【掌編小説(ホラー)】 湖 #せりふ三題噺
湖の畔の小さな農村が今宵、収穫祭で静かな盛り上がりを見せていた。
子供たちがお化けに扮し篝火を灯した各家を訪ねる、大人達は普段食べさせてあげることの難しいお菓子を用意し、その訪問を待ち侘びていた。
そんな村人達は、湖の向こう、鬱蒼とした森に飲み込まれ、打ち捨てられた漁師小屋の小さな明かりに気付かないでいた。
「ちゃんと扉を叩いて誰もいないのを確かめろよ」
黒いマントを羽織ったそばかすの少年が小さく叫ぶ。
「でないともう遊んでやんないぞ」
その後ろ、シーツを被りランタンを掲げた背の高い少年が、幽霊が住むと言う廃屋の前に一人背を丸め佇む少年に言い放つ。
「怖いよぉ……」
震える手に持つランタンが、顔中に描いた傷と涙を溜めた目を照らし、湖の浅瀬に伸びるデッキの板を軋ませる。
恐る恐る扉を叩くが当然返事がない、帰ろうと少年たちの方を振り返ると、先ほどよりも遠い木の影に隠れ首を振った。
そんな絶望にも似た気持ちでもう一度正面を向き直すと、扉がわずかに開いていた、その隙間の暗闇からは何も見えず、何も聞こえなかった。
「ト……トリック……ォアァトリー……ト」
思わずつぶやいた虫の羽音程のその声が届いたのか、魔女のような黒い外套を羽織り、美しい女性が濡れた髪から雫を落とし姿を覗かせた。
「あら、可愛い死者さんだこと、お菓子をくれないと、悪戯されちゃうのね? どうしようかしら……」
とめどなく滴る雫が水溜りを作り、本来、悩む様な事では無いはずの文句に、わざとらしく考え。
「トリック……」
「えっ……」
「トリック……どんな悪戯を、してくれるのかしら?」
「え……あぁ…それは、その……」
誰もいないはず、すぐに帰れる、そんな考えが崩れた頭の中、どうしたらいいのか混乱する。
「ああぁ……お友達が見てたら、悪戯出来ないのかしら? だったらほら、いらっしゃい……」
魔女は扉を開け中へと促すと、少年の意思とは関係なく足が動き、水溜りを踏み中へと入って行った。
「ねぇ……これって、マズイじゃないの……」
背の高い少年が尋ねると、そばかすの少年が叫び村へと走り出した、ランタンとあの少年を置き去りに、背の高い少年も走り逃げ帰った。
「そしたら、色白の大きな男の人が出てきて……」
複数のランタンが小屋に向かう中、そばかすの少年が見た事を話すが、背の高い少年が立ち止まる。
「えっ……アイツ一人で入って行った……」
二人の話が食い違う、だが、あの少年が廃屋に入って行った、そしてその話が悪戯なんかではない。
この湖で起きた忌まわしい事故の記憶が、その男にそう思わせ猟銃を強く握りらせた、そのすぐ横でエプロン姿の女性が胸に籠を抱き、中にはクッキーやパンケーキ、キャンディなどが無造作に放り込まれていた。
漁師小屋の前、軋む板、猟銃を握り直し、意を決し扉を蹴り破り銃を構える。
中には、崩れた屋根から差す月明かりに照らされた、全身ずぶ濡れのあの少年が立ち尽くしていた。
女性が猟銃を押しのけ、膝を付き籠を置きその頬を撫でる、足元に広がった水がエプロンの裾に染みていく。
「どこか、怪我してない? 痛いところは?」
母の問いに静かに首を振る少年。
「おにいさんとおねえさんは? どこ行っちゃったの?」
服が汚れ濡れるのも構わず抱きしめ嗚咽を漏らした、その傍で緊張を解かない男が、一瞬だけ優しい表情を妻と子に見せ立ち上がらせる。
「さぁ、帰るぞ」
猟銃を構えたまま背を見せず出た部屋に、水の滴りが響いた。
今週も参加させていただきました✨
▼今週のお題
■セリフ
「トリック・オア・トリート!」
■三題
・キャンディ
・暗闇
・魔女
今回は "ホラー" に挑戦してみました。
ですが……難しいです……物語の展開から落とし方(?)、物語の終わらせ方、そういった順番や情報量の盛り込み方など。
もともとホラーは苦手だったのですが、とあるゲームで少しは慣れてきたかな……っと……ですがまだまだです……(関係ない?)。
ここまで読んでいただきありがとうございました🙇
