石の上にも三年って、誰の話ですか?
送別会で、やたらと褒められた。
「本当に助かりました」
「いてくれてよかったです」
「もっといてほしかったです」
…いや、そんなに言われると、ちょっとだけ思う。
(じゃあ、なんで辞めるんだっけ、私)
帰り道、花束を抱えて歩く。
けっこう大きくて、ちょっと恥ずかしい。
風でラッピングがカサカサ鳴って、
なんだか自分だけ“送別会帰りです”って主張してるみたいで。
(これ、コンビニ入りづらいな…)
5年いた場所を離れた。
「おつかれさまでした」と言われて、
「こちらこそ」と返して、
なんとなくちゃんと終わった感じはする。
でも。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、
「もう少しいた方がよかったんじゃないか」
って思ってしまう。
頭の中に浮かぶ言葉。
「石の上にも三年」
いや、もう5年いるんですけど。
むしろ石、温まってるどころか、
だいぶフィットしてきてたんですけど。
ここで立ち上がるの、
ちょっともったいなくない?
続けることが正解で、
離れることは、どこか“負け”みたいな気がする。
ちゃんとやりきった人だけが、
「次へ進みます」って言っていいんじゃないかって。
私は、そこまでだったのかもしれない、って。
でも。
花束を抱えながら思った。
あの場所で過ごした時間、
なかったことにはならない。
うまくいかなくて、帰り道に落ち込んだ日も。
どうしても伝えたくて、言葉を選び続けた日も。
「ありがとう」と言われて、少し救われた日も。
ちゃんと、全部あった。
気づいたら、
花束を持つ手に少し力が入っていた。
重いわけじゃないのに、
なんでか、ぎゅっと持っていた。
続けることと、しがみつくことは、違う。
離れることと、逃げることも、違う。
たぶん私は、逃げたんじゃない。
終わらせたんだと思う。
ちゃんと、ここまでを自分で区切った。
「これでよかったのかな」
そう思う気持ちは消えないけど、
それでも。
昨日もらった花は、
ちゃんと私の5年分だ。
だからきっと、
「これでよかったか」は、まだ途中で、
これから先で、
「これでよかった」にしていくんだと思う。
