人はなぜ漫画に心を動かされるのか
日本の漫画は今や、世界を席巻する巨大産業へと進化しました。
たとえば『鬼滅の刃』。
その経済規模は、実に約1兆円とも言われています。
では、そんなメガヒットは
どうすれば生まれるのでしょうか。
今回紹介する一冊は、この問いに真正面から答えようとする本です。
『漫画ビジネス』は漫画を「産業」として読み解く本
今回ご紹介するのは、菊池健さんの著書『漫画ビジネス』。
これは、漫画を単なるエンターテイメントとしてではなく、その奥深くに潜む「産業構造」として徹底的に分析した、画期的な一冊です。
著者はコンサルタント出身で、漫画業界の調査・分析を行うシンクタンクを立ち上げた、まさにこの分野のプロフェッショナル。
本書では、
日本の漫画がなぜメガヒットを生み続けるのか?
漫画編集部の新人育成の仕組みとは?
漫画雑誌というシステムが持つ力
といったテーマを通して、
「面白い漫画は、いかにして生まれるのか?」
その根源的な問いを、ビジネスの視点から解き明かしていきます。
ヒットを生む唯一の方法は「裾野を広げること」
この本の中心にある考え方は、とてもシンプルです。
その言葉とは、
「裾野広ければ頂き高し」
漫画界の巨匠、ちばてつや先生が常に語っていた言葉です。
その意味は、驚くほどシンプル。
多くの漫画家が生まれ、無数の作品が世に出れば、その中から、とびぬけて素晴らしい傑作が誕生する。
漫画業界では、メガヒット作品が生まれる確率は、1000作にわずか3作と言われています。
つまり――
ヒットを生み出す唯一の方法は、とにかく「たくさん作ること」なのです。
少し乱暴に聞こえるかもしれません。
ですが、この世界には、決して揺るがない厳しい前提があります。
天才を「作る」ことはできない。
できるのは、ただ一つ。
天才が生まれる土壌をつくること。
それが、「裾野広ければ頂き高し」という、揺るぎない哲学なのです。
日本の漫画は「圧倒的な作品数」で育ってきた
では、日本ではなぜ、これほどまでに多くの漫画が生まれるのでしょうか?
その大きな理由の一つが、週刊漫画誌という、まさに奇跡のシステムです。
週刊誌では
約20作品が同時連載
毎週新しい話が掲載
想像を絶する量の作品が、毎週、毎週、生み出されているのです。
さらに漫画雑誌には、もう一つの特徴があります。
それは、競争の激しさです。
雑誌の掲載枠は限られています。
しかし、漫画家志望者は数百人規模にも上るのです。
つまり――
そう、そこでは「天才たち」が、同じ舞台で、互いにしのぎを削り合っているのです。
この熾烈な競争こそが、作品のレベルを限界まで引き上げ、私たちの心を揺さぶる傑作を生み出す原動力なのです。
漫画の歴史は「天才のバトン」でできている
私がこの本を読み進める中で、特に心を揺さぶられた瞬間があります。
れは、鳥山明先生の訃報に寄せられた、尾田栄一郎先生の言葉でした。
「漫画なんて読むとバカになるという時代からバトンを受け取り
大人も子供も漫画を読んで楽しむという時代を作った1人でもあり
漫画ってこんなこともできるんだ
世界に行けるんだ、という夢を見せてくれました。」
この言葉を読んだとき、私は深く考えさせられました。
一体、どれほどの「天才たち」が、この偉大な道を切り拓いてきたのでしょうか?
漫画の歴史は、まさに「天才たちのバトン」で紡がれてきた物語なのです。
手塚治虫
石ノ森章太郎
鳥山明
尾田栄一郎
一人の天才が、漫画の可能性を無限に広げる。
すると、その作品に心底憧れた次の世代が、さらに遠く、新たな地平へと踏み出していくのです。
こうして漫画は、少しずつ、しかし確実に、新しい時代を切り開いてきました。
漫画は「人間の欲望の設計図」である
この本は、漫画をビジネスの視点から分析しています。
ですが、読んでいるうちに、私は、もう一つの、深い真実に気づかされました。
漫画とは、もしかすると「人間の欲望の設計図」そのものなのではないか、と。
多くの漫画は、ある共通した構造を持っています。
主人公の「欠乏」
↓
それに対する「行動」
↓
そこから生まれる「成長」
↓
そして「承認」
この流れは、
実は人間の存在そのものにも似ています。
哲学者プラトンは言いました。
人は「欠けた存在」である、と。
心理学者フランクルは言いました。
人は「意味を探す存在」である、と。
もし、そうであるならば、漫画とは――
「人間という存在そのもの」を、最も鮮やかに物語化したメディア、なのかもしれません。
漫画家たちは、人間の感情を、驚くほど高い解像度で描き出します。
怒り。
嫉妬。
友情。
憧れ。
勝利への渇望。
漫画は、それらを極端な形で描くことで、私たち「人間という存在」を、深く、鮮やかに浮かび上がらせているのです。
私たちは、どんな物語に心を動かされているのか
漫画は、決してただの娯楽ではありません。
そこには、人間の欲望や憧れ、そして葛藤が、凝縮されているのです。
だからこそ私たちは、漫画を読むと、これほどまでに心を動かされるのでしょう。
天才たちが紡いできた、壮大な物語。
そのバトンの先に、今、私たち自身が立っています。
では最後に、ひとつ問いを。
あなたは、どんな物語に心を動かされてきましたか?
そして――
あなた自身は、どんな物語を生きているのでしょうか。
