金目鯛のハードボイルド
久々の休暇。
俺はそれを満喫するために、伊豆を訪れていた。
半島というのは実にいい。
実にハードボイルドだ。
島より脱出ルートは確保できるが、
陸ほど選択肢に迷わない。
いや、日本自体が島国なのだからやっぱり島なのか?
そんな空想も、あっという間に潮風がさらっていっちまう。
今夜は下田を棲家にすると決めた。
下田と言えば、ペリー来航の街。
そして…金目鯛の煮付けだ。
そして今、俺の前にはまさにそいつが横たわっている。
こいつは実にハードボイルドだ。
おっと…ソフトボイルドじゃなきゃ困っちまうがな。
香りだけで分かる脂の乗り具合。
食欲をそそる甘辛い香り、
それを引き立てる生姜。
完璧という言葉はこいつとゴルゴ13にしか似合わない。
さて、御託はたくさんだ。早速いただくとしよう。
箸を付けようとしたまさにその時、
連絡が入った。
昭和の犯罪史に残る大事件
それをモチーフにした、俺の新作ハードボイルド小説。
その執筆のための取材をさせてほしいと出版社に依頼してあったのだ。
何しろ規模のデカい事件だ。
取材費もそれなりに膨らむ。
社長、いよいよ腹をくくってくれたらしい。
*
スーパーの菓子売り場。
そこに並べられたチョコレート菓子に、和文タイプライターで作られた怪文書が貼り付けられているのが見つかった。
「ちょこいり きけん たべたら うまい かい人23面相」
毒物の混入こそ確認されなかったものの、不気味な劇場型犯罪に世間は震え上がった。
「誰が?何の目的で?」
マスコミは連日騒ぎ立て、メーカーは対応に追われた。
実は警察は、犯人と思われる人物を至近距離で複数回目撃している。
しかし、「現行犯逮捕」という方針が裏目に出て、身柄を確保できないままでいた。
そして、犯人の似顔絵が公開された。
「キツネ目のキツネ」
それが彼につけられたニックネームだった。

*
「……鈴木さん」
編集長が、頭を押さえながら報告書から目をそらした。
「あなた『あの未解決事件を今改めて取材し直したい』って言って出張行きましたよね? で、何ですかこの報告書。ふざけてるんですか?」
「あ、いや…その…」
「『ちょこいり きけん』って何ですか。ただのチョコレート菓子でしょうが」
「えぇ、美味しそう…ですよね」
「で?『キツネ目のキツネ」。あんたこれが言いたかっただけでしょうが」
「いやまあ、新しい切り口って言うか、その…」
「取材費、それなりに渡しましたよね?」
「えぇ、しっかり頂きました……」
「どこにやったの?」
「伊豆で…キンメの煮付けを。たらふく」
「我が社の歴史に残る大赤字ですよ!!」
「反省してます……」
あとがき
すみません、〆切に間に合いませんでした…
制作は終わっていたのに、
投稿を失念(泣)
※この記事にはAmazonアソシエイトリンクが含まれます。
