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マーケターは問いを立てるべし 「どうすれば売れるか」を問い直す

「マーケターの思考を磨くための6つの視点」第6回

前回までの記事では

 第1回「マーケターは顧客から考えるべし」
 第2回「マーケターは現場を理解すべし」
 第3回「マーケターは言葉に敏感であるべし」
 第4回「マーケターは違和感を大事にすべし」
 第5回「マーケターは構造で考えるべし」

について書きました。

最終回は「問い」です。

マーケターは、社内から多くの答えを求められます。

 どのような商品をつくればよいか。
 どのような広告を出せばよいか。
 どうすれば新規顧客を増やせるか。
 どうすれば売上を伸ばせるか。

経験を積むほど、素早く答えを出すことを期待されます。

しかし、答えを考える前に、確認しなければならないことがあります。

私たちが答えようとしている問いは、本当に正しいのか。

問いが間違っていれば、どれほど正確に答えても、成果にはつながりません。

今回は、私がマーケティング部門から営業部門へ異動したときの経験を紹介します。

営業での経験ではありますが、私が実践したのは、営業テクニックを増やすことではありませんでした。

 誰を顧客として見るのか。
 顧客のどのような問題を解決するのか。
 商品の機能を、どのような価値として届けるのか。
 購入後まで含め、どのような体験を設計するのか。

これらを問い直した、マーケティングの実践でした。

マーケターの思考は、営業に異動しても変わらない

紙製品や衛生用品のマーケティング部門から、営業部門へ異動することになりました。

新たに立ち上がった、病院や介護施設へ大人用紙おむつを直接販売する部門です。

それまでは、ドラッグストアやスーパーマーケットなどの小売店が主な営業先でした。

病院や介護施設への直接販売は、会社としても新しい挑戦です。
私は北海道の初代営業所長として赴任しました。

会社や上司から求められたのは、市場を調査し、協力してくれる流通を整備しながら、できるだけ早く売上実績をつくることでした。

新設された営業所です。まず実績をつくり、全社に「この事業は成長できる」と示す必要がありました。

当初は、営業で使いやすい分かりやすい強みを訴求しようと考えました。

 競合よりも安いこと。
 吸水量が多いこと。
 地元に営業所ができ、きめ細かく対応できること。

どれも間違った訴求ではなかったはずでした。

しかし、私は営業活動の中で、次第に疑問を持つようになりました。

「どうすれば売れるか」だけでは、価格競争から抜け出せない

早く売上をつくろうとすれば、価格を下げるのが最も分かりやすい方法です。

しかし、価格を理由に採用された商品は、さらに安い競合商品が現れれば、価格を理由に切り替えられてしまいます。

 受注するたびに値下げが必要になる。
 競合が値下げすれば、こちらもさらに下げる。
 売上が増えても、利益が残らない。

これでは、いつまでも価格競争から抜け出せません。

また、病院や介護施設の現場を見ると、看護師や介護スタッフは常に忙しそうでした。

 人手は限られている。
 夜間も排泄ケアが必要になる。
 モレが起きれば、紙おむつを交換するだけでは済まない。

 利用者の衣類を替える。
 シーツや汚れたものを交換する。
 利用者を起こし、身体の向きを変えることもある。

現場にとって、紙おむつは単なる消耗品ではありません。

選ぶ商品や使い方によって、排泄ケアの仕事量が変わる商品だったのです。

そこで私は、「どうすれば早く売れるか」という問いを、そのまま追うことをやめました。

代わりに、次のように考えました。

この商品を使うことで、現場の仕事をどうすれば楽にできるだろうか。

この問いが、営業活動だけでなく、顧客の捉え方、商品の価値、提案内容、導入後の支援まで変えていきました。

問いが変わると、「誰が顧客か」が変わった

当時、私たち営業が主に見ていたのは、購入の決定権を持つ事務長でした。

事務長が気にするのは、価格、予算、契約条件です。

事務長だけを見ていれば、営業提案が商品単価中心になるのは当然です。

しかし、「現場の仕事をどうすれば楽にできるか」と問いを変えると、見るべき相手も変わりました。

実際に紙おむつを使い、交換している看護師や介護スタッフです。

BtoBのマーケティングでは、商品を購入する人と、実際に使う人が異なることがあります。

購入を決める人だけを見ていると、価格や取引条件には詳しくなります。しかし、商品がどのような場面で使われ、どのような価値を生んでいるかは見えません。

そこで、事務長へ提案する前に、看護師長や介護リーダーへ話を聞くことにしました。

 モレによるシーツ交換は、どのくらい起きているのか。
 夜間にパッドを何回交換しているのか。
 交換時に、どのような負担を感じているのか。
 利用者の状態によって、製品をどう使い分けているのか。

