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お邪魔します、と言った日 🔥5

私は、結婚してから
あまり実家に行かなかった。

年末年始に行ければ、少し。
そのくらいだった。

「結婚した先の家を大事にしなさい」
母のその言葉が響いたのもあった。

なんとなく近寄りたくない、
そんな感覚もあった。

胸の奥に、よく分からない
ふんわりとした居心地の悪さがあった。

なぜなのだろう。
うまく説明できない。

─────

「こんにちは」

私は、実家の玄関の扉を開けた。

そこには、伯母やいとこの姿。
みんな、笑顔だった。

「みのりちゃん、いらっしゃーい」

その瞬間、胸の奥がひやりとした。
笑顔に返事をしながら、
心だけが置いていかれる。

ここは私の実家のはずなのに。
なぜ「いらっしゃい」なのだろう。

「お邪魔します」

私は、笑顔でそう言った。

─────

実家に未練があるわけじゃない。
単純な「嫉妬」とは違う、複雑な感情だった。

結婚が決まった時、父は言った。
「お前の荷物、片付けとけ。
置いてあるものは全て捨てるからな」

私は早く実家を出たかった。
綺麗に荷物を片付けた。

その後、私の部屋は跡形もなく消え、
荷物はすべて処分されていた。

そこにあった『私の居場所』は、
きれいに消えていた。

何も残っていない空間を眺めたとき、
ぽっかり穴が空いたような感覚が残った。

「ああ、私はもう、いない人なんだ」と。

親戚がその家に
当たり前のように出入りする。

鍵を開け、冷蔵庫を覗き、
居間に腰を下ろす。

それを見るたび、胸の奥がざわつく。

誰かに怒られたわけでも、
嫌われたわけでもない。

それなのに、涙が出そうになる。
ただただ、逃げたくなる。

私がいた時からある、薄紫の絨毯。

コンポ。

ピアノ。

─────

いとこ達はお茶を飲みながら、談笑する。
子どもたちは走り回る。

賑やかで、楽しい光景。

「あはは、久しぶり」

カバンを下ろし、いとこに笑いかける。

「マユちゃん、大きくなったね」
「そうなんだよね、最近重くって」

いいじゃない、みんな楽しそうで。

なんでこんなに苦しいの?
なにが、嫌なの。

心の中で何度も問いかける。

でも、どれだけ考えても、
答えはどこにも見つからなかった。

──────────
🫧この形の私

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