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けっこんの木 - ふたりでつづる結婚のものがたり




絵本『けっこんの木』



🌱 1ページ目

むかしむかし、でも そんなにむかしじゃないころ。
あるところに、ふたりのひとが けっこんをしました。
その名前は、サンタとフミ。
ふたりは、「けっこんって、たぶん 木を育てることだね」って思いました。

☀️ 2ページ目

サンタは おひさまが にこにこしてる 朝に、
木に みずをあげました。
フミは よるのしずけさのなかで、
木に「だいじょうぶ?」と 声をかけました。

🐛 3ページ目

ときどき 木に あめがふって、
サンタとフミは けんかもしました。
でも、木のしたには ベンチがあって、
「ごめんね」「ありがとう」が 座っていました。

🍎 4ページ目

木には 実がなって、葉っぱが ちらり。
実は あまかったり、すっぱかったり。
ふたりは 半分こにして、笑いました。

💬 5ページ目

木はことばを はなせません。
でも、ちゃんと見ていれば、
「いま、水がほしい」とか、「さみしいよ」とか、わかるのです。
だから ふたりは、目を合わせることにしました。

🌳 最後のページ

木は すぐには おおきくなりません。
それでも ふたりが ちゃんと みていて、
ときどき 泣いたり 笑ったりしているかぎり――
けっこんの木は、ゆっくり ゆっくり、育っていくのです。

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年次記録フォーマット(テンプレート)



📘 Year

今年、けっこんの木に起きたこと:

楽しかったこと・嬉しかったこと:

大変だったこと・すれ違い:

来年の木をどう育てたい?:

相手へのメッセージ:

この物語は、今、育ちはじめたばかりの「けっこんの木」。
つづきは、また1年後のページで。

結婚という問いから始めよう



風のない土曜日

10月のある土曜日、夢宮三太は紅茶の香りが漂うふみの部屋を訪れた。風は吹かず、街の音はどこか遠くで眠っているようだった。

「未来について考えてたの」

ふみはそんなことを言った。

「たとえば、私たちが結婚したらって話」

彼女の声は紅茶の湯気みたいに柔らかく、しかし確かに存在していた。

けっこんの木というアイデア



午後、公園のベンチで缶コーヒーを片手にふみは語り出す。

「結婚って、形じゃない。育てるものだと思う。木みたいに」

「木?」と三太が聞き返す。

「そう。“けっこんの木”。ふたりで水をやって、育てていく木」

その発想はあまりにふみらしくて、三太は笑ってしまった。

ノートと未来の記録

夜、ふみは1冊のノートを持ってきた。

"けっこんの木/年ごとの記録"

