貧乏父さん、FIREを目指すも迷走中⑪ ~副業と投資で七転び八起き~
第2部:投資信託編
第5話:「関税かけたら、いかんぜぃ」ナショナリズムはほどほどに
【FIRE迷子シリーズはこちらから ↑↑】
■2月、父の土地が“動くお金”になった
2025年2月。
父の土地を売った代金は、ぼくの口座に入金されている。
増えた数字を通帳アプリで見ると、胸の奥が少しだけ熱くなった。
「これが、父からの最後の仕送りか。」
そんな思いがよぎったからだ。
ただ、しみじみしている暇はなかった。
このお金をどう使うかは、ぼくのこれからの選択にかかっている。
すぐに投資に回すか?
それとも少し時間を置くべきか?
ぼくは妻と何度も話し合った。
折しも新NISAの2年目、年初一括投資派も少なからずいたのか、株価は年明けから高値安定といったところだった。
「いま買うのは早い?」
「うーん、春先は相場が荒れること多いしね」
「父の土地のお金だし、慎重にいきたい」
まるで旅行先を選ぶみたいに、ああでもない、こうでもないと迷い続けた。
「何を買うか」より「いつ買うか」、それが問題だった。
■2月下旬、ここが買い時…!
そんなある日、相場が年初来の高値が少し落ち着いたあと、二日ほどストンと下がった。
投資に慣れた人から見れば何ということもない、ただの揺れ。
けれど、ぼくには違って見えた。
「これ……買い時なんじゃない?」
妻は苦笑しながらも、
「焦りじゃなくて熟慮の結果ならいいと思うよ」
と背中を押してくれた。
ぼくは深呼吸して、購入手続きに進む。
銘柄は「eMAXIS Slim S&P500」と、同じく「eMAXIS Slim 8資産均等型」を1対1の割合で。
初心者なりに攻めと守りに配慮した、良い買い方だった(と初心者だからこそ思えた)。
クリックした瞬間、「未来に向けて確かに前進した」という手応えがあった。
……数日後、思わぬ雨が降るとは知らずに。
■3月、ズルズルと含み損へ沈んでいく日々
だが現実は厳しかった。
評価額はプラスになりそうでならず、一度戻しても翌日には元の位置へスポンと落ちる。
結局、ズルズルと含み損に沈んでいく。
「またこのパターン……?」
昨年9月の嫌な記憶が蘇り、小さな石を積み上げるようにじわじわと胸に溜まっていく。
そんな中、追い打ちをかけるように、3月4日、あの発言が飛び込んできた。
■3月4日、トランプの一言
「北米・中国への関税案を検討」
市場がざわつき、S&P500は前日比 −1.8%。
それだけなら、普段なら誤差で済ませられたかもしれない。
でも、ぼくのポートフォリオはもう赤字。
少しの下落でも、気持ちに2倍のレバレッジがかかってしまう。
「ここでまた下がるのか……?」
そんな弱気のため息にまぎれて、
妻に向かってつい口をついて出たのは、しょうもないダジャレだった。
「トランプさん、関税かけたら……いかんぜぃ……」
妻は静かに首をかしげた。
笑ってはくれなかった。
■4月2日、突然の土砂降りが来る
そして4月2日。
とうとう本降りの雨が降ってきた。
「全輸入品に10%の一律関税」
「中国・日本・ヨーロッパに追加関税」
まるで彼のMAGA帽のように真っ赤な顔のトランプが、自身への支持を固めるために保護貿易を謳う。
アメリカ国民のナショナリズムを煽り立てるのは結構だが、こんな形で世界経済を巻き込むのはやめてほしい。
ぼくの顔は真っ青だった。
S&P500は −4.8%、ナスダックは −5% を超えた。
さらには4月4日に中国が報復関税を発表すると、二日間で −10%前後の本格的な暴落となった。
親友(ぼくがFIREを目指すきっかけとなったアイツだ)は、このとき悠々と追加資金を投入したそうだ。
「5%下がるごとに余剰資金の20%を追加する」というマイルールを設定していた、とのこと。
なるほど、それは積立期における最善手のひとつだろう。
そのような方法があることは知ってはいたが、ぼくはリスク許容度の範囲内で全額を一括投入する方法を選んだ。
おかげで…この雨でずぶ濡れになった。
■ぼくの決断は「損して得取れ」
この暴落の渦中で、ぼくは二つの記憶の間で揺れていた。
ひとつめは、「みんなで大家さん」。
「ヤバい」と感じた瞬間に逃げたおかげで、間一髪で致命傷を避けた経験。
あそこで欲をかいていたら、FIREどころか家計が(以下略)だっただろう。
ふたつめは、昨年9月の「新NISAデビュー戦」。
株価の下がり続けた数週間をぐっと堪えたおかげで、鍛えられた経験。
あそこで浮足立って逃げ出していたら、資産形成がさらに遅れたはずだ。
だが、逃げて助かった経験も、耐えて報われた経験も、どっちも結果論。
後から振り返ったら「正解だった気がする」だけだ。
過去の経験に依拠した生存者バイアスに惑わされてはいけない。
果たして今回はどうすべきなのか。
ぼくの下した決断は、「逃げる」でも「耐える」でもなかった。
暴落のダメージを利用して、静かにカウンターパンチを狙う。
下落率の小さかった「eMAXIS Slim 8資産均等型」を売って、損切りした。
バランス型は、確かにボラティリティが低い。
長期で保有するには悪くないけれど、今このタイミングでは働きが弱いと感じたからだ。
そして、それを元手にして、大きく下落していた「野村世界業種別シリーズ/半導体」を買ってみた。
あのとき半導体株は特に下落幅が大きかった。
だからこそ戻る力も強い、と思った。
いや、それは後からこじつけた理屈かもしれない。
正直なところ、そのときのぼくには、勝てる自信があった訳ではなかった。「狙いすましたカウンター」というよりは「一か八か」の賭けに出た気分だった。
■短い雨が上がり、水脈が走る
豪雨が止んだのは、意外なほど急だった。
4月9日、トランプ政権が「相互関税の実施を90日間停止する」と発表。
市場が一気に反発した。
S&P500もナスダックも10%近く跳ね上がった。
そして大幅に下落した半導体株が、最も強く戻ってきている。
これは、8資産均等型のままホールドしていたら取れなかったリターンだ。
2025年11月現在は、含み益70%を超えている。
まさにビギナーズラックだが、形としてはぼくは賭けに勝った。
投資とは、ときに理論ではなく直感に従うほうが強いのかもしれない。
4月初めの暴落は、突然の土砂降りのようなもので、一瞬で地面を泥濘に変えて過ぎ去った。
そして、その雨は無駄ではなかった。
地中に確かな水脈をつくり、ぼくのまいた種が芽を出すための力になった。
半導体ファンドが力強く上がり始めたのは、その水脈のおかげだ。
■父の土地から多くの芽が出た
その後も株価はゆるゆると回復。
6月には市場全体がすっかり落ち着き、4月の暴落なんて忘れたかのようにS&P500は2月以来の高値を超えた。
あの「土砂降り」で、ぼくはまた学びを得た。
動かない勇気と、動かす判断。
両方を同時に求められるのが、投資という世界だ。
FIREを目指したあの日から、ぼくの中で少しずつ変わってきたものがある。
それは資産だけじゃない。
迷いながらも前へ進もうとする、小さな意志のようなものだ。
子どもが小さな足で地面を一歩ずつ踏み出すように、ぼくも投資家としてよちよちと歩き始めている。
次回、投資信託編の最終話。
2025年夏から現在までの狂乱の株高を語る。

