#2-08|水撒きという仕事。
第二章・第8話
娘の受験もそうだった。
新居のキッチンもそうだった。
私は途中で、自分の役割を少し違う言葉で説明するようになった。
管理者ではない。制御担当でもない。
水を撒く人間。
枠を決める。土壌を整える。致命傷だけは避ける。
ただし、芽の出方までは制御しない。
挑戦するかどうかは本人。
何を選ぶかも本人。
私はただ環境を安定させる。
それだけだった。
第一章の私は、常に制御しようとしていた。
第二章の私は、配置しようとしている。
水を撒く。待つ。観測する。必要な時だけ手を入れる。
効率は悪い。派手さもない。でも、異様に安定する。
人生も、家計も、案外このくらいの距離感でうまく回る。
私はそういう運用へ移行していた。
そしてこの発想は、やがて別の理解へ繋がっていく。
この頃の私はまだ、それを理論として理解していたわけではない。
ただ感覚的に知っていた。
すべてを制御しようとすると、どこかが必ず壊れる。
一部を自由にすると、全体が安定することがある。
合理の放棄ではない。
均衡の設計。
後になって私は、その状態を説明する言葉を知ることになる。
パレート最適。
次回予告:パレート最適という、静かな均衡。
