暑い夏と、少しの安心
目が覚める。
今日は仕事に行かないんだった。
目だけを動かし、私はそう思った。
普段ならもうとっくに準備をしている時間でも、今日は違う。
心療内科に行った私が貰った診断書。
”3ヶ月の休養を要す“
しかし、上司には「お盆までには出てきて欲しい」と言われた。
休職期間、2週間。
今日で1週間目だ。
少しだけ元気になった気もするが、
体も心もまだぐったりしていた。
携帯を開くと、彼氏の基くんからのメッセージが
届いていた。
「今日休みだけど、一緒に出かけない?」
あまり気は乗らなかった。
「いいけど、人が多いところはちょっと…」
返事はすぐ来た。
「動物園に行こうよ」
動物園――少し遠い。
近くの知り合いに会う心配はなさそうだ。
私は「了解」とだけ返し、ゆっくりと準備を始めた。
この1週間、ほとんど家から出ず、
人と会うのも怖かった。
─────
外に出ると、太陽がまぶしかった。
8月の暑さがギラギラと照りつける。
家の中では感じなかった、外の世界の圧。
基くんの乗った白い車が到着する。
行き先は、車で1時間半の動物園。
子どもの頃に何度か行ったけれど、
大人になってからはほとんど足を運んでいなかった。
基くんは、私が気遣わなくて済む
数少ない人間のひとりだった。
彼は不思議と安心感があった。
車の中は気楽で、安心できる空間だった。
途中で買った飲み物を片手に、
どうでもいい話をしながら向かう。
動物園に着くと、
シマウマ、キリン、ゾウ――どれも暑さにバテて
木陰でじっとしていた。
夏休みシーズンだというのに、
暑さのせいか人が少ない。
それでも、広い園内を歩くだけで、
少し元気が戻ってくる気がした。
うさぎを抱っこしたときのふわふわした感触。
アイスクリームをかじったときの冷たさ。
小さなことが、心に固まっていた緊張を
少しずつ溶かしていく。
隣に基くんがいるだけで安心できる。
「このふわふわ感がいいんだよな」
うさぎを撫でながら、軽く笑う。
「これ、みのりに似てない?」
カピパラを指さして笑う。
「えー、あれ?失礼すぎ」
そんな軽口に、
不思議と重さが消えていく。
「疲れたら店で休んでもいいんだからな」
私のことを気遣う素振りが嬉しかった。
いつも通り軽口を叩きながらも、
私の隣を手をつないで歩いてくれる。
この人は私を守ってくれる。
私は、1人じゃない。
暑い動物園の空気の中つないだ手は、
じっとりと汗ばんでいた。
それでも、基くんは私の手を離さなかった。
私の手を握り、右側を歩く彼の横顔。
この人は、きっと私の手を離さない。
そういう気がしていた。
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🫧この形の私