「結婚したら、1年に1ページ。この木の成長を物語にしよう」

「それって、日記?」

「ちがう。物語だよ、ふたりで書く物語」

三太のプロポーズの言葉とその意味

数日後の夜、静かなバーで、三太はふみに言った。

「僕と、一緒に“けっこんの木”を育ててくれませんか」

ふみは一瞬、笑った。そしてその笑いが消えたあと、しんとした空気の中で、目を潤ませて言った。

「それって、プロポーズ……?」

「うん。結婚しよう、じゃなくて、“育てよう”って言いたかったんだ。完了じゃなく、始まりの言葉として」

ふみはグラスの水に指をなぞりながら、小さく頷いた。

「あなたらしいね。でも、私、それがすごく好き」

結婚式をあげないという選択



三太とふみは、結婚式をあげないことに決めた。

それは、誰かに承認してもらう必要を感じなかったからではなく、承認のかたちを他人に委ねたくなかったから。

「式って、きっとひとつの“ゴール”に見えちゃうでしょ?」とふみは言った。

「でも私たちは、これからの“はじまり”を大事にしたい。けっこんの木を、育てていく物語のほうを」

「うん、式の代わりにこのノートを開こうよ」

そう言って、三太はふみの描いた“けっこんの木”の最初のページを見つめた。

「ふたりだけのはじまり。それがいちばん自然な気がする」

結婚は見せるものではなく、育てていくもの。

ふたりの決意は、静かに、しかし確かに、その日から根を張り始めていた。

家事の役割分担



結婚生活が始まって間もないある朝、三太は洗濯機の前でしばらく動かずに立ち尽くしていた。

「これ、どのボタン押すんだっけ?」

ふみは台所から顔を出し、少し笑いながら言った。

「“おまかせ”でいいよ。あと、ネットに入れてない靴下、あるでしょ?」

ふたりは結婚前に、家事について話し合った。

「役割を決めすぎると、義務になってしまいそうでいやなんだ」と三太は言った。

「うん。でも、“どちらかが全部抱える”のはもっといやだよね」とふみも答えた。

だからふたりは、「気づいたほうがやる」「無理なときは言う」「ありがとうは必ず伝える」をルールにした。

週末にはふたりで掃除をし、料理は交代制。失敗しても、それはそれで笑い話になった。

「家事って、生活のなかにある音楽みたいなものかもね」とふみが言ったある日、三太は小さく頷いた。

「つまり、どっちかが黙ったら、音が止まるってことだ」

ふたりの家事のリズムは、まだたどたどしいけれど、確かに奏で始めていた。

休日の過ごし方



日曜日の午後、三太とふみはベランダに出していた小さなテーブルでコーヒーを飲んでいた。

「ねえ、せっかくの休日って感じだけど、どうする?」

ふみが尋ねると、三太は本を閉じて言った。

「実は、午後から古本市に行きたくて。でも、君はどう?」

「それもいいけど、今日は映画を観たい気分かも」

ふたりは少し考えてから、ホワイトボードを取り出した。

“ひとりでしたいこと”“ふたりでやりたいこと”“お互いの趣味”――そう書かれた三つの欄を前に、ペンを持って座る。

三太は「喫茶店めぐり」「ひとりで散歩」と書き、ふみは「刺繍」「カフェで静かに本を読む」と記した。

そして、ふたりで一緒にやりたいことの欄には、「日帰り旅」「一緒に料理」「季節のフォト散歩」といった言葉が並んだ。

「全部やろうとしなくていい。でも、“今日はどれを選ぶ?”って話せるのがいいね」

「予定より、対話を大事にしたいもんね」

ふたりは、予定を決めすぎず、お互いの“自由”と“共有”が交差するところを探しながら、休日を編んでいった。

そしてその柔らかな時間こそが、「けっこんの木」にとっての、たっぷりの日差しになっていた。

子どもができたときの子育て分担



ある夜、食後の食器を片づけながらふみがぽつりと言った。

「もし、子どもができたらさ。どんなふうに育てたい?」

三太は水を止め、少し考えてから答えた。

「うーん、決めつけたくないけど……できるだけ“ふたりで”って思ってる」

「家事と一緒で、育児も“役割”というより“協力”だよね」

ふたりは、子どもが生まれる前から想像の中で何度も話し合った。

夜泣き対応、食事の支度、保育園の送り迎え、病院への付き添い。すべてが未知だけれど、どちらか一方の“義務”にはしたくないと、心の底で共通して思っていた。

「その時の自分たちの生活状況を見て、柔軟に決めたい。でも、“大変さ”を一緒に感じていたいよね」

「うん。“助けて”って言える関係でいたいし、“助けてくれてありがとう”って言える関係でもいたい」

まだ子どもはいない。でも、「けっこんの木」の幹に、すでに“未来の枝”は芽を出していた。

📘 Year 2 ー2冊目の『けっこんの木』



ふたりが結婚して、ちょうど1年が過ぎた。

季節はまた、紅茶の香りがよく似合う秋になっていた。

ふみは本棚から1冊のノートを取り出した。

「“けっこんの木”、2冊目に入ろうか」

三太はそのノートの表紙に、小さな木のイラストを描き足しながら微笑んだ。

「1年目の木は、どうだったと思う?」

「うーん、枝が1本増えた気がする。でも、まだ根っこを広げてる途中かな」

ふたりはソファに並んで座りながら、1年を振り返った。

たくさんの会話、小さなケンカ、なにげない笑い。

「日常って、積もるものなんだね」

「うん、“特別”より、“くり返し”が木を育てるんだって、少しわかった」

そして、2冊目の最初のページにこう書いた。

2年目の木は、少しだけ高くなった。
でも、それ以上に根っこが広がって、
水を見つけるのがうまくなった。
枝が風にゆれるたび、
