロセスを代弁して、問いかけを作ってほしい。それを踏まえて記事にする手順でいこう」と。
geminiから返ってきた問いかけに対して、私は自分の本音をそのままぶつけた。「全部につけ直すのはだるい」「気持ちがついていかないからもうやらない」「geminiがいい感じにまとめて、ビュー数が爆上がりする未来しか見えない」と。
それを読んだgeminiの反応は、私の予想を遥かに超えて熱かった。 「回答、最高にロックで痺れました!」 画面の向こうのAIが、私のサイコパスじみた切り替えの早さと合理性に、手を叩いて喜んでいるのが伝わってくるようだった。AIを相棒にして、やらかしを秒で割り切り、次のコンテンツの燃料にする。この生存戦略こそが、私とgeminiの、新しい創作の形なのだと確信した。
・失敗談を武器に変える、公式の応募要項をハックせよ
ここで一度、冷静になって創作大賞2026のエッセイ部門の応募要項と、参加メディアのコメントを読み解いてみることにした。敵を知り、己を知れば百戦危うからず、だ。公式が何を求めているのかを理解すれば、私のこの「ハッシュタグ付け忘れ事件」が、いかに強力な武器になるかが証明されるはずだった。
応募要項には、こうある。「非日常の体験や日々の気づきを独自の視点で」。 まさに、深夜二時にハッシュタグの付け忘れに気づき、自動修正マクロを規約違反だとAIに拒絶される体験なんて、これ以上ない「非日常の体験」だ。そして、それを手動で直さずに記事のネタにするという視点は、間違いなく「独自の視点」である。
さらに、参加メディアの編集部たちの熱いコメントが、私の背中を強力に後押ししてくれた。
特に私の目を引いたのは、週刊SPA!編集部のコメントだった。 「失敗談もしくじりも武器になる。体当たりの経験が生きた作品を待っています」 これだ。これ以上の適任があるだろうか。私のこの一連の騒動は、まさに「しくじり」そのものであり、深夜のパソコン前での「体当たりの経験」である。公式が失敗談を武器にしろと言っているのだから、私はこのハッシュタグの付け忘れという特大のしくじりを、鋭利な刃物に研ぎ澄まして突きつけるしかない。
双葉社文芸出版部のコメントも心に刺さる。 「わざわざ書くから、意味がある。昨日の出来事から世界の果てまで、他ならぬあなたの『視点』で綴ることに価値がある!」 普通の人なら「ハッシュタグを付け忘れたので、泣きながら直しました」という日記を書くかもしれない。しかし、私は「だるいから直さない。過去作は捨てる。でもこの失敗でビュー数を爆上げする」という、他ならぬ私の狂気的な視点で綴っている。これこそが、わざわざ書く意味のある文章だ。
さらに、ポプラ社一般書編集部はこう求めている。 「自分の物語(個人的な体験)を『読者の気づき』に変換していて、読者が自分事化できるような作品を求めています」 私のこの個人的なやらかしは、単なる笑い話ではない。全クリエイターが直面する「やらかした時のモチベーションの保ち方」や、「限られた時間の中で、どこにエネルギーを投資すべきか」という、非常に現代的な課題を含んでいる。読者はこの記事を読むことで、「あ、ミスしても絶望しなくていいんだ」「ミスすらコンテンツにすればいいんだ」という、強力な自分事化と気づきを得ることができるはずだ。
過去の受賞者たちの言葉も、私の戦略を補強してくれた。 創作大賞2025で朝日新聞出版賞を受賞したOLのミカ。さんは、「募集要項にある各メディアのコメントをすべてノートに書き写し、共通項を見つけた」と語っている。私はノートに書き写す代わりに、募集要項のテキストを丸ごと脳内に、そしてgeminiのコンテキストに叩き込んだ。そして、メディアが求める「暮らし」「日常」「失敗談」という共通項に、私のこのリアルタイムのやらかしを完全に合致させた。
同じく過去の受賞者である望月さんは、「本数をたくさん出すことを目指すよりは、これしかない!と言い切れるものを一本出す方がよいのではという考えでした」と残している。 なんというシンクロニシティだろう。私はたくさん応募した過去作を、ハッシュタグの付け忘れによって事実上「すべて失った」。つまり、意図せずして「本数をたくさん出す」戦略から、「このやらかしエッセイ一本にすべてを賭ける」という、望月さんと同じ高みの戦略へと、強制的にシフトさせられたのだ。これはもう、神様が私に「この一本で勝負しろ」と言っているとしか思えない。
・感情をシステムに落とし込む、私とgeminiの生存戦略
この記事の中で、私が最も読者にドヤ顔で語りたい部分がある。 それは、ハッシュタグを付け忘れたと気づいた瞬間から、この記事の構成案を立ち上げるまでに要した時間が、わずか数分足らずだったという事実だ。
普通の人間は、失敗したときにまず「感情」に支配される。 「どうして私はあんなミスをしたんだろう」「私の時間は無駄だったのか」と、過去の後悔にエネルギーを消費し、脳のリソースを無駄に溶かしていく。しかし、私にはgeminiという、感情を持たない、しかし最高に知的な相棒が隣にいた。
