おくり人〜栞〜|綴1 『 誰の為の、お葬式? 』
はじめに。
本作品をお読みいただく前に、
以下をご確認ください。
※本作品には、葬儀に関する描写が
含まれています。
ご遺体、告別式、供花など、
死に関連する場面が登場します。
※本作品は創作です。
登場する人物、団体、施設、企業は
すべて架空のものであり、実在する人物、
団体、施設、企業とは一切関係ありません。
※本作品は、
毎週 火・木・土 更新予定です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おくり人〜栞〜
綴1 『誰の為の、お葬式?』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
涙が止まらなかった…。
懐かしい記憶とともに、
" 言葉 "が次々と耳もとで囁かれてる。
(お腹すいてない?)
(しおちゃんは、大丈夫だよ)
(学校で嫌なことされてない?)
ピアノとともに聞こえる賛美歌は…
私の記憶のおばあちゃんを、
映像とともにリアルに呼び覚ました。
百合の…どこか甘い香り。
菊の花に含まれた、すっと鼻をつく匂い。
棺には、瞼が閉じて…
二度と、その唇が開くことはない…
私の記憶で映し出され続けてる
おばあちゃんが、花に囲まれてる。
私は声をあげて泣いた。
涙と鼻水が…唇に触れる。
だけど、それを拭わない。
遠くで、牧師の声が聞こえる。
「神の身元に…
……旅立たれて…、
永遠の、……
安息の日々を……」
途切れ、途切れにしか私には聞こえない。
それよりも…
ただ、この後訪れる別れ。
その姿を…忘れないでよう。
静かに横たわる おばあちゃんを見つめた。
『いつか、人は必ず死ぬ』
幼い私の目の前では、
ハッキリとした" 現実 "があった。
「栞(しおり)…そろそろ蓋を閉じるね」
牧師さんの優しい声とともに、
私の肩に手が触れる。
わかってる…。
もう、お別れの時間だって…。
だけど…
私は牧師さんに、反発するように…
強くおばあちゃんに抱きついた。
(絶対に忘れない!)
ピピピピ……ピピピピ…。
白い天井が目に入ってきた。
目尻に違和感を感じる。
湿った…濡れた感覚。
私…泣いてた。
(また…おばあちゃんの夢……か)
ゆっくりと身体を起こすと、
布団の温かさも一緒に抜けてくのを感じる。
おばあちゃんと別れて20年。
私は…あの頃と比べて、
何か、変わったのかな…。
ふ〜っと息を吐く。
ブッ、ブー、ブー、ブー。
枕元から振動が伝わる。
「あぁ…今日も忙しそう……」
スマホの画面には、こう表示されてた。
ーー飾り3件 出し4件 ーー
今日1日の流れが、
私の頭の中で組み上がってゆく。
午前6時
夏が近いとは言え、
この時間は、まだ少し寒さが残る。
「おう!栞、おはよう。
追加が20基入ってる。
取り敢えず、急いで13基。
頼むわ」
壮年の男性。
すでに出勤して、ズラリと並んだバケツ…
供花(きょうか)を生ける段取りが済んでる。
「べーさん、早いですね…」
「当たり前だろ。
先々準備しとかないと、
この仕事は、いつ入るか分からんしな」
パキッ。
私は、大輪の菊の花…
その茎を手折って、バケツ(おとし)に
セットされたオアシスへ、菊を挿してく。
パキッ、パキッ、パキッ。
菊の茎を手折るたび…
鼻を通り抜ける ツンとした匂い。
私はこの匂いが好きだ。
「おはようございま〜〜す」
「おい、山ちゃん!
今日遅くなかったか?
