夜の家の話 🔥5
大人になってから知った「夜の家」の話。
それは、母から聞いた話だった。
─────
父は酒をよく飲む人だった。
「〇の駐車場に来い」
酔った父からの迎えの電話は
午前0時を回った頃にかかってくる。
それは、ほぼ毎日のようにあった。
2階の布団には、2歳の私が眠っている。
母は、電話を切ると2階に上がり、
私の様子を見る。
すやすやと気持ちよさそうに眠る、小さな私。
それを確認した母は、部屋を出ると
部屋の襖を静かに閉めた。
部屋から出られないように、
つっかえ棒を立てかける。
扉が開かないことを確認して、
静かに階下へ降りた。
黙って車を走らせ、指定された場所へ。
時計は午前1時。
父はいない。
30分。
1時間。
2時間。
……ようやく父の姿。
「おい、こいつらを送れ」
酔いの回った声で父が言う。
「奥さん、すみませんねぇ」
4人の男たちが車に乗り込む。
いつもの流れだった。
全員を送り、
自宅に戻る。
空はうっすら白みはじめていた。
─────
帰った母は、自宅の二階へ。
棒を外し、ふすまを開けると
いつもの光景が広がっていた。
母の開けた扉の近くには、
私が横たわっていた。
おしっこを漏らし、
顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。
そのまま、私は泣き疲れて眠っていた。
─────
夜中に目を覚ます。
「おかあさん」
「おかあさぁーーん」
孤独に泣き叫び、母を探し回る。
部屋の戸は、どんなに押しても開かない。
叩いても、泣き叫んでも、誰も来ない。
「おかあさーーーん!!」
そのうち、泣き疲れて眠る。
─────
「あの頃は本当に大変だったのよ」
「お父さん、信じられないよね」
母は、コーヒーにミルクを注ぎ
スプーンでクルクルとかき回す。
「ほんと、悪魔みたい」
話し続ける母の目の前で、
私は違うことを考えていた。
なんてことを。
「……それ、よくある事だったの……?」
「そうよ。本当に信じられないでしょ」
私は母を見つめた。
よく、その話を私にできたな。
私は、何も言わなかった。
母は、話し続けた。
握りしめた拳は、膝の上で震えていた。
──────────
🫧この形の私

