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できる私

異動先は、会社の看板ともいえる
売り場だった。

新しい部署に出社すると、
リーダーの女性が言った。

「とりあえず、レジをお願いします」

「すみません、レジはまだ習ってなくて」
私がそう言うと「え、そうなの」と言い、
一からおしえてくれた。

その日から、私の仕事量は一気に増えた。

血がたぎった。

当時はまだバーコードもなく、値段は手打ち。

商品を見ただけで値段がわかるように、
店の中の全商品の価格を暗記した。

紙幣の数え方、硬貨の扱いも
自分のお金で、毎日必死に練習した。

楽しかった。

─────

そして一年で一番忙しい
ゴールデンウィークがやって来た。

「レジの配置はホワイトボードに貼ってあります。各自で確認してください。」


名前、名前……。

あった。

5月4日。

佐藤みのり、メインレジ。

鳥肌が立った。


入社して半年足らずの私が、メインレジ。
袋詰め、アルバイト。

やっと、挑戦できる仕事が来た。


「よっしゃ、来た!」

心の中でガッツポーズする。

不安など欠片もなかった。

─────

5月4日。

店のオープンとともに
売り場は人で埋まった。

黒い渦のような波が押し寄せる。

「いらっしゃいませ、ありがとうございます」

私はレジを打ち続ける。
隣にいる袋詰めの人がやりやすいよう、
先を読む。

─────

「みのりさん、交代します」

背後から、副店長の声。

「はい、562円のお返しです!ありがとうございます」
満面の笑みでお釣りを渡し、交代する。

「いらっしゃいませ」

「失礼致します」

人混みをすり抜け、事務所へ向かう。
そして、笑顔のまま休憩室に入った。


パタン、と事務所の扉が閉まる。

ふっ、と何かが切り替わる音がした。

口角が下がる。ズンッと、体に重さを感じた。

そのまま、椅子に座り込んだ。

疲れた。

その時、一緒に接客していたアルバイトの女性が事務所に入ってきた。

「今日も人すごいね」

「ほんとですね。びっくりしました」

私が笑って言うと、その人は言った。
「みのりさんの横、すごくやりやすかったよ」

「え、ほんとですか!?嬉しいです!
残りもよろしくお願いします」
「こちらこそ」

ふたりで笑った。

私は、嬉しい気持ちを飲み込むように
お昼ご飯のパンをかき込んだ。

─────

午後。

打つ、打つ、打つ。

笑顔で回し続ける。

『本日はご来店頂きまして……』

気づくと、閉店を告げるアナウンスと
音楽が流れていた。


「422円のお返しです。ありがとうございます」
最後のお客様を見送った。

音楽が止み、店が閉まった。

私はドッと床に座り込んだ。
痺れるような疲労が体全体に広がる。
「はぁ、疲れた」

そう言って、隣の人と笑った。
どこか心地良さを感じた。

その日のメインレジは、売り場一番の売上だった。
そして過不足金は、ゼロだった。

やれた。
こんな私でも。

役に立てた。

初めての感覚だった。

──────────
🫧この形の私

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