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『勘と経験』から『標準化』へ。膜厚計×kintoneで『膜厚マイスター道場』開発

どの業界・業種にも存在する、熟練の技術に対する「勘と経験」。それを誰もが再現できるよう標準化できれば理想的です。

粉体塗装を専門とする私たちも、まさにその「勘と経験」の標準化に現場主導でチャレンジしています。

金属に粉末状の塗料を静電気で付着させ、熱で焼き付ける粉体塗装は、塗膜の厚み(膜厚)コントロールが命です。

薄すぎればサビを招き、厚すぎれば割れや寸法不良(ネジが入らないなど)に直結します。「薄くてもダメ、厚くてもダメ」という世界です。

長年、この品質は熟練職人の腕に頼ってきました。しかし、勘に頼るやり方では品質のバラつきを抑えにくく、外国人技能実習生をはじめとする若手への技術伝承もスムーズに進みません。

目指すのは、作業者が「自ら上手くなりたくなる仕組み」を作ること。

そこで開発したのが、測定した膜厚データを「五角形レーダーチャート」に瞬時に変換。画面に映し出し、自己分析が出来るシステムです。

今回は、Bluetooth対応の膜厚計とkintoneを繋ぎ、手間を掛けない膜厚入力で、訓練の結果を素早く表示させる『膜厚マイスター道場』(kintoneアプリ)の仕組みと運用のリアルを紹介します。

具体的には、毎日テストピースを5枚塗装します。その日によって塗装する色や指定する膜厚を変更。

表面・裏面の担当者に分かれ、「四隅のどこが薄くなりやすいか」「自分の塗り方のクセは何か」をレーダーチャートで一目で把握。塗料の色ごとの傾向や日々の成長をデータで分析できるようにします。

粉体塗装の作業風景(手前は自動機・奥は人の手で補正)

1. iPadの手入力が面倒、身近なツールで「ちょっとしたIoT」へ


まずは日々の測定データをkintoneに蓄積していくことにしました。
現場にはiPadがあります。「kintone上に使いやすいテンキーを配置すれば、スムーズに入力してくれるだろう」と、当初は軽く考えていました。

鉄板のオモテ面・ウラ面、それぞれ四隅と中央を細かく測定していくと、1回の検査で入力するデータは約50箇所にもなります。検査担当者は膜厚計の数値を見て、iPadの画面を50回ポチポチ……。

「これでは手間がかかりすぎます」

現場の手間を増やすだけのシステムは絶対に定着しません。そこで手入力の方針はきっぱりと捨て、市販のツールを組み合わせた「ちょっとしたIoT」で自動でデータが入力される仕組みに切り替えです。

  • 測定器:Bluetooth対応の電磁式膜厚計(既存計測器)

  • ノートPC(既存現場用)

  • データ取り込み:「COM2Key」というフリーソフトを活用

「COM2Key」は、Bluetoothなどで飛んできたデータを「キーボードからの入力」としてPCに認識させるソフトです。

設定はポート番号選ぶだけ。
計測するだけで、自動的にkintoneアプリへデータが入力されます。

膜厚計を鉄板に「カチッ」と当てるだけで、測定データがBluetoothでPCに飛びます。それをCOM2Keyが受け取り、kintoneの入力欄に数値を自動入力してくれます。

さらに「小数点の自動整形」や、入力後に次の枠へ移動する「オートジャンプ」も設定済。これら細かい制御はすべてkintoneのJavaScriptコード内に組み込みました。

これにより、作業者は画面に一切触れることなく、ただ膜厚計を連続で当てるだけで、50箇所のデータ入力が数十秒で完了です

将来的には、現場の要望に合わせてCOM2Keyを使わない自前のkintone連携も検討しています。例えば、膜厚計の先端がワークにしっかり接地していないと誤った数値が出るため、しきい値を設定して「やり直しアラート」を出す機能などを追加し、より作業精度を高めていく予定です。

2. 「合否」も一目でわかる、現場向けのUI設計


測定が自動化されても、その結果が画面上で直感的にわからなければ、「自ら上手くなりたくなる」仕組みにはなりません。現場で迷わず使ってもらうため、kintoneの画面(UI)には以下の工夫を盛り込んでいます。

① リアルタイム合否判定
入力された数値が、目標の膜厚に対して「±5μm以内」に収まっていれば鮮やかな「緑」、外れていれば警告の「赤」に瞬時に色分けされます。自分が今、狙い通りの厚みで塗れているかが一瞬でわかります。

現場用UI:±5μm判定(緑/赤)とカスタムテンキー

② ワンタップ多言語対応
現場で活躍する外国人技能実習生たちがストレスなく使えるよう、画面上のボタンを1つ押すだけで、すべての表示が「日本語」と「母国語」に瞬時に切り替わるようにしました。