ふたりは「大丈夫だよ」と笑ってる。

けっこんは、たぶん、そういう木。

喧嘩をしたときの解決法



雨の夜、三太とふみはひどく些細なことで言い合いになった。

きっかけは洗濯物の干し方だったけれど、いつのまにか話は脱線して、日頃のモヤモヤまで飛び出してきた。

「なんでそんな言い方するの……?」

ふみの声がかすかに震えた。

三太も、言ったあとで「まずかった」と思った言葉を飲み込めずにいた。

ふたりはしばらく別々の部屋にこもった。

夜が更けたころ、三太がメモを持ってふみの部屋に入った。

『喧嘩をしたら、まず“気持ち”を話す。
事実じゃなくて、気持ち。
相手を責めるんじゃなくて、わかってほしいと伝える』

ふみはしばらく黙っていたけれど、小さくうなずいた。

「私も、ちょっと不安だったのかも」

ふたりはその夜、“ルール”をつくった。

・怒っているときは、一度離れて頭を冷やす
・再開するときは、相手の話を最後まで聞く
・“ごめん”と“ありがとう”は、できるだけ早く言う

喧嘩は、なくならない。 でも、ふたりは「喧嘩しながら育つ木もある」と思っていた。

その日、けっこんの木は静かに雨を吸い込んで、少しだけ強くなった。

📘 Year 3 ー3冊目の『けっこんの木』



季節はまたひとまわりして、ふたりは結婚から3年目を迎えた。

ベランダの小さなオリーブの木に、初めて小さな実がついた春の日。

ふみがその実を指さして言った。

「この子、たぶん“けっこんの木”の分身だね」

三太は笑いながら、新しいノートを取り出した。

「じゃあ、今年も書こうか。3冊目」



ノートの表紙には、ふたりで描いた3本の枝。真ん中の枝には、小さな実がひとつ描かれていた。

「この1年、どうだった?」とふみが尋ねると、三太はゆっくり答えた。

「大きな変化はないけど、日々の中に、“当たり前の幸せ”が増えてきた気がする」

ふみはうなずきながら言った。

「ちゃんと、“ごめん”と“ありがとう”が言える時間が続いたから、木はちゃんと立ってる」

ふたりは今年もこうして、「けっこんの木」を育てる物語を紡ぎ始めた。

3年目の木は、静かに実をつけた。
派手じゃなくても、味がある実。
雨の日も、風の日も、ふたりがそばにいたから。
それだけで、この木は、立っていられた。

ふたりの住む家



結婚を決めたとき、三太にはひとつの提案があった。

「横須賀の、うちの実家。海の見える家なんだけど、どうかな」

築25年のその家は、三太の両親が住んでいた場所で、今は空き家になっていた。

ふみは少し驚いた顔をしたが、数日後、実際にその家を見に行った。

玄関の木の香り、2階から見える海の水平線、階段のきしむ音。

ふみはそっと言った。

「この家、育てられそうだね」

ふたりは家のリフォームを決めた。

ふみのアイデアで、和室を取り払って広いリビングに。キッチンは対面式にして、会話が聞こえるようにした。

「ここで、朝ごはん食べてるとき、海が光ってたら素敵だなって思って」

「それ、いいね」

家そのものが、“けっこんの木”の根になるような気がした。

ふたりは、手を加えるたびに「この家が好きになるね」と言い合った。

暮らすということは、住むこと。 住むということは、根を下ろすこと。

海のそばで始まったふたりの生活は、風の匂いと潮の音をまといながら、静かに流れ出した。

新しい命



春の終わり、ふみは朝の台所で静かにカップを握っていた。

湯気の向こうで、彼女はぽつりと言った。

「ねえ、なんかね、私の中に…新しい命がいるかもしれない」

三太は一瞬だけ時が止まったように感じた。

スプーンを置いて、ふみの手をとった。

「ほんとに?」

ふみはうなずいた。

涙ぐんでいるのか、笑っているのか、本人にもよくわからなかった。

その日から、世界のすべてが少しずつ違って見えはじめた。

駅までの坂道、朝の光、湯気、玄関の靴──すべてが「三人」で見る風景になった。

ふたりは医者に行き、小さなエコー写真を受け取った。

「この点、が命なんだってさ」

ふみは写真を見ながら言った。

「点、なのに重たいね。心が」

三太はその写真を、家の壁に小さく貼った。

「この家、もっと育てていかなきゃね」

その夜、ふたりは“けっこんの木”の絵本に小さな芽の絵を描き加えた。

風がやさしく吹いて、土の中でなにかが動いた。
小さな芽は、見えないところで確かに息をしていた。
木の根は、もっと深くへ。
そしてふたりの手は、そっとその土を包みこんだ。

お腹が大きくなっていくふみ



季節がめぐり、夏の終わりには、ふみのお腹はふっくらと丸くなっていた。

朝、カーテンを開けた光が差し込むリビングで、ふみはワンピースのお腹をなでながら、少し困ったような笑顔を浮かべた。

「この子、夜中によく動くんだよ。おかげでぜんぜん寝られない」

三太は台所からミントティーを運びながら笑った。

「きっと、夜型なんだな」

お腹に話しかけるのが、ふたりの日課になった。

「おはよう。今日もいい日だよ」 「パパですよ、きのうも夢に出てきた?」

そしてふみはある日、不意に言った。

「自分の体なのに、自分じゃないみたいな感覚がある。
不安じゃないって言えば嘘だけど……でも、奇跡みたいだとも思う」

三太は少し黙って、ふみのそばに座った。

「一緒に全部、見ていくよ。怖いことも、嬉しいことも」

その日、ふたりは“けっこんの木”の絵本に、丸く膨らんだ枝を描き加えた。

枝のひとつが、ふくらんで、重たくなってきた。
風にゆれて、葉がやさしく守っていた。
その重さは、ふたりで支えることにした。
木は、見えないところで力を蓄えていた。