それまで見ていたのは、吸水量や一枚あたりの単価でした。

問いを変えたことで、モレ、交換回数、夜間業務、人件費、スタッフと利用者の負担を見るようになりました。

これは営業先を変えたのではありません。

「誰を顧客として見るのか」を、マーケティングの視点から捉え直したのです。

現場を理解するため、ホームヘルパー2級を取得した

現場の仕事を楽にする方法を考えるには、まず自分が現場の仕事を理解しなければなりません。

そこで、会社の理解を得て、ホームヘルパー2級の資格講座を受講しました。

目的は、身体介護の基本や、介護を受ける方への配慮、現場で必要になる動きを学ぶことで、話の聞き方や提案の仕方が変わると思ったことです。

現場実習で訪れた介護施設の看護師長やスタッフからも、好意的に受け止めてもらえました。

使っている紙おむつの不満や価格を教えてもらったり、事務長だけでなく、AさんとBさんにも話をしとくといい、みたいな「おまけ」もありました。

ただ商品を売りに来る人ではなく、自分たちの仕事や立場を理解したうえで提案しようとしている。

その姿勢が、信頼と納得感につながったのだと思います。

大切なのは、資格を取ることではありません。

問いを変えたことで、自分に足りない情報や経験が見え、取るべき行動まで変わったことです。

商品の機能を、顧客価値へ翻訳する

提案内容も変えました。

これまでは

 「この商品は、一枚いくらです」
 「これだけ吸収できます」

という商品中心の説明でした。

しかし、現場へのヒアリングを踏まえ、事務長には製品単価だけでなく、モレによって発生する仕事まで含めて説明しました。

モレによるシーツや衣類交換に関する看護師や介護スタッフの作業時間。
夜間の交換に伴う負担。

単価が少し高くても、高吸収タイプを適切に使うことで、就寝中の交換回数が減る場合があります。

夜中に何度も起こされずに済むことは、スタッフだけでなく、利用者の負担軽減にもなります。

比較すべきなのは、紙おむつ一枚の価格だけではありません。

紙おむつを購入する費用ではなく、排泄ケア全体に、どれだけのコストと負担がかかっているのか。

この視点から、総コストと現場負担の軽減を提案するようにしました。

「高い吸収力」という商品機能を、「夜間の交換やモレ対応の負担軽減」という顧客価値へ翻訳したのです。

マーケターの仕事は、商品の特徴を分かりやすく説明することだけではありません。

商品の機能が、顧客のどのような困りごとを解決するのかを見つけ、顧客が理解できる価値へ変えることです。

導入後までを、顧客体験として設計する

ただし、性能の高い商品を導入すれば、それだけで現場の負担が減るわけではありません。

 利用者の状態に合ったサイズを選ぶ。
 身体に合うように正しくあてる。
 パッドと紙おむつを適切に組み合わせる。

使い方が正しくなければ、本来の性能を発揮できず、モレが起きます。

すると現場から

 「前の商品と変わらない」
 「期待していたほど良くない」

と評価され、競合商品へ戻されてしまいます。

そこで、受注を営業活動のゴールと考えるのをやめました。

導入初週には病棟へ入り、看護師や介護スタッフに、正しいあて方やサイズの選び方を伝えるミニ勉強会を開きました。

さらに、「導入後30日間の現場フォロープログラム」をつくり、現場で正しく使われ、期待した変化が得られているかを確認しました。

これはアフターサービスを手厚くしただけではありません。

認知、比較、購入までではなく、購入後に価値を実感し、継続して使ってもらうところまで、顧客体験として設計したのです。

営業の成果を

商品を採用してもらった時点

ではなく

顧客の現場で商品が正しく使われ、価値を実感してもらった時点

まで広げました。

商品を売ることと、顧客に価値が届くことは、同じではありません。

この二つの間をつなぐことも、マーケティングの仕事だと思います。

赴任4か月後、最初の受注が生まれた

営業課題を整理し、営業プロセスを設計する。

商品の機能を、顧客にとっての価値へ変換する。

価格以外の「選ばれる理由」をつくる。

導入後に、現場で価値を実感してもらう。

こうした取り組みを重ね、北海道へ赴任して4か月後に、最初の受注を得ることができました。

しかし、一人の工夫や偶然の成功で終わらせては、新しい営業所のチカラにはなりません。

そこで、初受注までに行ったことを、営業担当者が実行できる行動へ分解しました。

  1. 事務長へ提案する前に、看護師長や介護リーダーへ話を聞く

  2. モレ、シーツ交換、夜間の交換回数を確認する