③ 途中保存・再開機能
現場では、測定中に別の作業に呼ばれることも日常茶飯事です。作業が中断しても、途中までのデータを保持してすぐに再開できる機能を持たせ、現場の動きに合わせました。

これらが組み合わさったことで、ただの記録作業が「自分の塗装結果をリアルタイムで確認できるツール」へと変わります。

全てはGemini for Google WorkspaceをつかってJavaScriptカスタマイズのコードを作っています。目的や具体的な運用を伝え、実際に使ってみて更に作り込んでみました。

3. 大型モニターの設置で社内共有


手元の端末でデータが見えるようになった次のステップとして、工場内に大型モニターを設置することにしました。

専用のサイネージ設備を買う余裕はないため、中古で安く調達した43インチのモニターにkintoneの画面を常時映し出し、測定結果を100点満点の「五角形レーダーチャート」として表示させました。

現場に設置したモニターでレーダーチャートを表示中

モニターを設置した理由は3点あります。

  1. 全員がリアルタイムで数値を共有できる環境を作ること

  2. 工場見学に来られたお客様に、弊社の取り組みを見ていただく

  3. 「周囲から見られている」という適度な緊張感を持たせること

この取り組みは始まったばかりですが、現場のモチベーションを高めるだけでなく、将来的には社内評価の正当な指標になると確信しています。

4. 1年分のデータ蓄積で「成長の可視化」を想定

「合格率」と「レーダーチャート」はどう違うのか?

ダッシュボードを見ると、「合格率」と「五角形のレーダーチャート」の2つが表示されています。一見、合格率が高ければチャートも大きくなるように思えますが、この2つは全く違う角度から評価をしています。

(左)レーダーの範囲が広いのに合格率24% (右)合格率が31%なのにレーダーは尖ってる

テストでは、鉄板5枚を使って「左上・右上・中央・左下・右下」の5箇所を測定します。(片面だけで計25箇所)

合格率(%) = 「ストライクに入った確率」 25箇所のうち、目標の厚みに対して「±5μm以内」のストライクゾーンに何箇所収まったかを示しています。「基準をクリアした成功率」です。

レーダーチャート = 「塗りムラとクセの可視化」 一方でレーダーチャートは、25箇所のデータから「どの場所が良くて、どの場所が悪かったのか」を100点満点で表しています。

例えば、「左上は±0」「右下はギリギリ+4.9μm」だったとします。基準内なので合格率は100%ですが、右下はズレているため、グラフにすると「左上が尖って、右下が凹んだ形」になります。

これによって「この人はストロークの後半(右下)で少し塗料が乗りすぎるクセがあるな」ということが一目でわかるのです。

レーダーチャートが外側に大きく広がり、丸に近い五角形を描いている人は、基準を満たしているだけでなく、全ヶ所で目標値(±0)ドンピシャで均一に塗れる、正真正銘のマイスターということになります。

導入初期のデータは、正直なところ合格率も低く、課題を浮き彫りにしてくれるでしょう。

1年後を想定したイメージ画像(半年前、1年前などと比較出来る)

この長期データは、現場に3つの実利をもたらします。

  1. お客様への客観的な品質証明: 「1年間でここまで技術レベルを標準化・向上させています」と客観的なデータで教育訓練の資料を提示できます。

  2. 正当な評価とモチベーション: 日々の技術向上がデータで確認できるため、社員は目標を持って作業に取り組めます。日本人スタッフの技能向上や正当な評価に役立つとともに、技能実習生が日本で技術者として長く活躍するための確かな土台を築く力になります。

  3. 教育の無駄をなくす: 「新人が最初につまずきやすいポイント(例:右下が薄くなりやすい)」の傾向がデータで掴めるため、的を絞った指導が可能です。

結び:身近なツールの組み合わせで現場は変わる
今回導入した仕組みは、安価なIoT設備で構築できます。

  • Bluetooth対応の膜厚計(既存計測器)

  • COM2Key(フリーソフト)

  • kintone(既存システム)

  • Gemini(Google Workspace Business Standard)

  • ヤフオクの中古モニター(安価に購入)

手に入る身近なツールを組み合わせただけの「ちょっとしたIoT」ですが、現場の意識を変え、標準化への第一歩を踏み出すには十分な力を持っています。

今後の展望:『結果』から『要因』の可視化へ 

現在は『膜厚』という結果だけを記録していますが、ゆくゆくはkintoneのルックアップ機能やSwitchBotなどを活用し、その日の『気温・湿度』『塗料ロット』『ガン電圧・吐出量』などの要因データを自動で紐づける仕組みを構想しています。 現場スタッフの負担は一切増やさずにシステムを進化させていくつもりです。

最後まで読んで頂き有難うございました。

私たちは、埼玉県草加市で粉体塗装を行っている会社です。
有限会社山口金属塗装


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