⑨バガヴァッド・ギーターの世界 ラーマーヤナ
次に、「マハーバーラタ」と並び称せられる叙事師「ラーマヤナ」についても、簡単に触れておきます。「ラーマーヤナ」と言うのは、「ラーマの業績」または「ラーマの冒険」と言うような意味です。「マハーバーラタ」に前後して成立したと推測されますが、インドの伝承では、それよりも先に作られたとされます。
「ラーマーヤナ」は7巻、24,000詩節よりなり、大詩人である聖者ヴァールミーキの作と伝えられています。詩人が同時に聖者であると言う伝統がインドにはありました。前に述べましたように、詩人がある超越的な状態に入ったとき、真実の言葉がひらめき出て作品となる。それがインドの伝統であると考えられます。
ラーマはダシャラタ王の息子です。
このラーマ王子が、妻のシーターを誘拐した、
ランカーを治める羅刹王ラーヴァナを殺すまでの話が、「ラーマヤナ」の主筋です。このラーヴァナは典型的な悪役ですが、梵天の孫またはひ孫と言われています。
ラーヴァナは毘沙門天の異母弟で、兄の財産を奪ったり、ランバーを無理矢理犯したり、悪行の限りを尽くしましたので、神や天人たちの呪いを受けます。
このラーヴァナは、激しい苦行をした結果、梵天の恩寵を得て、神々や魔物に殺されないものとなります。
ところが、梵天は、人間に殺されないと言う条件を除外していました。そこでビシュヌ神は、ラーヴァナを殺すために人間に化身して、ラーマとして生まれたと言う設定がなされます。
ラーマはめでたくラーヴァナを殺して、シーターを取り戻しますが、人々は、シーターが1年間もラーヴァナに幽閉されていて、その間に無事だったはずがない、ラーバナに何かされたろうと疑います。そこでシーターは、自分が潔白であったら、無事に出られると誓い火に飛び込みます。そして無事であったので、疑いは晴れました。
しかし、それにはまだ後日譚があり、後編で、未だシーターの貞節を疑う国民の声があるのを知って、ラーマはシーターを捨てます。
シーターは母なる大地に抱かれてこの世を去ります。しかし彼女は、ラーマとの間にクシャとラヴァという双生児をもうけておりました。
この2人の男の子は、聖者ヴァールミーキに教育され、「ラーマヤナ」という叙事詩をラーマ王の前で暗唱し、この叙事詩は世に広まることになります。
「ラーマヤナ」は、悲しみの情緒(カルナ・ラサ)を主題としているとされます。「マハーバーラタ」と比較しますと、この作品はラーマと言う1人の英雄を主人公として、主要な筋以外の要素も「マハーバーラタ」ほど多岐には渡らず、英雄伝説としてより一貫性があります。そのため後代に、インド国内は元より、東南アジアにも伝わり、ラーマを主人公とする演劇、歌、舞踏、人形劇、影絵芝居など、いろいろなジャンルのおびただしい作品が作られました。
日本にも入って、平康頼の「宝物集」に「ラーマヤナ」の物語のごく一部が伝えられております。