追加入ってるし、飾りも入ってるぞ」
「マジっすか…」
少しポッチャリした男性が出勤してきた。
彼の名前は山本。私より少し歳上。
少し頼りないとこと、齢が近い事もあって、
私は、彼を " 山ちゃん "と呼んでる。
彼は、私を" しおちゃん "って呼ぶ。
欠伸気味に挨拶して入ってきた山ちゃんに、
べーさんのひと言は、戦闘モードの
スイッチを入れるには充分な内容だった。
「しおちゃん、俺が菊挿すから
色花埋めてくれよ」
山本がエプロンの紐を、
キュッと締めた。
私は急いで、色花を用意する。
カスミソウ。
ユリ。
スターチス。
カーネーション。
枝菊。
用意してる間に、
山ちゃんは10基分の菊を生け終わってる。
「相変わらず、早いですね」
「あたぼーよ!5年目だからね。
それより、しおちゃんも急いでよ」
私は菊が生けられた" おとし "に、
ユリ、枝菊、カーネーションを挿して、
スターチス、カスミソウで空間を埋める。
「おーおー。
早いね〜。もう準備できたんか
今日は、お前ら2人だけど、
やっぱダブルエースが居ると
余裕だなぁー」
べーさんは、タバコをふかしながら
私と山本の生けた花を、
軽トラへ積んでる。
「栞、この追加運んで、
そのまま出棺入ってくれ。」
「2件目も入りますか?」
「おお、行けそうだったらな。
一応、山が飾りしながら
様子みるから」
「了解」
私は、軽トラのエンジンをかけた。
式場の朝は早い。
七時には、朝食の準備でコンパニオンさん達がバタバタ走り回ってる。
朝食会場のセットをしつつ、
宿泊している親族控室の布団を片付けたり、
依頼に応じて、喪主や親族の式服を届けたりする。
その上、葬儀式の進行や、告別の儀の際に行われる献花の手順の再確認も、コンパニオンの仕事だ。
「おー!しおちゃん。
おはよー!」
「ヨッシー、おはよー」
私は、コンパニオンを束ねるリーダー
吉村ことヨッシーに挨拶を返した。
「喪主さんに、札の順番確認してるから
後で事務所にきてー」
供花には、札が立てられる。
その札には、差し出し人の名前が書かれる。
そして、 その並びには" 順番 "があり、
毎回、喪主へ確認して供花ごと順番を入れ替える。
ヨッシーから貰った表を確認しながら、
私は供花の順番を入れ替え…
札を立てて…
札の傾きや向きを整える。
よし。
「おはようございます。
あなた、お花屋さん…だよね」
「おはようございます。
はい、そうです」
整った顔立ちに、深い皺が刻まれてる男性。
(60代後半くらいかな…)
式服をビシッと着こなしてるその人物は、
どこか、上の立場を感じさせる雰囲気。
「ああ、私はここの喪主だけど、
あの左から3番目の供花ね、
一番後ろに下げてくれない?」
「あ…はい。分かりました」
「ちょっと、あなた!
それはマズイでしょ」
「いいんだよ!
どうせ、入院中で来ないし
疎遠になって何十年も会ってないだろ」
「でも、本家の方ですよ!
代理の方がお見えになるかもしれないし
誰かが伝えたら、印象が悪くなります」
男性の後ろから声をかけてきた女性。
これまた、喪服を着てるが、
上品な感じが漂う。
「それに、お父様が経営で苦しんでた時、
一番にご助力下さったのは、本家ですよ」
「オヤジはそうかもしれんが、
俺の代になってからは、
一切知らんぷりだったろ」
私は…ん?って違和感だった。
お葬儀って……誰の為…
いや、なんの為にするの?
目の前で繰り広げられる老夫婦のやり取り。
そこには、様々な" 要素 "が混じり合ってる。
しかし、
それを考える時間は与えられなかった。
「喪主様。
司会の者が来ましたので、
本日の打合せのお時間を頂戴します」
ヨッシーが喪主夫婦へ、司会を紹介する。
結局、私は喪主の言葉通り、供花を並べた。
式場には、
左右合わせて80基以上の供花が並ぶ。
ビシッと並ぶ名前の札。
だけど…
この札は、誰の為に掲げられてるのだろう。
それは…
何の為に……。
親族控室が、式場と繋がっており、
控室の扉は開いたまま。
そこから、
喪主夫婦と司会者の話す姿が見える。
時々、にこやかに微笑む老夫婦。
私は、控室の開いた扉に、
" 閉じた "何かを感じた。
そして…
ここから始まる物語は、
生と死の話ではなく……
そこに含まれる" 意味 "の
観測ログなのかもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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