『ドラゴンクエスト』は毎回どのドラゴンをクエストしているのか。I〜XIの竜を全作捜索する
「ドラゴンクエスト」という題名は、冷静に読むとかなり具体的である。
ドラゴンをクエストする。
ならば十一作も続くナンバリング作品には、毎回それなりのドラゴンがいてほしい。
最低でも、こちらが何をクエストしているのか説明できる程度にはいてほしい。
ところが『ドラゴンクエストII』で討つべき相手は、もう竜王ではなくハーゴンとシドーである。
『III』はバラモスとゾーマ、『IV』はデスピサロ。
タイトルのドラゴンは、二作目にして早くも出勤しているのか怪しくなる。
もちろん、「ドラゴン」という名前の通常モンスターを一匹でも数えれば捜索は簡単だ。
しかし、それでは世界を救う大冒険を始めたはずが、モンスター図鑑の在庫確認で終わってしまう。
そこで今回は、『ドラゴンクエストI』から『XI』まで、各作品でドラゴンが何をしているのかを調べる。
竜そのものだけでなく、竜の血統、竜を名乗る組織や乗り物、世界観を支える象徴まで捜索対象にする。
なぜなら『VII』には、竜そのものではないのにノーカウントにできない「マール・デ・ドラゴーン」があるからだ。
生物だけを数える基準は、ここで壊れる。
各作品が「ドラゴン」という看板を、どの部署へ配属したのか。
全作の人事異動を追ってみたい。
この記事は『ドラゴンクエストI』から『XI』までの重大なネタバレを含む。
『X』Ver.3、各作品のクリア後要素、HD-2D版ロト三部作にも触れるので、ご注意いただきたい。
まず、竜の戸籍と勤務実績を分ける
ドラゴン要素を数えるとき、少なくとも二つの質問を分けないといけない。
一つ目は、「それは本当に竜なのか」である。
生物としての竜。
竜族や竜の血を引く者。
竜の姿へ変身する者。
そして、竜という名前や紋章だけを借りた船、組織、土地。
これらは同じではない。
二つ目は、「その竜が物語にどれほど効いているか」である。
最終ボスが竜なのか。
世界の成り立ちや主人公の出自に関わるのか。
一つの章で重要なのか。
それとも、道中で火を吐いているだけなのか。
この二軸を分ければ、竜王とマール・デ・ドラゴーンを同じ生物として扱わず、それでも両方を「作品が竜へ与えた役割」として比較できる。
なお、基準にするのは原則として各作品の本編である。
クリア後、リメイク追加、『X』の拡張は、その都度明記する。
発売前の『XII』は、さすがにまだ捜索令状を出せないので対象外とした。
I〜III、竜は魔王から重要参考人になる
I 竜がそのままクエストだった
初代は、タイトルに一点の曇りもない。
アレフガルドを闇で覆う敵は竜王であり、主人公の目的は竜王を倒すことだ。
最終決戦では人型の姿から巨大な竜へ変身するので、「竜王という肩書の人だった」という逃げ道もふさがれる。
さらにローラ姫を監禁する洞窟には、その名も「ドラゴン」が配置されている。
ただし原作では姫の救出は必須ではない。
物語上どうしてもクエストする竜は、やはり竜王本人である。
公式のロト三部作紹介も、初代を「闇の覇者・竜王」を倒す旅として説明している。
城から見える竜王の城へ向かい、最後は本物の竜を倒す。
初代だけは、商品名と業務内容が完全に一致している。
戸籍は「生物としての竜」。
勤務実績は「物語の最終目的」。
文句なしの基準点である。
II 竜王は倒され、ひ孫が居抜きで残った
『II』の中心敵は大神官ハーゴンと破壊神シドーである。
公式サイトのあらすじにも、竜王討伐の旅とは書かれていない。
タイトルを字義どおりに読む方式は、一作で終了した。
それでも、原作の竜王の城には「竜王のひ孫」がいる。
敵ではなく、話を聞けば攻略の手がかりをくれる側だ。
シリーズ二作目で初代ラスボスの子孫が助言者になっているのだから、かなり奇妙な平和利用である。
FC版をはじめとする従来版では、ひ孫が竜の姿へ変わるわけではない。
「竜王の血筋」と「生物学的に竜である」は分けたほうがよい。
ところがHD-2D版『II』のクリア後では、ひ孫が力を取り戻し、白い竜へ変身して戦う。
