【選択小説】浴衣の女の子と夜店から(シロクマ文芸部)
夜店から出て、長い長い人ごみの中。
お揃いの真っ赤なリンゴ飴を持って。
リンゴ飴と同じくらい、真っ赤な浴衣を着た女の子と手をつなぎ。
ゆっくりと歩いている。
ああ、俺だって、そういうのは彼女とやりたかったよ。
どうして見ず知らずの女の子と手をつないでいるんだろ、俺。
手をつないでいる、赤い浴衣の女の子。
推定5歲。
周りには家族らしき姿もなかったので、 要するに迷子だ。
地元の神社の夏祭り。
赤い浴衣の幼女を見つけたのが、ちょうどりんご飴の屋台の前だった。
「ところでお嬢ちゃん、お母さんはどこかな?」
見つけた幼女に尋ねてみると、返ってきたのは意外な答え。
「かあさま、いない。とうさまと、にいさまなら、いる。」
ポツリと返ってきた、その言葉。
シングルファーザーで子供2人。
母が居ないという境遇に可哀想になり、 迷子の幼女の父親を探す羽目になってしまったのだ。
「そっか、お兄さんに任せろ!」
そう言いながら、気づけば幼女の分までりんご飴を買っていた。
「実は、お兄さんも迷子なんだ。」
赤い浴衣の幼女は、首をかしげる。
そうだよな、こんな大きなお兄さんが迷子なんて、信じられないよな。
俺は苦笑して、話を続ける。
俺たちは、同じ高校の4人組で夏祭りに来ていた。
そして、今夜の目的は1つ。
友達の恋をアシストすること。
友達の林は今夜、田中さんに告白するつもりで夏祭りに来ていた。
だから、俺と山田はこっそり隠れて、2人きりにしてやろうというサプライズを考えていた。
それなのに、どういう訳か。
俺が3人からはぐれて、更には迷子のお世話までやっている。
「あーあ、いいなあ、林。
俺だって、彼女欲しいよ…。」
というか、俺って実はハブられているんじゃないだろうか。
俺以外の3人とも浴衣でしっかり決めてきていたし。
俺だけ普段着で恥ずかしかった。
田中さんのピンク、林の深緑、山田の紺色。
皆《勝負服》って感じじゃないか!
まったく。何の関係もない山田まで、浴衣で来なくたって良いじゃないか。
しかもアイツはカッコいいから、余計に俺の立場がない。
田中さんのピンク、林の深緑、山田の紺色。
迷子のお父さんを探すかたわら、俺の友達もいないかチェックしながら人混みを歩く。
ここまで来れば、迷子センターを兼ねた集会所もすぐ近くだ。
それなのに…。
「こっち、いきたい」
赤い浴衣の女の子が唐突に指さした。
逆方向。
神社の石段を上がった、その先を。
「こっちに集会所があるから、迷子はそこに行くといいんだよ。」
俺は幼女をなだめる。
「ちがうよ、こっちだよ!」
幼女は、泣きそうになって訴えている。
そもそも、神社の本堂の方は夏祭りから離れて、人気もない。
何でそんな所に行きたいんだ?
俺は、どこへ行けばいいんだ?
A 集会所の迷子センターに連れていく
B 石段を昇り、神社の本堂へ行く
A 集会所の迷子センターに連れていく
俺は、集会所の明かりが点いていることを確認する。
そして、女の子の手を引きながら、集会所の扉を開けた。
「あの一、迷子なんですけど。」
集会所のおじさん達から返ってきたのは、意外な言葉だった。
「いや、お兄ちゃん。あんた1人だよ。」
「兄ちゃん、あんたが迷子かい?」
つないでいた右手の方を見ると、赤い浴衣の女の子は消えていた。
「狐に化かされたかねえ。」
おじさんが笑う。
「いや、うちの神様はお稲荷様じゃないんだから、 祭りに狐が出る訳ないだろ。」
やっぱり笑う。
おじさん達のかけ合いをよそに、俺は呆然として集会所を出ていった。
「あ、いたいた。」
かけ寄る山田、手をつないでいる林と田中さん。
ああ、そうか。林の告白は成功したんだな。
俺がさっきまでのいきさつを話すと、3人ともゲラゲラ笑った。
「何だよそれ、ホラーの読みすぎだろ。」
馬鹿にされたようで悔しかった。
だから、夏祭りの翌朝。
ムキになった俺は、夏祭りがあったあの神社の本堂まで行ってみたんだ。
神社に着くと、神主さんだろうか。
着物を着たおじさんに声をかけられた。
「あ、あの時の迷子の君か!
ちょっと手伝って欲しいんだ。」
「はい?」
訳が分からないまま、おじさんに連れて行かれた。
「君、何かに化かされたのかも知れないよ。本当に。」
連れて来られたのは、本堂のすぐ手前。
目の前の狛犬が、明らかに1匹だけ変な方向を向いていた。
変な方向の狛犬の口には、何か赤いものがついていた。
それは、血のようにも、飴のようにも見えた。
B 石段を昇り、神社の本堂に行く
連れて来られたのは、本堂の前。
にぎやかな祭りから離れて、静かで暗かった。
人気もなくて、明らかに迷子が来るような所じゃない。
辺りを見回すと、狛犬の片方が台座から消えていた。
ホラー映画みたいな、異様な光景だった。
それでも、赤い浴衣の女の子はニコニコしていた。
「父様、兄様。ただ今戻りました!」
女の子が今日1番の声でハキハキと話す。
そして、無くなっていたはずの狛犬が、普段通りに戻っていった。
その光景にギョッとしていると、今度は本堂から低い声がする。
「まったく、お前はやんちゃで困る。
ほら、人間にお礼を言わんか!」
「ニンゲン、ありがとう!」
今度は、さっき戻った方の狛犬がお礼を言った。
狛犬が喋った…。
俺が呆然と立ちつくしていると、もう1匹の狛犬まで喋った。
「君、うちの妹にリンゴ飴まで買ってくれたんだね。
お礼に良いこと教えてやるよ。」
狛犬の口が、ニヤリと笑った。
「君、彼女が欲しいんだろう。
君の仲間の、紺色の浴衣を着た、背の高い女の子。彼女に告白してごらん。」
「あの子、君の事が好きだよ。」
もう1匹の狛犬は、噂話でもするかのように、楽しそうにそう語った。
「な…何適当なこと言ってんだよ。」
俺は焦ってしまう。
「考えてみなよ。
夏祭りに、わざわざ浴衣で来たんだろ。
あの子だって、好きな人に浴衣姿が見せたいんだよ。」
狛犬はケラケラ笑う。
狛犬の言葉に、俺は浴衣姿の山田を思い出す。
紺色に、花火の柄の浴衣。
背が高くてスタイルが良いから、カッコよさが際立っていた。
中性的なショートカット。
でも、うなじは華奢で、確実に女のものだった。
それから俺は、山田のことを異性として意識するようになった。
それからの事は、恥ずかしいから省略させてくれ。
――絶対に信じてもらえないだろうけれど。
これが、うちの妻との馴れそめだ。
今回も、シロクマ文芸部に参加してみました。
お題は「夜店から」。
