TENET、再上映でやっと面白さがわかったよ

 グランドシネマサンシャイン池袋で1週間限定で公開された「TENET」の再上映に足を運んだ。激しいチケット争奪戦になんとか滑り込み、かな〜り端っこの席だけども、なんとか鑑賞できた。Travis Scott が歌うテーマ曲「The  Plan」が大好きで、あの曲をなんとしてもIMAXの重低音で浴びたいと願っていたが、ついに念願叶った。一生モンの思い出だ。

 改めて見直して気づいたのは、主人公のキャラが魅力的なこと。「名もなき人」というくらいだから、最初は匿名性の高い受動的なキャラかなと思っていた。でも今日見返すと、主人公のキャラで窮地を切り抜けているシーンがかなり多く、やはり選ばれた人だったんだなと思う。とりわけすごいのは、わからないなりに「さもわかっているかのように」振る舞う度胸、そして取引相手へのハッタリ。初対面で本題に入って、名前を名乗らずにミッションを前進させられるのがすごい。セイターとの「どう死にたい?」「老衰で」なんて、ふざけているのかと思うくらい、皮肉屋でキレ者である象徴のようなシーン。

 主人公は超がつくほど正義漢だ。世界を救うミッションをしているのに、その仕事で出会ったターゲットの女性の人生も個人的に救済しようとしている。マジでなんで?
 この仕事には自己犠牲がつきもの。そうじゃないと世界が救えない。彼はバカ正義ヤロウなので、余計なお世話でも平気で人を救う。うってつけというわけだ。冒頭の解説「火事のビルから人を助けようにも、火の熱さを知っている人ほど怖気づく。でも君はそれでもやる人だ。」の意味がわかった。自分が傷つくとはっきりわかっていても、ミッションのため、仲間のため、正義のためならなんだって遂行できる人なのだ。たとえ全貌がわかっていなくても、そして全てを知ってしまったとしても。

 全体の構造がより詳しく理解できたおかげで、はじめて観た時にはわからなかった、ニールのラストシーンの感動をようやく感じることができて、今日はじめてテネットを心から楽しめた。
 未来人が(彼らにとっての)現状を変えるために、過去(つまり現代)を粛清して解決しようとしている。彼らは「自分たちが生きているんだから、つまり過去に手を出しても自分たちは消えない」と確信している。本当にそうなのかもしれない。過去を変えても変えなくても自分たちは無事に存在できるのかもしれない。でもニールは、世界と主人公を救うため、すでに死ぬとわかっている行動に、自らの自由意志で向かう。ニールは死を選ばず、別の行動を選ぶこともできる。でもそうしたら、主人公や世界は助からないかもしれない。この「何も起こらない現状」を維持するために、規定された死に自ら赴くことを選んだ。決まりきってる未来のようでも、自己選択によるたった一人の犠牲で成立している。この感動は、仕組みを理解しないとわからない。感動の種類としては、ノーランの過去作「ダンケルク」の飛行機乗り、ファリアのラストに近い。全然難解じゃない、ストレートな自己犠牲への感動だ。

 びっくりするほどノーラン作品の前作やその後の作品に直結している要素が多い。「未来人が作ったガジェット」という設定はインターステラーのラストと同じで、今回は映画1本丸ごとその設定で作った。ニールと「ダンケルク」のファリアは精神的に似ているエンディングだった。そしてプリヤがアルゴリズムの説明で引き合いに出したオッペンハイマーは、テネットの次の作品の主役だ。ここに一番びっくりした。テネットは、ノーランがずっと温めてきたノーランの創作の原液みたいなもので、ノーランが何に関心を持って映画を作っているか、そのすべてが含まれていることを証明しているようだ。

 TENETは「よくわからない難解な映画」と言われるけど、それでいい、それでこそ面白いと気づいた。「無知こそが最大の武器」と登場人物も言うけど、全貌がわからない状態で突っ込んでいくことがこの作品の魅力。この映画は「わからないこと」がエンタメ体験になっている。まず主人公が、何もわからないまま物語をスタートさせる。情報開示量は実は観客と一緒の状態。でもそこから事態を知っていって、自分より情報量を持っている人に出会い続ける。自分がプレイヤーなのか、それとも誰かの駒にされているのか。主人公、プリヤ、セイター、ニールの間で「情報量の支配者」が常に塗り替えられ、最終的に主人公が全てを知って最大プレイヤー(黒幕)になる。この真相合戦が裏の戦争で、「自分が何を知っていて、何を知らないか」がそのままゲームになっている。だから知らないことまで含めてゲーム展開に入ってる。だから観客も知らないまま進んでいい。

主題歌「The Plan」の"Know the plan"とはよく言ったもので、計画や全貌を知っていく過程自体がエンタメ。実はかなり純粋なスパイミステリーだった。

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