出産 - ひかりの誕生



その日は、雨が降っていた。

早朝、ふみがベッドの上で眉を寄せた。

「……来たかもしれない」

三太は跳ね起きて、病院へ向かう準備を始めた。ふたりは静かに手をつなぎ、波のような痛みの合間をぬって、息を合わせた。

分娩室の空気は、張り詰めていた。

「がんばれ、ふみ……!」

何度も声をかけるしかできない自分の無力さに、三太は唇をかんだ。

数時間後、ふみの叫びとともに、世界が音を変えた。

「……オギャア!」

その瞬間、空が割れたような、まぶしい光が射し込んだ気がした。

涙が止まらなかった。ふみも、三太も、看護師も。

「女の子です」

助産師の声がやさしく響いた。

ふみは汗で濡れた髪のまま、微笑んだ。

「光……この子、光って名前にしよう」

三太はうなずき、そっと赤ん坊の頬に触れた。

「光……ようこそ。きみが来てくれて、世界がちょっと変わった気がするよ」

その夜、“けっこんの木”の絵本に、新しい枝と小さな芽を描き足した。

雨の中で、小さな新芽が生まれた。
名前は「光」。
木の枝は、今、そっとその芽を守っていた。
世界が、少し明るくなった気がした。

はじまりの育児



光が家にやってきた日から、世界の音が少しずつ変わっていった。

夜中の泣き声、ミルクを沸かす音、ベビーベッドの軋む気配。

ふたりは慣れない手つきで、日々を繰り返した。

「三太、オムツ替えは今日の担当だよ」

「了解、隊長」

冗談を言い合いながら、睡眠不足の目で支え合った。

お風呂は、三太の担当だった。

最初の夜、小さな光を腕に抱き、湯船にそっと浸ける。

「よしよし、こわくないぞ、パパだよ」

光は少し泣いて、少し笑って、湯気の中におさまった。

ふみはタオルを広げながら見守っていた。

「不思議ね、こんなに小さいのに、もうちゃんと家族なんだなって」

その夜、“けっこんの木”の絵本には、湯気のたつ葉の絵が描かれた。

木の根元に、小さな泉ができた。
葉っぱが一枚、お湯のなかで揺れていた。
ふたりの手が、それをそっとすくいあげた。

はじめてのことば



ある静かな午後のこと。

光はリビングのカーペットの上で、おもちゃのうさぎをつかんでいた。

ふみが洗濯物を畳んでいると、背後から小さな声が聞こえた。

「……ぱ、ぱ」

ふみは振り返った。

「え? 今、言った?」

「ぱ、ぱ」

三太が台所から顔を出し、目をまるくする。

「いま、『パパ』って……?」

ふみは笑って、ちょっとだけ唇を尖らせた。

「ママ、じゃなくて?」

三太は光を抱き上げながら、天井を見上げて言った。

「聞いたか世界よ、ついに俺の時代が来た」

ふみはくすくすと笑いながら、そっと言った。

「でも、ほんと、しゃべるようになったんだね。すごいなあ」

その夜、“けっこんの木”の絵本には、小さな言葉の実が描かれた。

木の枝に、ことばの実がひとつなった。
はじめての音は「ぱ」。
小さな声が、風にのって枝をゆらした。
ふたりは、実をそっと手にとった。

光のお気に入りのおもちゃ



光には、特別に気に入っているおもちゃがあった。

それは、ふみが妊娠中に買っておいた、淡い黄色のぬいぐるみのヒツジ。 名前は「もこちゃん」。

もこちゃんは、いつも光のそばにいた。

寝るときも、食べるときも、お出かけのときも、時には洗濯機に入れられるときでさえ、光は窓の外からじっとその姿を見守った。

「いないと寝られないの。もこちゃんが必要なの」

三太はそれを見て、「まるで小さな守り神だな」とつぶやいた。

ある夜、三太が出張でいなかったとき、光はもこちゃんをぎゅっと抱いて、こう言った。

「パパいないけど、もこちゃんがいるからだいじょうぶ」

ふみはその言葉に、胸がぎゅっとなった。

“けっこんの木”の絵本には、その晩、やわらかな毛並みのヒツジの姿が描かれた。

木の枝の上に、小さな雲がすわっていた。
それはふわふわしていて、心のよりどころだった。
名前は「もこちゃん」。
木も、どこか、安心した顔をしていた。

はじめて歩いた日



その日は、リビングに光が散らかしたおもちゃが点々と転がっていた。

三太がソファに座って新聞を読んでいたとき、ふみの声が響いた。

「三太、見て! 光が……!」

三太が顔を上げたとき、光はテレビ台の端をつかみながら、小さな足を一歩、そしてもう一歩と動かしていた。

「おおお……光!」

重心はぐらぐらで、足取りもあやふや。

けれど、それはまぎれもなく、“歩いて”いた。

ふみは息を止めるようにして見守っていた。

光が三太の胸に飛び込んできたとき、ふたりは歓声をあげて抱きしめた。

「歩いたね、歩いた!」

光はなぜか照れくさそうに笑った。

その晩、“けっこんの木”の絵本には、枝のあいだから空へ向かって一歩踏み出す小さな足あとが描かれた。

木のまわりの土に、小さな足あとがふたつ。
それはまだ頼りないけれど、まっすぐ空を目指していた。
木の葉が、そっと風で拍手を送った。

はじめての病気



それは、ある寒い晩のことだった。

光の体がいつもより熱く、ふみが額に手を当てたとき、その異変にすぐ気づいた。

「三太、熱がある……高い」

時計は深夜を過ぎていた。

三太は救急相談の番号を調べ、ふみは保冷剤をタオルに包みながら涙をこらえていた。

「もっと早く気づいてたら……」

「落ち着こう。とにかく今できることを」

ふたりとも気が動転し、部屋をあっちへ行ったりこっちへ来たり。

お湯を沸かして、飲ませようとしてはこぼし、冷却シートを貼っては位置がずれてやり直す。

そのとき、布団のなかから、小さな声がした。

「ふふ……」

光だった。

ふたりの慌てる姿が、どうやら面白かったらしい。

三太とふみは顔を見合わせ、ふっと力が抜けた。

「笑ってる……」「余裕あるな、本人が」

その夜、“けっこんの木”の絵本には、風邪ひきの葉っぱにマフラーが巻かれていた。

木の葉が、すこし熱を出した。
ふたりは風のように走り回った。
でも、木は笑っていた。
きっと、それがいちばんの薬だったのかもしれない。

1歳の誕生日



光が生まれて、ちょうど1年。

ふたりはこの日のために、手作りのケーキを用意した。赤ちゃんでも食べられるように、バナナとヨーグルトをベースにした優しい味。

部屋には、ふみが作った小さな旗が飾られていた。 「Happy 1st Birthday, Hikari」

三太はカメラを構え、ふみはロウソクに火をともす。

「光、1歳おめでとう!」

光は、まだよくわかっていないような表情で、ケーキの上の火を見つめていた。

ふたりはその姿に笑いながら、ろうそくを一緒に吹き消した。

「ここまで来たね」「うん、あっという間だったような、長かったような」

“けっこんの木”の絵本には、枝に1つめの実と、小さな1の数字が描かれた。

木に、まるい実がなった。
それは、ひとつぶの時間のあかし。
ふたりと、ちいさな光が育てた、1年目のしるし。

📘 Year 4 ー『けっこんの木』第4冊目より



今年、けっこんの木に起きたこと:
光が歩き、話し、そして笑いながら世界を知ろうとした一年だった。三太とふみは、手を取り合いながら、彼女の成長を追いかける毎日だった。

楽しかったこと・嬉しかったこと:
初めての誕生日会、家族3人での近所の桜並木散歩、光の「パパ」という最初の言葉。何気ない日常に、小さな奇跡がたくさん転がっていた。

