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『ドールズ・ハイ』          第2章『境界の継承』第34話『日常の残響』

―あらすじ―


旧保管区域での調査を終え、
アルトたちは一度いつもの学院生活へ戻る。

アイゼン・ガルテンでは、
ミレイやリオ、
カイン班との何気ない会話が交わされ、
張り詰めていた空気が少しだけほどけていく。

だが、
日常へ戻ったはずのアルトは、
ノアの微かな違和感を消せずにいた。

合同訓練では
六人それぞれの同期と連携を確認する中、
ノアが一瞬だけ遅れて動き、
白い亀裂が淡く光る。

そして夜。

レイスの解析によって、
旧記録にはノアと似た波形が一つではなく
複数存在していたことが判明する。

日常の裏側で、
過去の残響は静かに増えていた。

第34話『日常の残響』

「現時点で、
生徒側へ公開できる情報はここまでです」

教室の前方で、
レイスが淡々と告げた。

旧保管区域から回収された記録は、
現在も解析中。

欠落部分についても調査が続いているという。

「つまり、
結局まだ何も分かってないってこと?」

リオが小さく息を吐いた。

「そういうことになるな」

カインが答える。

アルトは黙っていた。

分からない。

それは確かだった。

けれど、
旧い端末に浮かんだ波形を見た瞬間、
ノアの奥から伝わってきたあの感覚だけは、
まだ消えていなかった。



昼休み。

アイゼン・ガルテンには、
いつものように生徒たちの声が流れていた。

食器の触れ合う音。

遠くで交わされる笑い声。

窓から差し込む光。

旧保管区域とは、
まるで別の世界だった。

「アルト、
さっきから食べるの遅くない?」

ミレイが向かいから覗き込む。

「……考え事してただけ」

「またノア?」

リオが聞く。

アルトは少し迷ってから頷いた。

「うん」

「やっぱりか」

リオが苦笑する。

「でもさ。
今すぐ答えが出るわけじゃないんだろ?」

「分かってる」

「だったら、
今は食べようよ」

セシルが笑いながら近づいてきた。

その後ろにはカインとエルクもいる。

「席、
空いてる?」

「もちろん」

ミレイが答える。

エルクは短く礼をして座った。

「旧保管区域のこと、
気にしてるのか?」

カインがアルトを見る。

「少しだけな」

「なら、
焦るな。
俺たちも警戒してる」

敵意のない声だった。

ただ、
見過ごすつもりもない。

セシルが穏やかに続ける。

「一人で抱えなくていいってことだよ」

「……ありがとう」

アルトは小さく笑った。



午後。

訓練区画に、
六体のゲゼールが並んだ。

ヴォルグが低く身を沈める。

狼を思わせる半人型の巨体が、
床を踏むたびに重い振動を返した。

その隣では、
約155cmのエイルが白銀の装甲を輝かせ、
同期状態を安定させる。

シュバルツは、
約180cmの黒鉄の身体を静かに構えた。

「開始」

合図と同時に、
エルクのシュバルツが前へ出る。

無駄がない。

その動きを見て、
カインがヴォルグを斜めから滑り込ませた。

「右、
空いてる」

「分かってる」

短い言葉だけで、
二機の位置が噛み合う。

後方ではエイルが同期の揺らぎを整えていた。

ルナは周囲を観測し、
フェルは
鷲ほどの翼を広げて上空から全体を見渡す。

ノアも続いた。

――その瞬間。

アルトの感覚が、
一拍だけ遅れた。

ノアの動きが遅い。

ほんの僅かだった。

誰も気づかない程度の遅延。

しかし、
アルトには分かった。

黒い装甲を走る白い亀裂の奥で、
淡い光が一度だけ脈打った。

「……ノア?」

次の瞬間には、
もう正常に戻っている。

「どうした?」

ミレイの声。

「……何でもない」

アルトはそう答えた。

けれど、
胸の奥に残った違和感は消えなかった。



夜。

教導院の解析室で、
レイスは一人、
回収データを見つめていた。

旧保管区域から抽出された波形を重ねる。

一つ。

二つ。

三つ。

画面上に、
似た形状の波形が並んでいく。

その一つは、
現在のノアから検出される
余剰波形と酷似していた。

だが、
完全には一致しない。

位相の一部。

波形の揺らぎ。

そして、
記録された周期。

僅かに違う。

「……複数、
存在していたのか」

レイスが呟く。

同期者名はない。

機体名もない。

残っているのは、
切断された記録と波形だけ。

さらに下へスクロールする。

そこに、
一瞬だけ文字列が浮かんだ。

――未登録。

レイスの指が止まった。

無機質な画面の中で、
その文字だけが妙に鮮明だった。

やがて表示は消える。

解析室には、
静寂だけが残った。

そして同じ頃。

眠りについたノアの黒い装甲、
その白い亀裂の奥で・・・

誰にも知られないほど淡い光が、
一度だけ瞬いた。

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