変身後を含む攻略情報にも記録されており、こちらは血統だけでなく生きた竜まで確認できる。
戸籍は「従来版では竜王の血筋、HD-2D版では竜の姿も明示」。
勤務実績は「初代との連続性と助言役。HD-2D版ではクリア後の重要人物」。
同じ『II』でも、版によってドラゴン濃度が上がった。
III 竜の女王は、対ゾーマ装備を支給する
『III』で最初に示される使命はバラモス討伐であり、その先にはゾーマがいる。
どちらもドラゴンではない。
だが、竜の女王が物語の重要地点にいる。
竜の女王から授かる「光の玉」は、闇の衣に守られたゾーマを弱体化させる決戦用の品だ。
竜はラスボスではなく、ラスボスを倒せる状態にする側へ回った。
本人の出番は短くても、支給物の重要度が高すぎる。
HD-2D版『III』公式サイトのキャスト欄にも、竜の女王は独立した登場人物として掲載されている。
そして女王は卵を残し、その子の平安を願う。
ここで「その卵がのちの竜王なのでは」と言いたくなるが、原作『III』単独では、その卵の名も将来も示されない。
一方、HD-2D版『I&II』の真のエンディングまで収めたプレイ映像を含めると、卵から生まれた存在が竜王だったことが明示される。
公式もHD-2D版ロト三部作には、三作のつながりを楽しめる展開があると案内している。
原作の余白と、後年に追加された答えは分けて数えたい。
戸籍は「生物としての竜」。
勤務実績は「決戦の核心アイテムと、ロト三部作の連続性」。
IV〜VI、竜は天空界の管理職になる
IV マスタードラゴンは世界の上役
『IV』のマスタードラゴンは、かなり明瞭である。
公式の人物紹介は、「全知全能といわれる竜の神。天空城を治めている」と説明する。
これは、名前にドラゴンと付く人ではない。
竜の神であり、天空城の統治者である。
ただし、主人公が倒す相手ではない。
勇者へ導きを与え、世界の秩序を上から見守る側にいる。
初代では魔王だった竜が、四作目では神と行政を兼任している。
勇者自身が竜の血を引くわけではないが、天空人と人間の間に生まれた出自も、天空界と地上の関係を物語の中心へ置く。
だから『IV』の竜は出番の長さ以上に、世界の縦方向を支えている。
戸籍は「生物としての竜の神」。
勤務実績は「天空城の統治と世界秩序の維持」。
V プサンという人間の姿で現場へ降りる
『V』でもマスタードラゴンは続投する。
ただし、最初から巨大な竜として玉座に座ってはいない。
人間の姿をしたプサンとして主人公たちに同行し、天空城の再浮上を導く。
その後、ドラゴンオーブによって真の姿へ戻り、天空のベルに応じて主人公たちを背に乗せて運ぶ。
有志によるDS版の会話記録にも、プサンが自らマスタードラゴンと名乗る場面が残る。
これは名前が似ているからという推測ではなく、本編での正体開示である。
『V』の旅の最終目的はミルドラースの打倒だが、マスタードラゴンがいなければ終盤の行動範囲そのものが成立しない。
戸籍は「人間の姿を取っていた、生物としての竜の神」。
勤務実績は「天空城の復活を導く協力者と、終盤の移動手段」。
竜を求めて旅をするというより、竜に乗せてもらって旅をするドラゴンクエストである。
VI 竜はいる。しかし名札を見せない
『VI』は、全作の中でもっとも推理欲を刺激する。
冒頭では、黄金の竜が主人公たちをムドーの城へ運ぶ。
終盤のゼニスの城では卵が未来の希望として扱われ、エンディングで孵化を思わせる光景が映る。
さらに天空シリーズの時系列を考えれば、「マスタードラゴンの誕生ではないか」という推測は非常に自然だ。
自然なのだが、ゲームは名札を出さない。
黄金の竜と卵が同一なのか。
卵から生まれる存在がマスタードラゴンなのか。
そこまでは台詞で確定していない。
公式書籍『ドラゴンクエスト25thアニバーサリー 冒険の歴史書』の37ページは、ゼニスの城がのちの『IV』『V』の天空城になったと記す。
公式ストアでも刊行情報を確認できるが、城の同一性と、画面に出た正体不明の竜の固有名は別問題である。
