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【第7話】せんとうになりたくない女の子|あおい先生と、ちいさな理由

保育士のあおい先生です。

「なんでそんなことするの?」
子どもたちの『一見困った行動』や『不思議な癖』。

その裏には、大人には見えにくい、とっても純粋で愛しい理由が隠されています。
日々の保育現場で私が出会った、子どもたちの小さな本音の物語をお届けします。

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「みんなー、お散歩の準備できたかな? 今日の先頭さんは誰にしようかな?」

3歳児・ほし組の部屋で、私は子どもたちに声をかけた。
ほし組のお散歩では、列のいちばん前を歩く「先頭さん」が先生の手をしっかり握って歩くことになっている。

「はいっ!」「わたしやりたい!」と元気に手が挙がる中、いつもすっと一歩後ろへ下がってしまう子がいた。「ゆいちゃん」だ。

「ゆいちゃん、今日はあおい先生と一緒に先頭さん歩いてみる?」

そう言って笑顔で手を差し伸べた瞬間、ゆいちゃんの表情がふっと曇った。

「……やだ」

小さな声だったけれど、はっきりと拒否の言葉が聞こえた。

「えっ、先頭さん、いやだった……?」

私がしゃがんで目線を合わせると、ゆいちゃんはうつむいたまま、ぎゅっと隣に立つ「まおちゃん」の手を握りしめている。その目には、今にもこぼれ落ちそうな涙が浮かんでいた。

(……なんでだろう? みんな先頭さんになるのが大好きなのに)

結局その日は、別の子に先頭をお願いして事なきを得たのだが、ゆいちゃんはまおちゃんの隣に戻ると、ほっと胸を撫でおろすように表情を緩めていた。

恥ずかしがり屋さんなのかな。それとも、いちばん前を歩くのが怖いのかな……。
私にはその理由が分からず、首をかしげるばかりだった。

📖 ぎゅっと握りしめられた「ちいさな手」


お散歩から戻り、子どもたちが給食を食べている時間。
私は配膳の手を動かしながら、先輩の美咲先生にそっと相談してみた。

「美咲先生、ゆいちゃんのことなんですけど……。お散歩の先頭さんをお願いすると、すごく嫌がって涙目になっちゃうんです。前を歩くのが怖いのかなと思ったんですが……」

すると美咲先生は、優しく微笑みながらこう言った。

「あおい先生、ゆいちゃんの『お顔』じゃなくて『手』、見たことある?」

「え? 手、ですか……?」

思わずハッとした。
美咲先生の言葉に導かれるようにゆいちゃんの手元を見ると、彼女はいつでも、どこでも、大好きな「まおちゃん」の手をぎゅっと握りしめていた。お部屋でも、園庭でも、列に並ぶときも。

あ……!
私の中で、パズルのピースがカチッとハマった。

ほし組のルールでは、先頭に立つ子は「先生と手をつなぐ」ことになっている。つまり、先頭に選ばれるということは——大好きなまおちゃんの手を離さなければならないということだったのだ。

「ゆいちゃん、もしかして……まおちゃんと手を離すのが、嫌だったのかな?」

午後の自由時間、そっと尋ねてみると、ゆいちゃんはこくんと小さく頷いた。

「……まおちゃんと、ずっと、いっしょがいいの」

たどたどしいけれど、真っ直ぐな言葉。
前を歩くのが怖いわけでも、わがままを言っていたわけでもなかった。ただ、大好きな友達と離れたくないという、純粋で温かい気持ちだったのだ。

理由が分かった私は、美咲先生とも相談して、次の日のお散歩で新しいルールを試してみることにした。

「今日はね、ゆいちゃんとまおちゃん、ふたりで手を繋いだまま一番前を歩いてみようか! あおい先生がすぐお隣を歩くからね」

そう声をかけると、ゆいちゃんはまおちゃんの手をぎゅっと握ったまま、パッと顔を輝かせた。

「うん! まおちゃんと、いく!」

二人で並んで、嬉しそうに一番前を歩く小さな背中。

「見えているものだけが、全部じゃないのよね」

隣を歩く美咲先生が、優しく囁いた。

「はい……。ゆいちゃんの手が、大事なことを教えてくれました」

子どもたちの小さな手の中に隠された「大好き」の気持ち。またひとつ、その愛しい理由に気づかされた日だった。


🌸 あおい先生のワンポイント解説(あとがき)

大人が良かれと思って用意した「特別な役割(先頭さんなど)」も、子どもにとっては「大好きな友達と離れなければいけない悲しいこと」になる場合があります。

子どもの表情や言葉だけに捉われず、「手元」や「誰の隣にいるか」といった周囲との関わりに目を向けてみると、本音が見えてくることがあります。

理由がわかれば、園のルールを少し柔軟に変えてあげるだけで、子どもの表情はパッと笑顔に変わりますね。

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