  3. 商品単価だけでなく、排泄ケア全体のコストを整理する

  4. 導入初週に、正しいあて方とサイズ選定を説明する

  5. 導入後30日間、現場での使用状況を確認する

これらをマニュアル化し、部下にも展開しました。他のエリアの営業部門にも、同じ方法を試すように促しました。

売上そのものを標準化することはできません。

しかし、顧客価値を生み出し、売上につなげる行動は、具体化し、共有し、繰り返せる形にできます。

初受注を個人の成功で終わらせず、営業所のプロセスとして展開した結果、年間の売上目標も達成することができました。

価格ではなく、現場の実感が「選ばれる理由」になった

その後、競合他社が新商品サンプルを持って営業に来て、切り替えが検討されたことがありました。

そのとき、看護師長が継続採用を支持してくれました。

カタログ上の吸収量が同じでも、足回りのフィット感は違う。重度の利用者が多い施設では、夜間の体位変換時に漏れないことが重要である。

今の製品なら夜間の交換を抑えられているが、切り替えてモレが増えれば、夜勤スタッフの負担が大きくなる。現場の安全とケアを守るためにも、今の製品を継続したい――という趣旨の話でした。

価格が重要でないわけではありません。

しかし、現場が商品の価値を実感し、その価値を自分たちの言葉で説明できるようになれば、価格だけでは簡単に切り替えられない理由が生まれます。

こちらが「選ばれる理由」を説明するだけでなく、顧客自身が「使い続けたい理由」を語ってくれる。

それは、商品の特徴を伝えただけでは生まれません。

顧客の課題を捉え、価値を提案し、導入後にその価値を実感できるところまで設計した結果です。

これは営業術ではなく、マーケティングの実践だった

この経験は、営業部門での出来事です。

しかし、振り返ってみると、考えていたのは営業テクニックではありませんでした。

 誰の困りごとを解決するのか。
 商品の機能を、どのような価値として伝えるのか。
 価格以外に、なぜ選ばれるのか。
 購入後に、どうすれば価値を実感してもらえるのか。
 その価値提供を、どうすれば組織で再現できるのか。

いずれも、マーケティングが考えるべきことです。

マーケティングは、マーケティング部門だけで完結する仕事ではありません。

どれほど優れた戦略を考えても、営業現場で実行できなければ顧客には届きません。

どれほど優れた商品でも、顧客の現場で正しく使われなければ価値にはなりません。

マーケターに必要なのは、会議室で「売れる仕組み」を考えることだけではありません。

顧客の現場で、その仕組みが本当に機能するところまで見ることです。

営業に異動したことで、私はマーケティングから離れたのではありません。

むしろ、マーケティングで考えてきたことが、本当に顧客価値と売上につながるのかを、現場で確かめることになったのです。

問いが変わると、マーケティング全体が変わる

最初に与えられた課題は、「早く売上をつくること」でした。

もし、その課題をそのまま

どうすれば早く売れるか。

という問いにしていたら、価格を下げ、吸水量を強調し、事務長への訪問件数を増やしていたかもしれません。

しかし

この商品によって、現場の仕事をどうすれば楽にできるか。

と問いを変えたことで

  • 顧客を、事務長だけでなく看護師や介護スタッフまで含めて考える

  • 商品機能を、排泄ケアの負担軽減という価値へ変換する

  • 製品単価ではなく、総コストで比較する

  • 受注ではなく、導入後の価値実感まで設計する

  • 個人の営業経験を、組織で再現できるプロセスへ変える

ようになりました。

問いを変えたから、答えだけが変わったのではありません。

顧客の定義、提供価値、営業プロセス、顧客体験、成果指標まで変わったのです。

だから「問いを立てること」は、単なる質問力ではありません。

マーケティング全体の方向を決める仕事です。

「なぜ売れないのか」だけでは、行動は変わらない

売上が上がらないとき

 「なぜ売れないのか」
 「営業の何が悪いのか」
 「なぜ目標を達成できないのか」

と問いがちです。

しかし、このような問いは、原因を人に求める方向へ進みやすくなります。

原因を説明できても、次に取るべき行動が分からなければ、成果は変わりません。

マーケターや管理職が考えるべきなのは

 顧客は、どのような場面で困っているのか。
 商品の機能は、その困りごとにどう役立つのか。
 顧客が価値を実感するまでに、どのような支援が必要か。
 どの行動を標準化すれば、成果を再現できるのか。

