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「もっと自分ごとにしろ」に、ずっと戸惑っていた

むかし、大きな企業で働いていた頃。
あるときから、急に言われ出した言葉があります。

「もっと自分ごとにしろ」

そのたびに、わたしは少し戸惑っていました。

自分ごとって、いったい何なんだろう。

だって、わたしにとっては、その仕事は最初から
「自分がやるべきこと」だったからです。

やらされている感覚も、なかった。
責任感だって、ちゃんとあった。
ちゃんと考えて、なんとか良くしようともしていました。

でも、それだけでは、まだ足りないらしい。

──じゃあ、いったい何を求められていたのでしょう?


最近、『「主体性」はなぜ伝わらないのか』を読んで、
あのころのモヤモヤが、少し言葉になった気がしました。


『「主体性」はなぜ伝わらないのか』は、「やる気」の本ではなかった


タイトルだけ見ると、
主体性を高める方法や、
仕事術について書かれた本に見えるかもしれません。

でも、この本が扱っているのは、もっと厄介な問題でした。

それは、「主体性」という言葉が、
人によって意味がちがう、ということ。

たとえば、
上司は「主体性が足りない」と思っている。

でも、本人は「自分なりに考えて動いている」と思っている。

つまり、どちらかが怠けているわけではないのです。
そもそも、“主体性”という言葉の中身が、ずれている。

読んでいて、かなり怖い話だと思いました。

なぜなら、わたしたちは普段、
こういう曖昧な言葉で、
人を評価し続けているからです。


主体性とは、「自分で考えること」だけではない

この本の中で印象的だったのは、

主体性には、
「自分なりに考える」だけではなく、
「発信する」ことも含まれている。

という話でした。

つまり、頭の中で考えているだけでは、
主体性とは認識されにくい、ということ。

ここを読んだとき、むかしのことを思い出しました。

わたしは、ちゃんと考えていたのです。
でも、その考えを、うまく外に出せていたかというと、自信がない。

あるいは、会社が見ていたのは、
「何を考えているか」より、
「どう関わろうとしているか」だったのかもしれません。

そう思うと、
あの頃のズレが、少し理解できる気がしたのです。

「自分ごと」は、評価の言葉になった瞬間に苦しくなる


ただ、この本を読みながら、
もう一つ感じたことがあります。

それは、「自分ごと」という言葉が、
いつのまにか“評価”になってしまうこと。

自分ごとにできている人。できていない人。
主体性がある人。ない人。

こういう言葉は、一見前向きに見えます。

でも、前向きな言葉ほど、疑いにくいもの。
だから、苦しくなってしまうのです。

しかも厄介なのは、
「自分ごと」の定義が、人によって違うことです。

自分から提案することなのか。
最後まで責任を持つことなのか。
会社全体の利益で考えることなのか。

その違いを共有しないまま、
「もっと自分ごとに」だけが飛び交っていく。

すると人は、“正解のない評価”の中で、
ずっと試されつづけることになるのです。


「主体性を持て」という言葉の矛盾


この本を哲学的に読むなら、鍵になるのは、
「主体性」という言葉そのものを疑うことだと思います。

多くの人は、
主体性を、「自分の意思を持つこと」だと思っています。

でも、本当にそうなのでしょうか?

この本を読んでいると、主体性とは、
“自分の中に最初からあるもの”というより、
他者との関係の中で成立するもの”に見えてくるのです。

たとえば、「主体的ですね」と言われるとき、
そこには必ず、“見る側”がいる、ということ。

つまり主体性とは、
完全に個人だけで完結するものではなく、
関係性の中で、初めて認識されるもの。

だから難しい。

「自分で考えろ」と言われながら、
同時に、「空気も読め」が求められるから、ではないでしょうか。

自由になれと言われながら、
期待から外れすぎてもいけない。

だから人は、ずっと“見えない正解”を
探しつづけてしまうのです。

本当に「自分ごと」にしている人は、説明しない

読み終わったあと、
わたしの中に残った問いがあります。

本当に、自分ごととして動いている人は、
「自分ごとにしています」と、
わざわざ言うでしょうか?

たぶん、本当に自分ごとになっているときって、
評価されるためではなく、
“放っておけない”から動いている。

そこには、「主体的に見られたい」より先に、
「気になる」「なんとかしたい」があると思うのです。

だから、主体性という言葉を、
評価のためだけに使いつづけると、
本当は生まれていたかもしれない熱量まで、
削ってしまうのかもしれません。


自分ごととは何か。

その問いは、仕事論というより、
「わたしは、何に心を動かされるのか」という、
生き方の問いに近いのだと思います。


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