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意味は通る|【エッセイ】シリーズこころの因数分解   

 土曜日午前の予約で病院に行きました。

 この、こころのプロの元へ行くのは今日が最後でした。

 そして私はいつものように、帰りに薬局へとお薬を貰いに行きました。
 
 思えば、20年間、ずっと血液検査のたびに、検査結果を一緒に見てくれて、どこの数値が良かった悪かったと紐解いてくれて、大変お世話になりました。

 最後の日になったというべきだろうかと、私は迷いました。しかし、私は、言わない事にしました。

 ただ、静かに行かなくなることにしました。

 ラストの窓口を担当してくれたのは、一番新しい薬剤師の女の子でした。一通り薬の説明をして私の今の生活を聞いた後、今日の薬が30日分なので「来月は6月〇日ですね」彼女はそう言いました。

 私は、来月は来ないとは言えなくて、少し間をおいて「はい」と言いました。


 帰りの道すがら、「6月〇日ですね」と言われたけど、「6月〇日に来るんですね」とは言われなかった。「6月〇日にお薬は無くなりますね」その問いに対しての答えであれば「はい」で意味は通ると思いました。そして、最後に嘘はなかったと安心したのです。

 「意味は通る」そう思った時の自分の心の中の状態について考えました。
 
 もう2度と会うことは無いのだから、せめて”本当”の答えであってほしい。”うそ”であってほしくないという気持ちでした。

『”嘘”は言ってないよ”隠していただけ”』

 私はあの時彼がそう言ったことが気になっていました。

 ”嘘”は、悪い事。だけど、”隠していた”なら悪くない。俺は悪くない。

 こんなこともありました。

 彼は、元奥さんに私の事が知られるのがいやだと、私に離れて歩くように命じていました。

 でも、彼は時々、気を抜いて隣を歩いている事がありました。道端で私に話しかける事もしょっちゅうありました。

 元奥さんに、もし私の事が知られたら私達はどうなるのと聞いたことがありました。

『別に、どうもしないよ』

 彼はそう言いました。

 想像出来ました。元奥さんに知られて、開き直っている彼が容易に。私に言ったときと同じように開き直るのだろうと。

 それは、元奥さんに対しての誠実な態度と言えるのでしょうか。

 私は言えないと思います。

 私に「”うそ”は言ってないよ”隠していただけ”」そう言った彼はあわよくば、ごまかしてしまおう、もしも隠していたことがばれたら、そう言って開き直ろう。そういう構図が見て取れたのです。

 結局彼は、誰に対してもそうだったのです。

 彼自信が誰に対しても誠実でいられない人だったのです。

 もしも私が過去に戻って、もしも彼とお付き合いするということを選び直せるとしたら、ニ度と彼を選んだりはしないでしょう。



「そういうことか」

 その時、私の中には潔いあきらめに似た感情が湧いたのでした。



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