といった、顧客価値と行動へつながる問いです。

良い問いとは、格好のよい問いではありません。

問いに答えることで、見る場所と次に取るべき行動が変わる問いです。

「どうすれば」の前に、「そもそも」を置く

マーケティングの仕事では、すぐに「どうすれば」と考えます。

 どうすれば売れるか。
 どうすれば認知度が上がるか。
 どうすれば新規顧客が増えるか。
 どうすれば営業や流通が動くか。

「どうすれば」は、実行を前へ進めるために必要な問いです。

しかし、前提が間違っていれば、間違った方向へ速く進むことになります。

だからこそ、「どうすれば」の前に、「そもそも」を置く必要があります。

 そもそも、顧客は誰なのか。
 そもそも、顧客は何に困っているのか。
 そもそも、商品の価値は顧客に届いているのか。
 そもそも、受注をゴールにしてよいのか。
 そもそも、これは広告で解決する問題なのか。

ただし、「そもそも」を繰り返し、決まったことに反対するだけでは、評論家になってしまいます。

問い直す目的は、議論を複雑にすることではありません。

成果につながる行動を見つけることです。

5つの視点は、良い問いを立てるためにある

このシリーズでは、これまで

 顧客から考える。
 現場を理解する。
 言葉に敏感になる。
 違和感を大事にする。
 構造で考える。

という5つの視点について書いてきました。

振り返ってみると、これらはすべて、良い問いを立てるために必要な視点でもあります。

顧客を見なければ、会社の都合から問いを立てることになります。

現場を知らなければ、実行できない答えをつくってしまいます。

言葉の意味を確かめなければ、曖昧な課題を分かったつもりで進めてしまいます。

違和感を見逃せば、見た目のよい数字に隠れた問題を発見できません。

構造を見なければ、問題を誰かの能力や意識のせいにしてしまいます。

顧客、現場、言葉、違和感、構造。

この5つを見ることで、初めて会社が本当に答えるべき問いが見えてきます。

マーケターは、施策を答える人ではない

マーケティングの相談は

 「広告を改善したい」
 「営業資料をつくり直したい」
 「CRMを強化したい」

といった、具体的な施策の話から始まりがちです。

もちろん、それぞれ必要な施策です。

しかし、最初から施策を決めつけると、本当に解くべき問題を見落とすことがあります。

だから私は、施策を考える前に

  • 誰の、どのような問題を解くのか

  • 商品の機能を、どのような顧客価値へ変えるのか

  • 成果が出るまでの、どこが切れているのか

  • 何を変えれば、現場の行動が変わるのか

  • その行動を、どうすれば組織で再現できるのか

を整理することが大切だと考えています。

 営業プロセスを整理する。
 価格以外の選ばれる理由をつくる。
 導入後に価値を実感できる仕組みをつくる。
 成果につながる行動を、ほかの人も実行できる形にする。

施策を提案することより先に、本当に答えるべき問いを一緒に見つける。

それが、私がマーケティング支援で大切にしたいことです。

正しい答えより、正しい問いを

答えは、時間がたてば古くなります。

 市場も変わる。
 顧客も変わる。
 使い方も変わる。
 競合も変わる。
 現場で働く人も変わる。

過去に成功した方法が、次も成功するとは限りません。

しかし、問いを立てる力があれば、そのたびに顧客と現場を見て、考え直すことができます。

マーケターの仕事は、与えられた課題に素早く答えることだけではありません。

顧客の声を聞き、現場を見て、言葉の意味を確かめ、数字への違和感を持ち、成果が生まれる構造を整理する。

そのうえで、本当に答えるべき問いをつくる。

私は、営業部門へ異動したことで、マーケティングから離れたのではありませんでした。

「どうすれば売れるか」を「どうすれば現場が楽になるか」へ問い直し、顧客価値が生まれるところまで営業活動を設計した。

それは、営業現場で行ったマーケティングでした。

正しい答えを急ぐ前に、答えるべき問いを正しく見つける。

マーケターは、問いを立てるべし。

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