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第二話 まだ夏休み(後編)

 夕方、駅前で四人は別れた。

「次いつ集まる?」

「冬休みちゃう」

「遠いわ」

「年末とか」

「また連絡するわ」

「おう」

 陽介と亮太は駅へ向かい、森田は反対側へ歩いていった。

 航平はすぐには電車に乗らず、少し歩くことにした。

 まだ空は明るかった。

 日が傾いているのに、空気には昼間の熱が残っている。

 小学生くらいの女の子が、母親らしい人と向こうから歩いてきた。女の子は透明な袋を持ち、その中には文房具のようなものが入っている。

 航平の横を通り過ぎるとき、母親が言った。

「帰ったら名前書いときや」

「分かってる」

「ほんまに?」

「分かってるって」

 二人はそのまま駅の方へ歩いていった。

 航平のスマートフォンが震えた。

 美月からだった。

〈ここどう?〉

 旅行サイトのリンクが送られてきている。

 美月は大学で知り合った。一つ下で、付き合い始めて一年半ほどになる。

 今は実家に帰省している。

 二人とも九月の半ばまで授業がないので、旅行へ行こうという話をしていた。

 リンクを開く。

 海の近くの宿だった。

〈よさそう〉

 と返す。

 すぐに返信が来た。

〈9月入ったら安いやん〉

〈ほんまや〉

〈平日めっちゃ安い〉

 航平は宿泊料金の表を眺めた。

 八月三十一日までと、九月一日からで値段が違う。

〈夏休み終わったら一気に下がるな〉

〈うちらはまだ夏休みやけどな〉

〈たしかに〉

 少しして、美月から、

〈学生しかできひんな〉

 と届いた。

 航平は歩きながら、その文字をしばらく見ていた。

〈せやな笑〉

 と返した。

 家に帰ったのは八時前だった。

 玄関を開けると、母親が台所から顔を出した。

「ご飯どうするん?」

「食べる」

「いらんかもしれん言うてたやん」

「結局食べてへん」

「もう」

 食卓には焼き魚と冷ややっこが置かれていた。

 端の皿にはラップがかかっている。

「それあんたの分」

「ありがとう」

 父親はまだ帰っていなかった。

 母親と二人でテレビを見ながら食べた。

「今日誰と会ってたん?」

「高校のやつ」

「みんな元気?」

「うん」

「もう就職の話とかするん?」

「ちょっとな」

「あんたも何かしてるん?」

「何も」

「何もなん」

「うん」

 母親は味噌汁を飲んだ。

「まあ、まだ休み長いもんな」

「うん」

 それだけだった。

 航平は焼き魚の骨を箸で外した。

 部屋へ戻ってベッドに寝転がる。

 スマートフォンを開くと、通知がいくつか溜まっていた。

 高校のグループ。

 大学。

 美月。

 昼間のボウリングの写真が送られてきている。

 四人で撮った写真だった。

 亮太が妙な顔をしている。

〈次は年末な〉

 陽介が書いている。

〈遠いて〉

 森田が返している。

 航平も笑っているスタンプを送った。

 その下に、大学からのメールがあった。

「秋冬インターンシップに向けたキャリアガイダンスのお知らせ」

 朝から届いていたものだった。

 少し下には、

「各社インターンシップ情報更新」

 というメールもある。

 航平は一番上のメールを押した。

 本文が開く。

 説明会の日程。

 申し込み方法。

 企業一覧。

 何となく指で下へ送っていく。

 知らない会社名が並んでいる。

 途中に、昼間、亮太が言っていた会社があった。

 航平の指が止まった。

 その横には、

「応募締切 9月8日」

 と書かれている。

 九月八日。

 航平は一度ホーム画面に戻り、カレンダーを開いた。

 九月八日は火曜日だった。

 その翌週も、まだ大学は始まっていない。

 美月との旅行の日程は、まだ決めていなかった。

 六日でもいい。

 七日でもいい。

 十日でもいい。

 十二日でも、十三日でも空いている。

 カレンダーには、ほとんど何も入っていなかった。

 スマートフォンが震えた。

 美月だった。

〈さっきのとこ、近くこんなんあるで〉

 写真が送られてくる。

 青い海。

 そのすぐ横を一本の線路が走っている。

 電車の窓から海が見えそうだった。

〈めっちゃよくない?〉

 航平は写真を拡大した。

 画面いっぱいに海が広がった。

 キャリアセンターのメールは、その下へ隠れた。

 美月から、もう一枚写真が来る。

 今度は小さな駅だった。

〈ここ降りたい〉

〈ええな〉

 航平は旅行サイトを開いた。

 九月のカレンダーが表示される。

 六日。

 七日。

 八日。

 九日。

 どこも空室がある。

 指で画面を動かす。

 十二日。

 十三日。

 そこもまだ空いていた。

〈いつにする?〉

 美月から聞かれる。

 航平は少し考えた。

〈このへんやったらいつでもいける〉

〈ほんま大学生暇やな〉

〈最高やろ〉

〈今だけやで〉

 航平はその文字を見た。

 それから、

〈そこ行こか〉

 と送った。

 すぐに既読がついた。

〈行こ!〉

 机の上には学生証が置いてあった。

 四月に更新したばかりで、有効期限はまだずっと先だった。

 窓の外で蝉が鳴いている。

 航平はもう一度、海の写真を開いた。

 画面の上には、九月の日付が並んでいた。

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