ごめんなさい
あれ以来、祖母とはほとんど
口をきいていなかった。
何を喋ればいいのかもう分からなかった。
それでも、祖母は変わらず
日常を続けていた。
毎日洗濯をして、
たたんだ服を私の部屋まで届けてくれた。
毎日、あたたかいご飯を用意してくれた。
何も言わず、ただそこにいてくれた。
けれど、当時の私にとっては、
それさえも痛みを感じた。
1秒、1秒。
母の声が何度も頭の中で響いた。
”おばあちゃんに恩返ししないとね"
ああ、私は…ダメだ。
全然、ダメだ。
───
帰る日。
夫の迎えの車に荷物を積み、
夫に子どもを預けると、
私は祖母の部屋へ向かった。
「おばあちゃん」
部屋に入ると、祖母はタンスから
何かを取り出し、
静かに書き物をしていた。
その背中を見た瞬間、涙が溢れた。
ずっと、ずっと味方でいてくれたのに。
私は何もできなかった。
恩を仇で返してしまった。
親不孝でごめん。
涙は止まらず床にしゃがみ込む私。
祖母は黙って隣にいた。
ごめんなさい、ごめんなさい
──声にならない。
ただ子どものように泣き続ける私の肩に、
祖母の手がそっと置かれた。
祖母は黙ったまま、
私を抱きしめてくれる。
「おばあちゃん、ごめんなさい」
「色々してくれたのに、
何も返せなくて…ごめんなさい」
ようやく絞り出すように言葉を並べる私に、
祖母は優しく答えた。
「大丈夫。産後はそんなものだから。
おばあちゃん、気にしてないよ」
結局、私は恩返しどころか仇を返す形で、
祖母の家をあとにした。
遠ざかる祖母の家を見つめながら、
それでももう、ここにいることはできない──そう感じていた。
──────────
🫧この形の私

