天離る鄙の細道 第2話 (あまざかる ひなのほそみち)
第2話:原和幸、出雲へ(1,680字)
東京・『月刊文秋』編集部
オフィス中央に編集長(48)、並び机の一角でPCを打っている原。
「ったく……ヘボ編集長」
手元には
【2013年度 島根県立益田高等学校・古代史研究会OB会開催】
のパンフ。
「1ヶ月も前から有休申請してたっつーのに」
編集長、原の原稿【万葉集が語る歴史の謎】を手に取り、人物関係図
の頁を見ている。
「アイデア自体は良いンだ。持統天皇の歌、えーっと何だっけ?」
「春過ぎて 夏来たるらし 白妙の 衣干したり 天の香具山」
「その歌が大和朝廷の政治紛争を暗示しているって面白い」
【原の原稿・人物関係図】
天智天皇ーーーーー中臣鎌足
↓ ↓
↓ 藤原不比等(息子)
大友皇子(持統の兄)
↓
持統天皇ーー(夫婦)ーー天武天皇
(天智の娘) ↓ (天智の弟)
↓ ↓
↓ 蘇我入鹿
草壁皇子ーーーー柿本人麻呂
(天武の息子)
「紛争を見届けるキーパーソンが、柿本人麻呂だというのも面白い……確か7世紀の人だったよな?」
原、上機嫌で
「枕詞の半分は人麻呂が発明したと言われています。天才歌人として出世した彼は正2位、朝臣の姓を授かった。天武天皇の治世に草壁皇子の舎人、皇太子の教育係をしていたんです」
「図の通りだと。それで?」
編集長、顎鬚をさすりながら興味深く原の顔を覗く。
「『天の香具山』の歌は、初夏の清々しい風景を詠んだのではない。干してある衣は『五節の舞』」
「五節の舞?」
「ええ、大嘗祭や新嘗祭で皇族の前で行う女人の踊りです。その演舞の中に羽衣を纏う踊りがあります」
「それが?」
「羽衣を纏った者が次の天皇に即位する……干してある衣を身に纏うのを
心待ちにしている持統天皇の心情を歌っている、ととれませんか?」
再び原稿を黙読しながら
「ふむ。それと人麻呂との繋がりは?」
「ここが1つ謎なんですが、天武から持統へ政権交代した頃に人麻呂は、突然姿を消しているんです」
「『消えた』ってどういう事だ?」
「つまり日本書記には持統天皇の治世に、ほとんど登場しなくなる」
編集長、少し間をおいて原稿を指差す。
「正史である日本書記は人麻呂を封印した……?この結論に繋がるエビデンスが見当たらないじゃないか」
返す言葉がなく苦笑する原。
原稿を机上に放り、眼鏡を額に乗せ
「原、俺たちゃ小説家じゃないんだ!雑誌記者ってのは一に取材、二に取材……事実を積み重ねて文章を練り上げる。そして」
話を遮る大きな声。
「おい、原」
オフィス奥の団欒ソファでテレビニュースを見ている社員A(30代)。
「お前、島根出身だったよな?」
画面のテロップ
【出雲大社で火災。本殿から火傷を負った男性発見】
「出雲大社が……?」
驚いてソファへ駆け寄る原の後ろ、眼鏡を掛け直し追う編集長。
「国宝級が火事なんて金閣寺以来か?」
画面が男性の写真に変わり、ワイプに女性アナウンサー。
『男性は綾部恭介さん60歳、柿本神社の宮司と判明』
慌てて自分の席に戻り、OB会パンフを取り団欒ソファへ小走りする。
「こ、この人……俺の同級生の父親なんです」
『現在、御本殿は59年振りの拝殿期間中であり……』
「明日、OB会で娘さんと会う予定だったのに、有休が」
「柿本神社の娘……原、出雲に行け。取材だ!」
「えっ?……あっハイッ!」
再び席に戻る原、喜色満面でPCを閉じて支度し始める。
~私達どの世代も『うろ覚えの古代史』。原和幸と綾部玲子の出会いが
『日本人であるが故の日本の成り立ち』を解き明かしていく~
【第3話《綾部の死》へ続く】
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