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おとしもの係は、嘘を拾わない

「すみません。告白を落としたんですけど」

大学の学生課で、おとしものを担当して三年になる。

財布、学生証、イヤホン、傘。だいたいのものは見れば分かる。

告白は初めてだった。

「落とした場所は分かりますか」

「図書館の前です」

「いつ頃ですか」

「昨日の六時くらい」

私は遺失物届にペンを置いた。

「形状は?」

「形状?」

「色とか、大きさとか、特徴です」

男子学生は少し考えた。

「かなり好きでした」

「特徴欄には書けませんね」

彼は困ったように黙った。

話を聞くと、昨日、図書館の前で同じ大学の女性を呼び止めたらしい。

話がある。

そこまでは言った。

相手も立ち止まった。

けれど、肝心なところで怖くなって、

「なんでもない」

と言って帰った。

「それ、落としたんじゃなくて、出してないですよね」

「でも、そこまでは持っていったんです」

妙な理屈だった。

「もし届いたら連絡もらえますか」

「告白は拾得物として受理できません」

「そうですか」

彼は少し残念そうに言った。

「取りに戻ろうと思ったんですけど、もうなかったので」

「何がですか」

「告白が」

彼は納得していない顔で帰った。

午後四時。

今度は女子学生が窓口に来た。

「すみません。嘘って届いてませんか」

私は今日の勤務表を確認した。

まだ私の勤務時間だった。

「物ですか?」

「いえ。嘘です」

「……特徴は?」

彼女は少し考えた。

「好きじゃない、っていう嘘です」

ペンが止まった。

場所を聞いた。

図書館前。

時間を聞いた。

昨日の六時頃。

彼女は昨日、ある男子学生に聞いたらしい。

私のこと、好きなの?

彼は黙った。

その沈黙が怖くなって、彼女は笑った。

「私も別に好きじゃないけど」

そう言って帰った。

「それを探して、どうするんですか」

「まだあそこに残ってたら嫌だなと思って」

「残ってはいないと思います」

「ですよね」

彼女は少し安心したようだった。

「拾った人がいたら困るので」

「たぶん拾わないです」

「本人なら、分かるかもしれないですけど」

私は机の端に置かれた遺失物届を見た。

朝の男の名前は書かれていない。

そもそも受理していない。

「申し訳ありませんが、ほかの方が何を探しに来たかはお答えできません」

「そうですよね」

彼女は小さく頭を下げた。

「ただ」

顔を上げる。

「落とした場所が分かっているなら、もう一度確認しに行くことはできます」

少しだけ間があった。

「……そうですね」

彼女は笑って、窓口を離れた。

閉室前、私は今日の遺失物を確認した。

黒い傘。

学生証。

水筒。

ワイヤレスイヤホンの右側。

告白も、嘘もなかった。

窓口のブラインドを下ろそうとして、外を見た。

図書館の前に、朝の男子学生が立っていた。

少し離れたところから、女子学生が歩いてくる。

私はブラインドを閉めた。

たぶん、持ち主が見つかったのだと思う。



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セイ この構造整理やレイヤー観測が刺さったら、チップで投げてもらえるとうれしいです。