【掌編】おかわり
※フィクションです。
駅の裏の定食屋は、カウンターが七席しかない。
昼にいくと、たいてい奥から二番目に同じ人が座っている。
六十代くらいの男の人だ。
その人は、おかわりのときに何も言わない。
食べ終わった茶碗を、少し持ち上げて、カウンターの上に出す。
それだけだ。
店主が黙って受け取って、よそって、返す。
わたしは何度か真似しようとして、できなかった。
手が途中で止まって、結局「ごはん、おかわりいいですか」と言っていた。
去年の春、店主が入院した。
しばらく閉まっていて、夏に再開したときは、息子さんが厨房に立っていた。
その日も、奥から二番目の人はいた。
食べ終わって、茶碗を持ち上げて、カウンターに出した。
息子さんは、はい? と言った。
男の人は、ごはん、と言った。
それが半年くらい続いた。
先週、久しぶりに行った。
男の人が茶碗を出して、息子さんが黙って受け取って、よそって、返した。
わたしはその日も、声に出して頼んだ。
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