地平線が見えた日|【エッセイ】シリーズこころの因数分解
始まりは余裕のない日々
新しい季節が始まり、桜が散りました。私は学校へ行っています。慣れない生活が苦しくなります。つらくなります。いつものやつです。立ち止まらなければと立ち止まる。
「□□」
焦り過ぎ。もっと余裕をもって、生活しないと。
でも、その日の授業がはじまるとやっぱり苦しくなる、焦っています。
詰め込み過ぎなのです。自分がその時間の中で出来る量が自分で分かっていないのです。
その日は、工程をすっとばしたり、傘忘れて帰ったり、散々。
「□□」
家に帰ってから、今月と来月の予定を立ててみました。
余裕を持った計画を立ててみると、来月が終わっても、今履修している本は終わらないことが分かりました。本も読み終わりません。
「□□」
よく考えたら、この2年間のうちに資格をとればいいのだから、大丈夫。
本も、取り敢えず全部読んで、実践は後でもいい。
「□□」
時々、耳元にちらつく声がする。耳を澄まそうとすると、よく分析できない声。何かのときのあの人の声?辛かったときの私の声?掴もうとすると蜘蛛の子散らすようになくなります。そうして、又、つかめないまま、つかめないから、何度でも繰り返す声。
地平線が見えた日
今日は夜「染みる時間」という名のリラックスタイムを取ろうと思って、ゆっくりしていました。
この約9か月間自分の時間なんてとれなくて、ゆっくりすることがありませんでした。少しホッとしていました。
頭の中が少し楽になって、サブスクのお気に入りドラマを見ていました。でも、一本観ただけで、疲れてしまいました。2本目観ていたら、途中で、集中の糸が途切れて、何も頭に入ってこないのです。
ゴロンとなってみました。
お腹が空いたので、おせんべいを麦茶と共に食べました。
面白いよといわれて借りた本を読んでみました。読み始めてすぐ泣きます。でも、一話読んだところで、もう、目が痛くなって、頭が痺れてきて、内容を目で追っているだけになったので、すぐやめました。
お茶を飲もうとキッチンへ向かって、ついでにお菓子を取ろうと食器棚の下の扉を開けました。
一瞬「□□」と頭の中を言葉がよぎります。
頭の中でつらい記憶がよみがえって来ていると思っていたけど、記憶ではない。想像でした。
もう、起こるはずのない、記憶の続き。
もしも、あの人が今別の女の人と一緒だったら嫌だな。そのことについて、反論する日なんかくるはずもないのに、なじる言葉が頭の中に並び止まりません。
それに気づいたので、この次想像をしたら、想像はやめて立ち止まって忘れようと思い、そうしました。
思えばいつもそう。終わったことの続きを想像してしまう。想像をやめました。でも、今日に限って、心の反応が少し違っていました。
もしかして、もう、思い出さなくても良いんじゃないだろうか。あの人の事は。そう思えました。
この日、自分の為に9か月ぶりに作った、何をしても良い自分の時間が、私の頭の中を、力の抜けた安心の状態に変えていました。
「無理に覚えていようとしなくて良いのではないか?」
その言葉が何だか腑に落ちていました。
そしたら、何かが心の奥の方にすっとしまわれる感覚がありました。
幸せの位置に戻ってきている。幸せってこんなだった。疲れていた気持ちがなくなります。
心の中に大地がありその向こうに地平線が見えていくような感覚がしました。
心が確かに無意識の中で思い出たちを「覚えている」そう思いました。
意識の上に無理にのぼらせなくても、ちゃんと、心が覚えている。安心して忘れて大丈夫。
誰も、私の心の中の思い出は奪いにこない。あの人の思い出は、ちゃんと心の中に生きている。
だから、私はあの人が結果的に教えてくれた今の道を無心に歩いていていい。
そう思いました。
「そうか、こんなことだったんだ。もう、前から知っていたことだった」
いつか感じたことのあるこの感覚。
遠い昔。
今、目の前のキッチンが、初めて色を持ったような気がして、外の雑音がとてもよく聞こえた気がしました。
今、私のお腹の底にある気持ちのいい体温は、何か柔らかい生き物のようだ。名付けるのなら、それは、「心の底からの安らぎ」でした。
私はあの季節を、出会い別れたあの季節を過ごしたのです。
あの人といた季節は二度と戻らない。あの日、手を握ってくれたことも、安らいだことも、もっとあの時間が続けばと心は願って立ち止まりました。でも、終わったのです。私は、次に行っていいのです。全てが心の中の棚にしまわれたから。
私は私に忘れる許可を出しました。
ここまでお読みいただいてありがとうございました。
種明かしをすると、この話、前の章と後の章が時系列で言うと逆です。心の棚に置くと決めた後も滅茶苦茶な日は続いていました。お話の流れでいったらこの方が自然かと思ってそうしました。このお話、公開する予定ではなかったのですが、心がすこしづつ元気になっていく様子が自分としても記録できていたので、自分の理解の為にも公開しておきたいと思いました。この後、藤井風の「帰ろう」を聞いて、そうか、帰ろうって心安らかな家に帰るのじゃないのね。心の安らぎへと帰るという意味なのねと、深く同意したのも良い思い出です。
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