大いなる宇宙の愛エルム星の創造 ―女神達の祈り―
第二章 前編
「ひかる、エルム星の声を聞く」
この広い広い宇宙に、今まさに古い殻を脱ぎ捨てて生まれ変わろうとしている小さな小さな「エルム星」がありました。
エルム星は、かつてとても優美な星で、とても大きく、緑と水に囲まれ、調和と平和を象徴する星でした。
しかしながら、ひとつの暗き闇がすべてを汚し、大霊から来る光さえも遮ってしまうような恐ろしい出来事が起こりました。
その出来事により、諸々の不調和から地軸は歪み、その歪みから生じた波動によって本来の光は失われ、長い間、明と暗に分かれてしまいました。
エルム星に住む人々も身体が重い肉体を持つようになり、すべてにおいて二元性のある星となってしまったのです。
また、肉体をまとったことにより、人々は言葉を使うようになり、それぞれの国ごとに言葉が違う世界になりました。
時は今、我らの地球のように、善と悪が混沌としている世の中でありながらも、長い長い歴史の中で刻み付けられた聖なる波動と共に、その聖なる波動を求める者達の真摯な祈りと、愛という犠牲の中で生まれて来た意識の固まり達が一つになり、エルム星をもう一度輝ける星へ生まれ変わらせて調和と平和を取り戻したいと思っていました。
その意識の膨らみは光のエネルギーの固まりとなって、エルム星に住む一人の女性に舞い降りたのです。
その女性の名前は「ひかる」――この物語の主人公です。
「ひかる」は今16才で、常に新しい事を想像してはわくわく・ドキドキの止まらない子で、家族の中ではとても個性の強い子でした。
そんなひかるですが、たくさんの友達がいて、とても社交的な子なのです。
ひかるの家族をご紹介しておきましょう。
まずは祖父、祖母、父、母、姉、弟の七人家族です。
祖父は普段は厳格で、近所の人たちからも一目置かれる存在でした。けれどひかるに対してだけは、どこか目尻が下がり、ふとした時に優しい顔を見せるのでした。
祖母は家族みんなのムードメーカーでした。台所から聞こえてくる祖母の鼻歌、手際よく並ぶ料理の数々——祖母がいるだけで、家の空気がぱっと明るくなりました。
父は毎朝誰よりも早く家を出て、夜遅くに帰ってきます。疲れているはずなのに、帰宅するとすぐに祖父と向き合い、お酒を酌み交わしながら世の中のことやスポーツの話に花を咲かせていました。そんな父の背中が、ひかるはなんだか好きでした。
母はひかるの憧れでした。柔らかな笑顔と穏やかな声——何でも話せる、安心できる人。そして時折、母はふしぎな言葉を口にすることがありました。後から振り返ると、それがいつも正しかったのです。ひかるは母に、自分と同じ何かが流れているような気がしていました。
姉はしっかり者で、いつも落ち着いていました。将来は学校の先生になりたいと言っていて、ひかるが悩んでいる時には、静かに話を聞いてくれるのでした。
弟はとにかく元気で、あわてんぼう。玄関を飛び出す時にはたいてい何かを忘れていました。動物が大好きで、「大きくなったら獣医さんになる!」が口癖。家でも動物を飼いたくて、毎日のようにお母さんに交渉していました。
家族はとても仲が良く、明るい笑いの絶えない家庭でした。
ひかる自身は小柄ですが精神的には強く、思いやりのある優しい心を持った子です。
毎日高校へ通いながら忙しい日々を送っていますが、ひとりの時間ができた時はいつも家のベランダに出て、空を眺めては果てしない空想にひたっていました。
そんなある日のことです。
いつものように空を眺めながら、
「いいな〜。鳥さんはどこにでも好きな所へ自由に飛んでいけるから……。ひかるも飛んでみたいな〜」
そう思いながら、高くどこまでも広がっている空を眺めていました。
その時です。
太陽がいつもよりも綺麗に見え、光が優しく感じられました。
ひかるは思いつくまま手を差し出し、
「光を受け入れる」
そう思い、祈りました。
するとその光は不思議なことに、このエルム星全体を映し出し、エルム星からかすかに響いてくるざわめきが、ひかるの耳に飛び込んできたのです。
そしてそのざわめきは、だんだんと大きくなっていきました。
各国で繰り広げられている戦争。
飢えで苦しむ人々の声。
病。
自然環境破壊からくる大地の悲鳴。
エルム星に住んでいる人々の欲望からくる、たくらみや恨みなどの悪想念。
動物や植物から発せられている、やるせなくなるような悲しい声。
さらに、これからの未来に起こるであろう、ひかるの家族の行方まではっきりと見えたのです。
ひかるは戸惑いました。
「いったいこの声は何?」
「どうしてこんなことが一度に聞こえてくるの?」
「この声は一体どこから響いてくるの?
