遮断機が上がるまでの世界線
遮断機が上がるまでの世界線
夕暮れ時、
遠くで聞こえる踏切の警報音。
カン、カン、カン、
という一定のリズムが、
この世界の喧騒を一時的に停止させる。
遮断機が下りている間だけ、
人々は「移動」というルールから解放されて、
ただ立ち止まることを許される。
通り過ぎる電車の轟音が去ったあとの、不自然なほどの静けさ。
赤い光が消え、遮断機が上がるとき、
私たちは再び、時計の針が動く「ルールの世界」へと足を踏み出す。
アスファルトを蹴る靴の音。
再び動き出す自転車のチェーンの軋み。
誰もが何事もなかったかのように、元の「正しい歩幅」と「意味のある目的地」へと戻っていく。
けれど、私のポケットの中には、
さっきの静寂で拾い上げた、
名前のない時間が一粒だけ、まだ温かく残っている。
誰も気づかない。
私すら、次の角を曲がる頃には忘れてしまうかもしれない。
それでも、あの踏切の向こうとこちら側は、
ほんの少しだけ違う世界線に繋がっていたのだと、
背中に受ける夕日の長さが教えてくれている。


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