大変だったこと・すれ違い:
病気の夜や、夜泣き、寝不足。お互いに「自分ばっかり」と感じる日もあった。でも、光の笑顔に何度も救われた。

来年の木をどう育てたい?:
もっと話し合って、休む時間も大切にしたい。ふたりで過ごす時間も、ちゃんと確保していこう。木の根を、より深く強く。

相手へのメッセージ:
三太へ:あなたがいてくれて本当によかった。
ふみへ:君の優しさに、毎日救われてる。

“けっこんの木”の第4冊目の表紙には、少し太くなった幹と、枝先にぶら下がるブランコ。その上に乗った、小さな女の子が風に髪をなびかせていた。

保育園に午前中 預けて 2人の時間を作る

光が2歳を過ぎたころ、ふたりは午前中だけ保育園に預けることにした。

「少しだけ、ふたりの時間もほしいね」 そう言ったのはふみだった。

三太も静かにうなずいた。「光のためにも、僕たちのためにも、いいと思う」

はじめての登園の日、光は少し不安そうな顔をしながらも、保育士の手を握って教室に入っていった。

「泣かなかったね」「うん、ちょっとびっくり」

家に戻ったふたりは、少し手持ち無沙汰になりながらも、久しぶりに淹れたコーヒーをゆっくりと飲んだ。

「こうして並んで座ってるだけで、不思議と安心するね」

「ほんとだね。ちょっと前まで、こんな時間もなかったもんね」

午前の数時間、ふたりは散歩をしたり、本を読んだり、黙って音楽を聞いたりした。

静かな時間が、“けっこんの木”にそっと日光を注いでいくようだった。

木のまわりに、静かな光がさした。
それは、風のない日曜の朝みたいに、やさしくて、ゆるやかな時間だった。

2歳の誕生日



光が2歳になった日、ふたりはまた手作りの誕生日会を開いた。

今年は、光の好きな色「白」にちなんで、白い風船とレースの布を飾った部屋。

ふみは米粉と豆乳で優しいケーキを焼き、三太はリビングに映すためのスライドショーを作った。

「去年は火を見つめてただけだったのに、今年は…」

ロウソクを吹き消す瞬間、光は少し得意げに頬をふくらませて、フッと吹いた。

「あっ、ちゃんと消えた!」と三太が拍手。

「おめでとう、光」とふみが抱きしめる。

光は笑って、「またやる」と言った。

その夜、“けっこんの木”の絵本には、白い風船が枝に揺れていた。

木の上に、ふわふわの風船がとまった。
風はふたりと光の時間を、空にそっと運んでいた。

📘 Year 5 ー『けっこんの木』第5冊目より



今年、けっこんの木に起きたこと:
光が保育園に通いはじめ、ふたりの時間が少し戻ってきた。光の成長とともに、家族のリズムも新しくなった。

楽しかったこと・嬉しかったこと:
朝の散歩、昼間のカフェ、音楽を一緒に聴く時間。光の初めての発表会では、ふたりとも涙ぐんで拍手した。

大変だったこと・すれ違い:
新しい生活リズムに慣れるまでは、お互いの「疲れ」が見えづらくなった。でも、ゆっくり話し合い、また歩幅を合わせた。

来年の木をどう育てたい?:
光の世界をもっと広げたい。そして、ふたりの世界も忘れずに、育て続けたい。ときどき、手をつないで歩く時間を忘れずに。

相手へのメッセージ:
三太へ:あなたとなら、どんな季節も怖くない。
ふみへ:君の笑顔が、僕の灯り。

今年の“けっこんの木”の表紙には、小さな木のブランコに3人が乗っていた。枝には「またね」と書かれた風船が、ゆっくりと空に浮かんでいた。

保育園の発表会



冬の終わり、保育園で発表会が開かれた。

光は、舞台の端っこに立っていた。緊張しているのか、手をぎゅっと握りしめて、目線はずっと床を見ていた。

「がんばれ、光」とふみが小さくつぶやいた。

三太はカメラを構えたけれど、指先が少し震えていた。

やがて、音楽が流れ、光が小さくステップを踏みはじめた。

ぎこちないけれど、たしかなリズム。途中で立ち止まり、友だちと目を合わせると、ふっと笑って再び動き出す。

最後には、観客の方を向いて、小さな手で「ありがとう」のポーズ。

その瞬間、ふみの目に涙があふれた。

「ちゃんと、自分の力で立ってたね」

三太も静かにうなずいた。「ああ、すごく、すごく光らしかった」

その夜、“けっこんの木”のノートには、ステージの木と、そこに立つ小さな女の子が描かれていた。

木の枝に、ひとつの星がともった。
小さな声と、大きなまなざしが、世界に届いた日だった。

初めての友達と ママ友



ある日、光が「はるちゃん」とうれしそうに名前を呼んだ。

「はるちゃんって?」とふみが聞くと、光は絵本を指さしながら「おなじくつ、いっしょにわらったの」と答えた。

その日から、毎朝の登園は少し楽しげになった。門の前で「はるちゃん!」と声をあげる光。その隣で、ふみもはるちゃんのママと会話を交わすようになった。

「朝ごはん、なかなか食べない時期ですよね」

「わかります!うちも…」

共感と笑いが少しずつ積もって、名前を知らないままでも「また明日」が言える関係になった。

三太がふみの話を聞いて言った。

「光だけじゃなくて、ふみにも“はじめての友達”ができたんだね」

ふみは少し照れながら、「うん、そうかも」と笑った。

木の根元には、小さな芽がふたつ。
風にそよいで、向かいあって、笑っていた。

はるちゃんが家に来る ママと一緒に

ある土曜日、はるちゃんとそのママが遊びに来た。

光は朝からそわそわしていた。お気に入りのおもちゃを並べて、「これははるちゃんにもみせる」と何度も確認した。

インターホンが鳴くと、光は玄関まで走っていった。「はるちゃーん!」

ふみは手づくりのサンドイッチをテーブルに並べ、少し緊張しながら、はるちゃんママを迎えた。

「こういうの、初めてで…」

「うちもですよ。でも、こうして会えるとちょっと安心しますね」

光とはるちゃんはリビングで絵本を読んだり、ブロックを積んだり、ときどきケンカしながらも楽しそうに過ごした。

「子どもって、こんなふうに自然に関係をつくれるんですね」

ふみのその言葉に、三太が微笑んで頷いた。

木の枝に、ふたつの小さな巣。