私は優しい太陽を見ていたはずなのに……」
ひかるは混乱し、どうしていいかわからず、恐怖に怯えて泣き出してしまいました。
しばらくの間、ひかるは声をあげて泣き続けました。
それはただの悲しみではありませんでした。
今まで感じたことのない、巨大な何かに触れてしまったような感覚——自分がとても小さく、無力な存在に思えて、ひかるは震えが止まりませんでした。
それでも、泣きながら気づいていたのです。
この声たちは、ひかるを傷つけようとしているのではない。
戦争で苦しむ人々の声も、大地の悲鳴も、動物たちの嘆きも——すべてが「助けてほしい」という切実な叫びだということを。
ひかるはゆっくりと空を見上げました。
涙でにじんだ空は、それでもどこまでも広く、青く広がっていました。
「私に、何かできることがあるのかな」
その小さなつぶやきが、ひかるの心の中で静かに灯っていきました。
泣きながら思いました。
「なぜこんなにも悲しいの?」
「なぜこんなにも苦しいの?」
「どうしたら、この苦しみと悲しみから解放されるの?」
その思いと共に、ひかる自身も自然とエルム星に向かって
「ごめんなさい」
と謝っていました。
そして今、自分が聞き、感じ、経験したことはすべて、この星エルム星からのメッセージだと感じていました。
ふっと空を見上げると、大きな雲の羽が空一面に横たわっています。
羽雲の上には、かわいらしい女の子が座っていました。
女の子は言いました。
「ひかる。エルム星がどんなに悲しみ、苦しんでいるかわかった?」
「私はこれから、ひかるがエルム星に愛の光を届けられるように導く、エルム星の『案内人』よ」
「エルム星から来るメッセージを、多くの人々に伝えてね」
そう言うと、ひかるの目の前から、ぱっと消えてしまいました。
この時ひかるは、エルム星がどれほど苦しみ、悲しみながらも、あらんかぎりの愛でエルム星の矛盾を抱え込み、今にも爆発してしまいそうなほどガタガタのオーラになりながら、それでもなおエルム星を守ろうとしていることを理解したのです。
今、感じ受け止めた体験はすべて、エルム星からの大きな愛の元に立つ、犠牲の体験であったと知ったのでした。
ひかるはこの愛に答えようと祈りました。
「どうかエルム、私達を信じてください。
このエルムの大地に住んでいる人々の生命は、きっとエルムの愛に目覚め、あなたの大きな守りのエネルギーを受け止めてくれることでしょう。
そして、私達の愛のエネルギーを感謝のエネルギーとして一つに束ね、エルムに返すように祈ります。
だからもう悲しまないで……。
そのための勇気と力を私にください」
そんな日々の中、ひかるの祈りがエルムに通じたのか、突然、大きな円を描いた紫の光がひかるを包み込みました。
まばゆい光の中で、優しい波動のエルムと思われる女神が現れたのです。
女神はひかるに言いました。
「あなたの祈りの意識に、私の意識を乗せましょう。
あなたの優しい祈りは、きっと私の切なる願いを、この星に住む人達に広げ、伝えてくれることでしょう」
そう言うと、紫色の光は静かに消えていきました。
そうです。
ひかるの目の前に、エルムという星の愛のエネルギーが、ひかるの意識と同調し、女神となって語りかけてきたのです。
その体験をした日から、ひかるはどんどんこの体験を家族や友達などに話していきました。
信じてくれる人。
信じてくれない人。
バカにする人。
ふざけている人。
さまざまな人がいました。
しかし、真面目にひかるの話を聞き、助けてくれる人達もたくさん現れてきました。
