半世紀経っても、私は同じ曲へ戻っていく

それでも私は、同じ曲を何度も聴き、時には演奏している。
最近、自分でも不思議に思うことがあります。
私は、何十年も、同じ曲ばかり繰り返し聴いているのです。
新しい音楽が嫌いなわけではありません。若いミュージシャンの才能に驚くこともあります。しかし結局、気がつくとまた同じ曲に戻っている。
ビートルズやローリングストーンズ
クリームやレッド・ツェッペリンなどのブリティッシュロック
チャーリー・パーカーやルイ・アームストロング
オーティス・レディングやマービン・ゲイ
そして、Crosby, Stills, Nash & Young の『Teach Your Children』。
まるで古い友人に会いに行くように、私は何十年も何度もその曲へ戻っていきます。
なぜなのだろう。
最近、その理由が少し分かってきた気がします。
それは、彼らの楽曲が「真理」を突いているからです。
人間の奥底にある、言葉になる前の感覚。
理屈では説明できないが、人間なら誰でもどこかで感じているもの。
そういうものに触れている曲は、何十年経っても古びません。
逆に言えば、時代の空気だけで消費される音楽は、早く古くなる。
交換可能な社会
いまの社会は、効率を求めすぎています。
情報も、会話も、人間関係も、「交換可能」であることが前提になりつつある。
代わりが効くこと。
すぐに理解できること。
短時間で消費できること。
しかし、人間というものは、本来そんなに効率的な存在ではなかったはずです。
本当に大切なものほど、時間がかかる。
理解にも、沈黙にも、遠回りや迷子にも意味がある。
私は昔から、「希少性」という言葉を意識しています。
本当の希少性とは、単に珍しいという意味ではありません。
交換できないことです。
代わりが存在しないことです。
人格とは、本来そういうものだったはずです。
ところが現代社会は、人間をどんどん交換可能な存在へ変えていく。
効率化とは、別の言い方をすれば「代替可能性」の追求でもあるからです。
だから私は、ときどき強い違和感を覚えます。反感と言ってもいい。
みんな同じような言葉を使い、
同じテンポで反応し、
同じような情報を消費している。
しかし、人間とは本来、「ズレ」や「癖」や「間」を持った存在だったはずです。
ジャズのアドリブがそうです。
落語の「間」もそうです。
そして、CSN&Y の『Teach Your Children』もまた、その「間」を持った曲です。
「Why」を超えて
あの曲には、不思議な温度があります。
単なる反戦歌ではありません。
単なる親子の歌でもありません。
もっと深い、「共同主観」の歌です。
つまり、「理屈を超えて、互いを分かり合おう」という祈りのような歌です。
1970年という時代は、親と子が激しく対立した時代でした。
親世代は戦争を経験していた。
子世代はベトナム戦争に反発した。
お互い、自分の「正義」を持っていた。
しかし、この曲は、「正しさ」をぶつけ合うなと言うのです。
“Don't you ever ask them why”
理由なんか聞くな。
この歌詞を、私は昔から非常に印象的に感じていました。
若い頃は、少し不思議でした。
なぜ「why」を聞いてはいけないのか。
しかし歳を取って、少し分かるようになりました。
人間は、合理的な説明だけでは、分かり合えないのです。
むしろ、「なぜ?」を突き詰めすぎると、人は傷つけ合ってしまう。
戦争もそうです。
政治もそうです。
家族もそうです。
理屈は、時に人を分断します。
だからこの曲は、「why」を超えろと言っている。
ただ相手を見つめ、
ため息をつき、
それでも相手が自分を愛していることを感じろ、と歌う。
共同主観という感覚
これは非常に東洋的な感覚でもあります。
阿吽。
間。
空気。
沈黙。
言葉を尽くさなくても、分かり合える感覚。
私は、この曲の本質はそこにあると思っています。
親と子。
古い世代と新しい世代。
異なる価値観を持つ人間同士が、完全には理解し合えなくても、「共同主観」を持とうとする。
つまり、「同じ景色を見ようとする」歌なのです。
そして、それこそが、いまの社会で最も失われつつある人間性ではないかと思うのです。
いまは、すぐに「正解」を求める時代です。
しかし本来、人間関係とは、もっと曖昧で、不器用で、非効率なものだった。
だからこそ、人間には味があった。
晴れの日のように
私は最近、歳を取るほど、「晴れの日」が好きになりました。
理由はよく分かりません。
ただ、空が晴れているだけで、ありがたいと思う。
若い頃には、あまり意識しなかった感覚です。
同じように、同じ曲を何十年も聴き続ける理由も、完全には説明できません。しかし、たぶんそれは、その曲の中に「交換できない何か」が宿っているからなのだと思います。
人間の歴史。
苦悩。
愛情。
沈黙。
世代。
記憶。
そういうものが、あの美しいハーモニーの中には、静かに溶け込んでいる。
だから私は、何十年経っても、またこの曲へ戻ってくるのです。
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