戸籍は「生物として竜の姿はあるが、固有名は不明」。
勤務実績は「冒頭の移動役と、天空シリーズの未来を思わせる謎」。
『VI』のドラゴン担当は受付に来ているのに、最後まで身分証を提示しない。
VII〜IX、竜は船名、家系、戦争の当事者になる
VII マール・デ・ドラゴーンは竜ではない。それでも重要である
『VII』の中心は、石版で失われた世界を取り戻す旅と、オルゴ・デミーラとの対立である。
物語の中核を担う生きた竜は、かなり見つけにくい。
ここで捜索を打ち切ると、マール・デ・ドラゴーンを丸ごと落とす。
作中の言い方を追うと、これは「海賊マール・デ・ドラゴーン」であり、彼らが乗る「マール・デ・ドラゴーン号」でもある。
有志によるコスタール周辺の台詞記録では、総領シャークアイが率いる海賊がコスタール王と契約し、海軍となったことが語られる。
つまり、分類上は生き物の竜ではない。
海賊団の名前であり、巨大な船の名前であり、彼らが掲げる旗印である。
スクウェア・エニックスの公式商品も、作中の図柄を「マール・デ・ドラゴーンのエンブレム」と呼んでいる。
しかも、総領シャークアイと妻アニエスは主人公の出生の秘密へ結びつく。
復活後の台詞と行動を追うと、一団は終盤の航海と戦いを助ける。
竜は動物として登場しなくても、主人公のもう一つの家と、海を進む力の名前になっている。
公式な語源や訳は確認できないため、外国語風の見た目だけで「海の竜」とは断定しない。
戸籍は「物語の中核を担う生きた竜ではなく、名称と紋章」。
勤務実績は「主人公の出生、終盤の航海、対魔王戦の援護」。
動物検疫では不合格だが、商標審査では上位に入る。
VIII 竜は主人公の戸籍に入っていた
『VIII』は、通常のエンディングまでなら竜の物語には見えにくい。
しかし、クリア後に竜神族の里へ進むと、主人公の出自が明かされる。
主人公は人間の父と竜神族の母の間に生まれた子である。
旅の最初から連れていたネズミのトーポにも、家族につながる大きな秘密がある。
主人公だけがトロデーン城の呪いを免れた理由も、竜神族の里でかけられた強力な記憶封じの呪いへつながる。
3DS版発売時の公式情報を伝えた4Gamerの記事も、エンディング後に巨大な竜神王が現れ、主人公の出生の秘密が明かされると紹介している。
本編の魔王ラプソーンを倒すために竜を追うわけではない。
だが、操作してきた主人公が何者かという問いの答えに竜が入っている。
戸籍は「竜神族と人間、双方の血を引く主人公」。
勤務実績は「主人公の正体と呪いの謎。ただしクリア後」。
『VIII』では、ドラゴンを探したら自分の戸籍から出てきた。
IX 光と闇の竜が、三百年前の戦争を続けている
『IX』には、グレイナルとバルボロスという対になる竜がいる。
前者は光の竜、後者は闇の竜である。
スクウェア・エニックスの公式紹介でも、両者は「光と闇の竜」とされ、どちらもドラゴン系として扱われている。
ここは戸籍に争いがない。
二頭は過去の戦争から因縁を持ち、ガナン帝国をめぐる物語の重要な章で再び対峙する。
グレイナルはドミールの里を守り、主人公を背に乗せて戦う。
バルボロスは帝国側の大きな戦力となる。
ただし、最終的な敵は堕天使エルギオスである。
光と闇の竜は世界の創造者でも、作品全体のラスボスでもない。
戸籍は「生物としての光と闇の竜」。
勤務実績は「長い戦争と、ガナン帝国をめぐる主要章の当事者」。
X〜XI、竜は一つの世界と世界そのものになる
X Ver.3だけ、看板が本気で仕事をする
オンライン作品の『X』を一つの点数で評価すると、必ず無理が出る。
十年以上続く作品では、ドラゴン要素の濃さもバージョンごとに変わるからだ。
Ver.1とVer.2には、それぞれ冥王や勇者を軸にした別の主題がある。
ところがVer.3「いにしえの竜の伝承」では、未知の世界ナドラガンドへ渡り、竜族と出会い、五つの領界をめぐる。
公式のストーリー紹介を縦に読むだけでも、Ver.3だけ「竜族」の語が前面へ出ることが分かる。
これは一頭のゲスト竜ではない。