ひかるの友人の「エレン」や、実の姉のように慕っている「ミケル」など、ひかるの行動によって少しずつ「愛のサークル」は広がっていきました。
エレンはひかるの幼なじみで、クラスでも一番の元気者でした。
困っている人を見ると放っておけない性格で、ひかるがエルム星のことを話した時も、誰よりも早く「私も一緒にやる!」と手を挙げてくれた子でした。
明るい笑顔と行動力で、愛のサークルの中でもいつも場を引っ張っていく存在でした。
ミケルはひかるより少し年上の女性で、出会った時からまるで本当の姉のように感じられました。
落ち着いた物腰と深い眼差しを持ち、ひかるが不安で揺れている時には、そっと隣に座って静かに話を聞いてくれるのでした。
ミケルの存在があるだけで、ひかるはどんな時でも「一人じゃない」と思えたのです。
そんな二人がいたからこそ、愛のサークルはどんどん広がっていきました。エレンの明るさが人々の心を開き、ミケルの深さが人々の心を支えていたのです。
エルム星に感謝の祈りを送る人々が支え合い、祈りを送り続けています。
そして月に一度、必ず同じ時間に、それぞれがエルム星へ感謝の祈りを捧げていました。
しかし、エルム星に局所的な大きな地震が起こりました。
エルムのあちらこちらから不浄なエネルギーが吐き出され、そのたびに多くの人達が犠牲になったのです。
ひかるは不安になります。
「このエルム星を、私達だけでは支えきれないのかな?」
「私達だけの思いでは足りないのかな?」
そこで案内人にたずねるため、祈りを込めました。
「どうしたら、もっと多くの人に伝えられるのかな?
案内人さん、私にヒントをください。
どうかこの思いを受け取ってください」
そう祈っていると、案内人からメッセージが届きました。
「あきらめないで。
光にのせるのよ」
ひかるは「光にのせる」という言葉を少し考えましたが、すぐに光通信のことだとわかりました。
エレンと相談し、光通信の掲示板に
「エルム星からの伝言」
と書いてお願いしたのです。
掲示板にはこう書きました。
「みなさんへのお願いです。
私達の住むエルム星は今、苦しみながら、悲しみながらも、大地にいる私達を守るために犠牲を最小限に止め、新しく調和のとれた平和な星へ生まれ変わりたいと祈り続けています。
どうか皆さん、私達を守ってくれているエルムを守りましょう。
エルムに感謝の愛の波動というエネルギーにして祈りましょう」
すると、たくさんの思いを受け止めてくれるメールが次々と届きました。
「私も毎日祈っています。エルムの声を聞いた気がします」
「遠い国にいますが、あなたのメッセージを読んで涙が止まりませんでした。一緒に祈らせてください」
「子どもたちにもエルムのことを話しました。家族みんなで祈ります」
「一人では何もできないと思っていたけれど、祈ることならできます。ありがとう」
年齢も、国も、言葉も違う人たちが、それぞれの場所からひかるへと声を届けてくれていました。
ひかるはそのひとつひとつを、胸に刻むように読みました。
見知らぬ人たちなのに、どの言葉もまるで古くから知っている魂の声のように感じられました。
きっとこの人たちも、ずっとエルムのことが気になっていたのだと思いました。
ただ、伝える言葉を持っていなかっただけで——
心の奥では、ずっと同じことを願っていたのかもしれません。
ひかるは嬉しくなり、少しだけほっとしました。
「これでエルム星も少しは元気になれるよね」
そう信じていたのですが……。
中編「守りの宮と亀じい」へ続きます。