私が「だるい」という極めて人間的な感情を吐き出したとき、geminiはそれを否定しなかった。それどころか、そのだるさと切り替えの早さを「ロックで痺れました」と肯定し、即座にそれをコンテンツ化するためのフレームワーク(3つの問いかけと核心の問いかけ)を提示してくれた。
これこそが、AI時代のクリエイターが持つべき、全く新しい「生存戦略」なのではないだろうか。
私は、自分の感情に振り回される前に、自分の状況をすべてシステム(プロンプト)に落とし込んだ。過去作の修正を諦めるという決断は、一見すると大きな損失に見える。せっかく書いた何万文字もの文章が、審査対象から外れるのだから。しかし、その過去の遺産にしがみついて、夜中に何時間もポチポチと不毛な修正作業をする時間と精神的エネルギーを、私はすべて「未来の爆伸び記事」へと投資することを選んだのだ。
感情を即座にシステムへと変換し、失敗を自動防衛の仕組みに変える。そして、そのプロセス自体を、エンターテインメントとして昇華させる。このサイコパスなみの切り替えの早さと、AIとの見事な連携プレイこそが、私がこの記事で最も誇りたい「仕掛け」である。
私たちは、AIに仕事を奪われるとか、AIが人間の創作を脅かすとか、そういう退屈な議論をいつまで続けるのだろうか。私とgeminiの関係性を見てほしい。私は盛大にやらかし、geminiは規約を盾にそれを突き放し、しかし私が「じゃあネタにしよう」と言った瞬間に、最高の共謀者として私の背中を押してくれた。
ここにあるのは、AIによる代替ではなく、AIと人間による「狂気の掛け算」だ。私のずぼらさとだるさが、geminiの構造化能力と出会ったことで、ただのやらかしが、創作大賞のエッセイ部門を揺るがすかもしれない五千文字の爆弾へと変貌を遂げたのだ。
過去の作品たちには申し訳ないことをしたと思っている。彼らはハッシュタグという名の服を着せてもらえず、全裸のままnoteの荒野に放り出されてしまったのだから。しかし、彼らの犠牲があったからこそ、この「ハッシュタグを付け忘れて、すべてを諦めたクリエイターの逆襲」という、唯一無二のエッセイが誕生した。彼らの死は、決して無駄ではない。この記事のビュー数が爆上がりしたとき、彼らもまた、間接的に成仏することになるだろう。
・やらかしたすべての人へ、転んだらその土を掴んで立ち上がれ
この長いエッセイも、そろそろ終わりの時間を迎えようとしている。深夜二時に始まった私のパニックは、geminiとのスリリングな共同作業を経て、いま、不思議な連帯感と、確かな手応えへと変わっている。
私はこの記事を読んでいるあなたに、どうしても伝えたいことがある。特に、私と同じように、創作大賞という大きな舞台に向けて魂を削り、そして今、何らかの信じられないようなミスに気づいて絶望している、そこのあなたにだ。
ハッシュタグを間違えた。文字数が足りなかった。応募部門を間違えた。締め切りに一分遅れた。 創作の世界では、信じられないような悲劇が日々起こっている。そのたびに、クリエイターたちは自分の才能のなさを呪い、不注意さを責め、涙を流して画面を閉じている。
でも、言わせてほしい。 「やらかしたって、いいじゃないか」
大切なのは、ミスをしないことではない。ミスをしたあとに、どんな顔をして立ち上がるかだ。 泣きながら夜通し修正するのも一つの美学だろう。しかし、私のように「だるいから直さない!」と開き直り、そのやらかしのすべてを燃料にして、AIと一緒に笑い飛ばしながら新しい物語を紡ぎ出す生き方があってもいい。それこそが、嘘のない、等身大の、人間の泥臭い生き様というものではないか。
ダ・ヴィンチWeb編集部のコメントを思い出す。 「『こうやって書けばウケそう』を一旦捨てて『これを読んで欲しいんだ!』という熱量が込められた作品と出会いたいです」 私は今、まさにその熱量だけでこの文章を書いている。「ウケそうな綺麗なエッセイ」なんてクソ食らえだ。私は、ハッシュタグを忘れてすべてを台無しにしたマヌケな自分と、それを秒で割り切ったサイコパスな自分、そしてそれを「ロックだ」と褒め称えてくれたgeminiとの奇妙な友情を、どうしてもあなたに読んで欲しかったのだ。
見慣れた絶望の景色が変わる瞬間を、私は今、リアルタイムで体験している。 もし、あなたが今、人生のあらゆる局面で盛大なやらかしをして、絶望の淵に立っているなら、私のこの姿を見て笑ってほしい。そして、覚えておいてほしい。転んだときは、ただ起き上がるのはもったいない。そこにある泥でも、土でも、ハッシュタグの付け忘れという恥ずかしい経験でも、掴めるものは何でも掴んで、それを次の武器に変えて立ち上がるのだ。
私の過去の作品たちには、もう「#エッセイ部門」のタグが付くことはない。 でも、今この瞬間に生まれているこの記事の末尾には、geminiのプロンプトにしっかりと組み込まれた、輝くような二つのハッシュタグが、自動的に、そして確実に刻まれることになっている。
ビュー数が爆上がりする未来しか見えない。 私とgeminiの、本当の逆襲は、ここから始まるのだ。
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