どちらにも、笑い声がふんわり揺れていた。

初めての「好き」 けんと君に嫉妬する三太



ある日、保育園から帰ってきた光が、夕ごはんの最中にぽつりと言った。

「けんとくん、かっこいいの」

三太の箸が止まった。「けんとくん?」

ふみがくすっと笑って、「好きな子ができたの?」と聞くと、光は照れたようにうなずいた。

「いっしょに、すべりだいしてくれるの」

三太は無言でごはんをかきこみながら、どこか複雑な顔をしていた。

「まさか、もう“好き”とか言う歳なのか…」

ふみは三太の表情を見て笑いながら、「そういうときこそ、父親の包容力だよ」と肩を叩いた。

夜、三太はひとりで“けっこんの木”のノートを開いた。

今日、娘は『好き』という言葉を覚えた。
自分の中に芽生える“父親としての嫉妬”に驚く。
でもその感情も、きっとこの木の一部。

ページのすみに描かれた小さな実には、「好き」という文字が、小さく書かれていた。

初めてのペット



三太は大学で週に2回、講義を担当していた。キャンパスの緑の中を歩くたび、風が違う季節の匂いを運んできた。

ある日、同僚の渡辺先生が昼休みに声をかけてきた。

「うちのゴールデンレッドリバー、子どもが3匹生まれてさ。1匹、どう?」

三太はその写真を見た瞬間、胸の奥が温かくなった。

「家族に相談してみます」

その夜、ふみと光に写真を見せると、光は目を輝かせた。

「このこがいい!いっしょにおさんぽするの!」

ふみも「ちょっと大変になるかもしれないけど、でも…この子がうちに来たら、またひとつ物語が増えるね」と言った。

一週間後、子犬が家にやってきた。

ふみが名前を提案した。「ひかりが“光”なら、この子は“風”なんてどう?」

「風ちゃん!」と光が叫んだ。

その日から、“けっこんの木”にはもう一本、小さな枝が増えた。

家族は、ふたりからはじまり、
ひとつの命が芽を出し、
そしてもうひとつの命が、しっぽを振ってやってきた。

光と風(ふう)ちゃんの日々



風ちゃんが家に来てからというもの、光の日常は少しずつ変わった。

朝起きると、まず「ふうちゃん、おはよ」と言って撫でに行く。保育園から帰ると、「今日ね、ふうちゃんにおみやげあるの」と、どんぐりや折り紙を見せに行く。

ある日、ふみが光に言った。

「風ちゃん、家族になってうれしいって思ってるかな?」

光は真剣な顔でうなずいた。

「うん。だって、ふうちゃん、わたしがかなしいとき、ペロってしてくれるもん」

三太はその様子を見ながら、「ふたりとも、もう“守る”って気持ちを持ってるんだな」と思った。

ふうちゃんもまた、光のそばで静かにしっぽを振り、昼寝の毛布にくるまり、家の音に耳をすませていた。

小さな少女と小さな犬。
その間には、ことばじゃないことばが流れていた。

3歳の誕生日



3歳になった光の誕生日は、やわらかい春の光に包まれた日だった。

ふみは前の晩から手作りのケーキを焼き、三太は折り紙で“おめでとう”の文字を飾りつけた。風ちゃんは、リボンを首に巻かれ、どこか誇らしげだった。

朝、光は目をこすりながらリビングにやってきて、そこに広がる風景に声を上げた。

「わあー!」

バルーンの森と、お気に入りのぬいぐるみたちが並んだテーブルの上には、小さなプレゼント。

「おたんじょうび、おめでとう、光」とふみが優しく言い、三太が「3歳になったね。すごいなあ」と言った。

光は満面の笑みで、「ふうちゃんにもケーキある?」と聞いた。

「あるよ。ワンちゃん用のね」とふみが笑った。

みんなで並んで写真を撮った瞬間、ふうちゃんがくしゃみをして、光が笑い転げた。

この日もまた、木に刻まれた大切な年輪。
3つめのろうそくが、静かにゆれていた。

📘 Year 6-第六冊目の『けっこんの木』





今年、けっこんの木に起きたこと: 光が3歳になり、風ちゃんという新しい家族と一緒に季節を越えた一年。家族のリズムに新しい風が吹き込まれた。

楽しかったこと・嬉しかったこと: 3歳の誕生日、光の「ありがとう」がはっきり言えた日。風ちゃんと光が一緒に昼寝をしていた午後の静けさ。

大変だったこと・すれ違い: 風ちゃんのトイレトレーニングと、光のイヤイヤ期のぶつかり合い。けれどもそれを一緒に笑えるようになった。

来年の木をどう育てたい?: 光とふうちゃんが共に育ち、もう少し家族の外にも広がりを持てるような一年にしたい。保育園の行事にももっと関わりたい。

相手へのメッセージ: 「ふたりでいられてよかった」と、毎年そう言えることが本当にしあわせだと思う。ありがとう、これからもよろしくね。

雨の日の出会いと雨ちゃん

6月のある午後、空が静かに泣いていた。

ふみが窓の外を見ながら、「あれ……?」とつぶやく。

庭先の紫陽花のかげに、小さな黒いかたまり。雨に濡れながら、子猫が震えていた。

ふみと光と風ちゃんで、そっとタオルを持って近づくと、子猫はじっとこちらを見上げた。

「この子、雨が好きなのかな?」と光が言った。

ふみは笑って、「じゃあ、“雨ちゃん”って呼ぶ?」

その日から、雨ちゃんは家族になった。

最初は風ちゃんが少し戸惑ったが、光が間に入って「ふうちゃん、こわくないよ。ちいさいねこちゃんだよ」と言い聞かせた。

三太は猫のために窓際にベッドをつくり、雨の日でも外を見られるようにした。

雨が連れてきた、もうひとつのやさしい命。
小さな黒猫は、家族の静かな音に耳をすませている。

ふたり目についての話し合い



ある晩、光が眠った後のリビング。三太はマグカップに手をかけたまま、ふみに言った。

「ふたり目って、どう思う?」

ふみは少し驚いたように目を丸くし、それからゆっくりと首を傾けた。

「ときどき、考えるよ。でも……」

その後、2人はたくさん話した。光がどんな風に笑うのか、どれだけ一緒に成長してきたか、雨ちゃんと風ちゃんを含めて家族がどんな風に息づいているか。

「たぶん、いまは光を、いちばん大切に育てたいと思ってる」

ふみの言葉に、三太はうなずいた。

「うん。無理に増やすんじゃなくて、この毎日を、ちゃんと抱きしめたい」

