アニメーション美術とBambooという会社
はじめに
最近でこそ、アニメが市民権を獲得し、若者が公然とアニメ好きを宣言できる世の中になったけど、そんな時代が訪れる前から、僕は漫画やアニメがずっと好きだった。
中学生の頃、大友克洋の『AKIRA』に脳天を撃ち抜かれて以来、ビルの破壊・崩落シーンを放課後も使って精細に描くことにハマってみたり、好きな漫画を模写してみたりと、自分で描くのも好きだったし、いろんな漫画を読んで魂を揺さぶられ、アニメを見て感動の涙を流しながらこれまで生きて来た。大学生の頃には、漫画やアニメを「子どもの娯楽」と切り捨てる友人に気後れすることもあったけど、就職して社会の荒波にもまれながらキャリアを築き、家族を持って、今に至るが、漫画・アニメに対する興味を失うことはなかった。また、近年では、子どもとのコミュニケーションツールの一つとして、一緒にアニメを観るというのも結構機能しているように感じている。
そんな中、最近、劇場版アニメ作品『駒田蒸留所へようこそ』という作品を見たのだが、今日はその作品の背景美術を手掛けているBambooというスタジオについて1ファンとして思うことを書いてみたい。
『東のエデン』での驚き
僕がBambooという会社を知ったのは、2009年に放送された神山健治監督のアニメ『東のエデン』がきっかけだった。フジテレビの「ノイタミナ」枠で放送されたオリジナルストーリーの作品。さらに劇場版も展開され、「セレソン(=持てる者)」と呼ばれる日本救済を目的に12人の選ばれた一般人が、Mr. OUTSIDEと呼ばれるフィクサーの用意した仕組みの中で、日本救済のためのそれぞれのアクションを起こすという物語。
当時はまだスマホが登場する前、ガラケー全盛期。にもかかわらず、AIコンシェルジュが搭載された折り畳みケータイを使って、主人公たちが世界を変えようとするという展開は、今見返しても面白い。ただ、ストーリーの面白さはもちろんなんだけど、それ以上に心を動かされたのが、背景美術だった。新宿やお台場など、アメリカのワシントンD.C.から始まり、見慣れた新宿、お台場そして京都、様々な街の昼夜・屋内外と舞台が切り替わり、温度感があり、質感の高い背景にどうしようもなく目を惹かれてしまった。単なる写実的な描写ではないリアリティがすごくて、「いったい誰がこの背景を描いているんだろう?」と調べた結果、Bambooという会社にたどり着くことができた。
Bambooという会社
Webサイトによれは、Bambooは背景美術を専門にしているスタジオ。
アニメーション制作において、キャラクター以外の景観・風景の部分を担当する専門会社だ。アニメーションの他にも、CDジャケットやポスター、ゲーム背景なども手掛けているらしい。
過去は絵の具を使った手書きが主だったが、近年はデジタルへ移行。それでも手描きにこだわりを持って、作品の世界観に会った様々なスタイルの背景美術を提供されている。
主要取引先を見ても、
A-1 Pictures、P.A.WORKS、Production I.G、GONZO、STUDIO 4℃とそうそうたるアニメーションスタジオばかりだ。
背景の“絶妙なバランス”
僕は絵のプロでもなんでもない、ただの視聴者なんだけど、それでもBambooの背景には他と違った魅力を強く感じることが多い。まず、何といっても「写実的な描写」と「大胆な崩し」のバランス感覚。写真みたいにディテールを詰め込むこと自体は、(特定の高い画力を持った人なら)ひょっとするとできるかもしれない。でもBambooの背景は、その上であえて大胆に崩してくる。太めの筆跡を想起させるようなタッチを入れて、水彩っぽい柔らかさを持たせたりして、写真ではなく「絵」として強烈に認識させられるのだけど、本物並みに温度とか、質感とかが伝わってくる。
そして二次元キャラクターとの親和性を損なわないよう、全体の統一感が保たれていることも重要。そのまとめ方が本当に上手いのだと思う。結果、「あ、これBambooだな」とわかる個性を放ちつつも、各作品ごとにテイストがちゃんと変わっているから、不思議とマンネリな感じがしない。ここがスゴイ、と勝手ながら敬服している次第。
個人的に、この背景のココが好き!、みたいに画像を紹介しながら書きたいのだけど、権利の問題もあると思うので、以下のサイトとから過去作品のサムネールが参照できるので、是非みてみてもらいたい。
代表的な作品たち
Bambooは、これまで背景美術を手掛けた作品を挙げてみると、
『東のエデン』
『ギルティクラウン』
『SHIROBAKO』
『ソードアート・オンライン』
『ヴィンランド・サガ』
『チェンソーマン』
『GREAT PRETENDER』
『シン・エヴァンゲリオン』
『ペンギン・ハイウェイ』
『駒田蒸留所へようこそ』
などなど……。他にもまだまだあるんだろうけど、このラインナップを見ただけで、アニメ好きの人なら「ああ、確かに!」とピンとくるタイトルが多いはず。しかも、その作品ごとに要求されるテイストはかなり異なる。たとえば『チェンソーマン』なら荒々しくダークな雰囲気を帯びていたり、『ペンギン・ハイウェイ』ならポップでファンタジック、でもちょっとノスタルジックな街並みが登場したり。その振り幅を広く持ちつつも、どこかに「Bambooらしさ」を残しているところが面白い。
『駒田蒸留所へようこそ』を支える背景美術
冒頭にちょっと書いたけど、今回Bambooについて書き留めておこうと思ったきっかけが、『駒田蒸留所へようこそ』という劇場版アニメを見たこと。物語としては崖っぷちの蒸留所の再起をはかる若き女社長が、家族の絆をもう一度結び直して“幻のウイスキー”を復活させるという、P.A. WORKS制作のオリジナル長編アニメ。いわゆる「お仕事シリーズ」の流れをくむ作品だけど、ウイスキーの蒸留という少し地味めな題材が中心になっている。
僕が本作をテンションを保って最後まで楽しめた理由の1つは、Bambooが描く背景の魅力だったと思う。木製の樽や大型のスチールタンク、古い設備と新しい設備が混在する蒸留所の内部が、やけにリアルだけどどこかドラマチックに描かれる。温度や湿度が感じられるような絵のお陰で、ウィスキーの原酒の香りが漂ってくるような気がする。また、蒸留所の周辺の景色や、描かれた建物や調度類が、キャラクターの動きと一体化してドラマを組み立てていくから、引き込まれ、没入することができる。
まとめ
こんな感じで、今回、特にオチがあるわけじゃないのだけど、『東のエデン』をきっかけに知ったBambooの背景美術は、僕のアニメの見方を少し変えてくれた存在。『駒田蒸留所へようこそ』を観て「やっぱりBambooの背景画っていいな」と思い出してしまい、思わずキーボードに向かってしまった次第。これを機に、画集の1冊でも買って、Bambooが手掛けた作品の世界観にどっぷり浸かってみたいと思う。アニメを観るとき、どうしてもストーリーやキャラクターに目が行きがちだけど、背景を意識してみると、いつもの作品がずっと奥深く感じられるようになる。皆さんも是非、アニメ鑑賞の際に背景美術とその描き手に思いをはせてみてほしい。新たな発見があるかもしれない。
(2025年3月24日)