種族、土地、信仰、対立を含む拡張全体の主題である。
その後のバージョンは、時間、魔界、天界など別の主題へ移っていく。
したがって「『X』は竜だらけ」でも「『X』に竜はいない」でもなく、「Ver.3のとき、作品まるごとがドラゴンクエストになる」が近い。
戸籍は「生物としての竜族」。
勤務実績は「Ver.3という大規模物語の舞台、種族、信仰、対立」。
XI 最後に調べると、世界の根が竜だった
『XI』の入口は、勇者の生まれ変わりである主人公が自分の使命を知る旅だ。
公式のあらすじにも、最初からドラゴン討伐へ行くとは書かれていない。
それでも竜は、物語のかなり深い場所にいる。
真のエンディングでは、命の大樹が聖竜のもう一つの姿だったと明かされる。
世界の命を支えていた大樹を最後までたどると、竜へ行き着くのである。
道中には邪竜ウルナーガもいるが、シリーズ全体を締める役として強烈なのは、こちらの聖竜だろう。
ただし、聖竜がいつか闇に染まる可能性を語ることと、「聖竜は未来の竜王である」と確定することは同じではない。
ロト作品へつながる映像や台詞が並ぶため連想は誘われるが、家系図の最後の線はこちらで引かないほうがよい。
戸籍は「生物として現れる聖竜」。
勤務実績は「命の大樹と世界神話の核心。ただし真のエンディング」。
竜を探して世界を旅したのではない。
世界を調べ切ったら、世界の根元から竜が出てきた。
結局、どの作品が一番ドラゴンクエストなのか
捜索結果として、全十一作に何らかのドラゴン要素は見つかった。
ただし、生き物とは限らなかった。
字義どおりの優勝は『I』である。
竜王を倒す旅なのだから、ここは動かない。
物語の広さで競うなら、『X』Ver.3も強い。
一頭ではなく、竜族とその世界が大型拡張一本を覆っている。
『II』は子孫、『III』は女王と決戦用の光の玉、『IV』と『V』は天空界の竜神、『VI』は名のない黄金竜と未来の卵を置く。
『VII』は竜の名を掲げる船と海賊、『VIII』は主人公の血統、『IX』は光と闇の戦士、『X』Ver.3は竜族の世界、『XI』は命の大樹のもう一つの姿である。
これらを一列の「竜の多さランキング」にすると、いちばん面白い違いが消える。
シリーズは毎回、竜を倒す話を繰り返してきたのではない。
ドラゴンの役割を変えてきた。
「ドラゴン」は内容物表示ではなく、神話の容器だった
では、ドラゴンが中心にいない作品まで、なぜ「ドラゴンクエスト」と呼ぶのか。
そもそも公式は、シリーズを「毎回ドラゴンを探すゲーム」と定義していない。
「ドラゴンクエストとは」の公式説明が前面に出すのは、プレイヤー自身が主人公となり、魔王を倒す壮大な冒険をひもとくRPGであることだ。
また、堀井雄二氏のCEDEC 2016基調講演を伝えた4Gamerは、題名に当時よく知られていた「ドラゴン」と、まだ馴染みの薄かった「クエスト」を組み合わせたと報じている。
GAME Watchの同講演レポートも、印象を強めるための組み合わせだったという趣旨で一致する。
公式の逐語録ではなく講演レポートなので、ここから言葉ごとの細かな意味まで創作はしない。
ただ、この命名なら、題名が生物の出演数を保証する商品表示ではなかったことは分かる。
「ドラゴン」は、剣と魔法、古い神話、未知の強敵、広い世界を一語で呼び込む看板だった。
そしてシリーズが長くなるほど、その看板は物語の中へ別の形で戻ってくる。
「ドラゴンクエストなのに、ドラゴンがいない」と探し始めると、竜は意外な場所から次々に出てくる。
ただし、ときには船として出てくる。
だから検疫官だけでは、このシリーズのドラゴンを半分しか見つけられない。
必要なのは生物図鑑だけでなく、家系図、組織図、世界地図、そして船舶名簿である。
ドラゴンクエストとは、毎回ドラゴンを倒す物語ではなかった。
毎回、「今回はドラゴンという言葉に何を背負わせるか」をクエストしてきたシリーズだったのである。
いいなと思ったら応援しよう!
活動を応援したいと思ってくれたら、無理のない範囲で。次の調査と、かわいい成分の補給に大切に使うよ。