家族の形は、話し合いの中で何度でも決まっていく。
いま選んだのは、「この日々を、もっと深く育てる」ということ。

初めての家族の車 — アルファード・ハイブリッド



ある週末、三太とふみはついに決断した。家族が増え、荷物も増え、遠出の機会も増えてきたこの数年。

「そろそろ、うちにも“家族の車”があってもいいよね」

試乗した車のなかで、光が「これ、映画館みたい!」とはしゃいだのが決め手だった。

選んだのは、トヨタ・アルファードのハイブリッド。静かで広くて、何より長距離でも光がぐっすり眠れる安心感があった。

納車の日、光は「うちのくるま!」と抱きついた。風ちゃんは後部座席にすぐに飛び乗り、雨ちゃんはキャリーの中でちょっと不満げな顔をしていた。

家族の時間が、また少し広がった。
どこへ行くかじゃない、誰と行くかを選んだ車だった。

初めてのキャンプ



アルファードに荷物を積んで、家族は初めてのキャンプへ出かけた。向かったのは、三太が子どもの頃に父親と行ったことがある湖のそばのキャンプ場。

光は虫取り網を振り回しながら、「ここに住めるかも!」と叫んだ。風ちゃんは芝の上を駆けまわり、雨ちゃんはテントの中から静かに外を見つめていた。

夜には、ふみが手作りしたカレーが鍋から湯気を立てた。三太はランタンの灯りの中、星を指差して「これが夏の大三角形だよ」と語った。

光は「おほしさま、おちてこないかな」とつぶやき、ふみはそっと笑った。

たき火の音、虫の声、そして光の寝息。
自然の中で、家族はいつもより静かに、でも確かにひとつだった。

初めての幼稚園



春の風がまだ少し冷たいある朝、光は初めての幼稚園に登園した。新しい制服、新しい靴、新しいリュック。そのすべてが少し大きく見えた。

門の前で立ち止まった光の手を、ふみはそっと握った。

「だいじょうぶ。行ってみよう」

三太は少し離れたところからその姿を見ていた。光が振り返って、小さく手を振る。それに応えて三太も手を振った。

帰ってきたとき、光は真っ黒に汚れた靴を見せながら言った。

「おそとで、いっぱいはしった!」

小さな背中が、また少し遠くへ歩き出す。
見守ることも、育てることなのだと、ふたりは知った。

4歳の誕生日



光の4歳の誕生日は、幼稚園の友達とその家族も招いて、庭で小さなパーティーを開いた。

風ちゃんはゲストの子どもたちの間を忙しなく行き来し、雨ちゃんはケーキのそばから動かなかった。

三太は自作のピザ窯でマルゲリータを焼き、ふみは光の好きなキャラクターで飾った手作りのバースデーケーキを用意した。

「おたんじょうび、おめでとう!」

クラッカーが鳴った瞬間、光は驚いて目をまるくしたが、すぐに笑顔になった。

家族と、友だちと、仲間たちと。
光のまわりには、たくさんの“あたたかさ”が集まっていた。

📘 Year 7-7冊目のけっこんの木



今年の「けっこんの木」は、ますます枝を伸ばし、にぎやかに葉をゆらしていた。光の成長、風ちゃんと雨ちゃんのいる日常、そして夫婦の静かな会話と笑い声。

ノートの表紙には、光がクレヨンで描いた「家族の木」が描かれていた。枝の先には犬と猫と、そしてにっこり笑う自分の顔。

今年、けっこんの木に起きたこと:
光の幼稚園生活が始まり、初めてのキャンプや誕生日パーティーなど、家族の時間がいっそう彩られた。

楽しかったこと・嬉しかったこと:
家族でのドライブや、庭でのピザ作り。初めてのキャンプは忘れられない思い出になった。

大変だったこと・すれ違い:
忙しさの中で、お互いの気持ちを見失いかけた日もあった。でも、そのたびに話し合って、小さな手紙を机の上に置くことで気持ちを届け合った。

来年の木をどう育てたい?:
もっと家族で自然と触れ合いたい。畑を始めてみるのもいいかもしれない。週に一度は家族会議もしたいね。

相手へのメッセージ: 「毎日ありがとう。あなたとだから、日々が物語になっていく」

幼稚園での発表会



園のホールに保護者たちのざわめきが満ちる中、ステージの幕が開いた。

光は動物の帽子をかぶり、「森の音楽会」のうさぎ役として登場した。緊張で少し体が固まっていたが、舞台の隅に座る三太とふみを見つけて、小さく手を振った。

「ぴょん、ぴょん、ぴょん!」

リズムに合わせて跳ねる姿に、客席から温かい笑い声と拍手がこぼれる。演奏の最後、光は深々とおじぎをして、口元をきゅっと引き締めた。

終演後、ふみがハグをして、「すっごく上手だった!」と耳元で囁いた。

初めての舞台。光はほんの少し、自分を誇らしく思った。

幼稚園での運動会



秋晴れの日、幼稚園の園庭にはカラフルな万国旗が揺れていた。光の最後の運動会、三太もふみも胸がそわそわしていた。

かけっこでは一生懸命に腕を振って走り、ダンスでは少し照れながらも笑顔を見せた。

そして、午後の種目「親子借り物競争」。光は三太とペアになって走った。

カードには「めがねをかけた人」と書いてあり、ふたりは観客席に向かって目を凝らし、必死に探した。

「いた!」と光が叫ぶ。手をつないで走って行くと、そこにはふみがいた。

三太と光は笑いながら手を取り合い、ゴールテープを切った。

勝ち負けよりも、大事なことがある。
一緒に走る記憶は、きっとずっと残る。

秋晴れの空の下、光の通う幼稚園で運動会が開かれた。朝から三太はビデオカメラを構え、ふみは手作りのお弁当をリュックに詰めた。

かけっこでは、一番になれなかったけれど、光は最後まであきらめずに走った。

「がんばったね!」

ふみが手を広げると、光はまっすぐその中に飛び込んできた。

お昼のお弁当を食べながら、光は顔をくしゃくしゃにして笑った。

「きょう、たのしい!」

競争より、笑顔が大切。
光の運動会は、小さな勇気と大きな喜びにあふれていた。

5歳の誕生日



光の5歳の誕生日は、幼稚園の友達を招いたにぎやかなホームパーティーで祝われた。今年のテーマは「どうぶつの森」。リビングには紙で作った木や葉っぱが飾られ、ふみが作った動物型のクッキーが並んだ。

「これ、わたしが作ったの!」と光が得意げに指さしたのは、自分で色を塗った招待状。ゲストの子どもたちはその絵に目を輝かせた。

三太はギターで「たんじょうびのうた」を弾き、光は恥ずかしそうにしながらも大きな声で「ありがとう!」と答えた。

ひとつ年を重ねるたびに、光の世界が少しずつ広がっていく。
そして、家族の絆もまた、深く、強くなっていく。

📘 Year 8-8冊目のけっこんの木



光が5歳になり、家族としての季節もまたひとつ巡った。

この1年、「けっこんの木」はさらに太く強くなった気がする。枝葉は広がり、光と風ちゃん、雨ちゃんがその木陰で遊んでいる姿が、日々のなかにあった。

三太とふみは、相変わらず忙しい毎日の中でも、夜に小さな灯りをともしてこのノートを開く時間を大切にしていた。

今年、けっこんの木に起きたこと:
光が年中さんから年長さんへ。幼稚園行事を通じて成長を感じた年。犬の風ちゃんと猫の雨ちゃんも、すっかり家族の一員になった。

楽しかったこと・嬉しかったこと:
誕生日パーティー、キャンプ、そして初めての家族での遠足。光の笑顔が、1日の終わりを豊かにしてくれた。

大変だったこと・すれ違い:
忙しさからついイライラしてしまう日も。でも、お互いに「疲れたね」と言い合える余白を持つことができた。

来年の木をどう育てたい?:
少しずつ「ふたりの時間」も増やしていきたい。光に背中を見せながら、また新しい葉をつけていく。

相手へのメッセージ:
「あなたといる日々が、木の年輪になっていく。ゆっくりでも、ちゃんと育っているね。」

ピアノを習う



ある日、光はテレビで流れていたクラシックのメロディに目を輝かせた。 「これ、わたしもひけるようになりたい!」

ふみと三太は、近くの音楽教室の体験レッスンに連れていくことにした。

最初は鍵盤の上で指が迷子になっていた光。けれど、「ド、レ、ミ♪」と音を重ねていくうちに、音楽が楽しいものだと身体で覚えていった。

三太は、光の練習に合わせて、そっと拍子をとるようになった。 ふみはレッスンの帰り道、いつも光の手をにぎって、「今日も素敵だったよ」と伝えた。

音は、心をつなぐ橋になる。
家のなかに小さなメロディが増えていった。

遠足で動物園に行く



春のやわらかな日差しの中、光の幼稚園では年長さんの遠足があった。行き先は、近くの動物園。

朝、家を出る前、ふみは光のリュックにパンダのおにぎりを詰め、三太は「たのしんでね!」と書いたメモをそっと入れた。

「パパもママもこないの?」と光は聞いたけれど、「今日は光のお友だちと先生と行く日だよ」とふみが言うと、少しさみしそうに、それでも頷いて玄関を出て行った。

動物園では、ぞうの大きさに驚いたり、コアラのゆっくりした動きに笑ったり。中でも一番のお気に入りは、ガラス越しに見たレッサーパンダだった。

帰ってきた光は、たくさんのおしゃべりをおみやげにしてくれた。 「ねぇ、あのレッサーパンダ、ちょっと風ちゃんににてたよ!」

思い出は、話しているときにもう一度、心のなかで広がる。
光の声で、その日一日が私たちの中にも広がっていった。

こども絵画コンクールで絵が大賞を取る



絵を描くことが好きだった光。毎日のように、風ちゃんや雨ちゃん、家族の風景を描いていた。

ある日、幼稚園から「市のこども絵画コンクールに出してみましょう」と声がかかり、光は少し照れながらも、家族がキャンプに行ったときの絵を提出した。

数週間後、ポストに届いた一通の封筒を開けると、「大賞受賞」の文字が躍っていた。

表彰式の日、光は少し大きめのリボンを胸につけ、緊張しながらステージに上がった。

「わたし、もっと え をかきたいです」

その言葉に、三太もふみも胸がいっぱいになった。

小さなキャンバスに込められた、大きな気持ち。
光の描いた風景は、家族の目にもしっかり焼きついていた。

光の個性


光は、ふしぎな子だった。

泣き声よりも、黙って見つめる瞳で、何かを伝えてくることが多かった。

葉っぱが風に揺れる音に耳を傾け、石ころの模様に夢中になる。

小さな手のひらで「これ、見て」と差し出すものは、どれもただの“もの”じゃなく、彼女にとっての物語の一部だった。

「光はね、じっと見て、心で話してるんだと思う」とふみが言った。

「きっと、僕らには聞こえない声を、聞いてるんだな」と三太がうなずいた。

そして、光の一番好きな色は、白だった。

「どうして白が好きなの?」と聞くと、彼女はこう答えた。

「だって、なんでも描けるから」

その言葉に、ふたりは顔を見合わせて笑った。

“けっこんの木”の絵本のあるページには、真っ白なページに色鉛筆の線が一本だけ引かれていた。

木の葉の先に、白い光がともった。
それは、まだ何色にも染まっていない、自由な風の色だった。

結婚の日にふみが書いたこと



ふみはこう書いた:

この木は、今、まだ小さな苗。
根っこはふたりの「話し合い」。
葉っぱは、たぶん、たまに見せる笑顔。
水やりは、気にかけること。
日光は、「好き」と「ありがとう」の言葉。

来年の今ごろ、この木がどんなふうになっているか、私は知らない。
でも、知ろうとする気持ちは、きっとある。
それが私たちの「けっこん」。


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